第34話 ジーン ー貴族ー
私が落ち着きを取り戻し、ワカナの処遇を見損ねて悔しがっていると国王陛下とクラマ宰相が拡声器をもって会話を始めました。あれ? ゲームでこんなのあったっけ?
「これでソノーザ家は罪を暴かれ、過去に取り潰しや没落した家が冤罪だったと証明されたわけだ」
「国王陛下の言うとおりですな。それつまり、ここに居る証人のザンタ殿の家も冤罪だと証明されました。ザンタ殿の人柄と功績を考えれば、ミーク家の爵位を復帰させなければいけませんね」
「……は?」
ソノーザ一家がいなくなったのに何を言い出すのでしょうか? 残っているザンタさんも何か戸惑っていますね。この後のことを何も聞かされていないのでしょうが、あのお二人は何をなさろうと……?
「よって、国王ジンノ・フォン・ウィンドウがここに宣言する! 冤罪が晴れたゆえに、過去のミーク家の爵位剥奪を取り消し、ミーク家の爵位を辺境伯に戻すことを決定する!」
「「「「「っ!?」」」」」
「……え? ええ? ……じ、ジンノ……国王陛下ぁっ!?」
は、え? 辺境伯に戻すって言ったの? え、ええー!? そりゃあ、まあ、冤罪は晴れたのは確かだけど、ミーク家って今は男爵ですよ! それをいきなり一気に昇格って、何無茶言ってんの!?
よくよく見れば裁判所に残った誰もが驚いていました。しかも、王子様たちも驚いた様子を隠してもいません。どうやら、大人だけで考えて計画したようですね。王妃様なんか真剣な顔で陛下たちのことをも守っていますし。エンジ様も、「な、なんだこれは?」とか言ってますし。
「へ、陛下……何をおっしゃるのですか! 我が家のことをお考え下さったのであれば嬉しく思いますが、冤罪が晴れたからと言って爵位を返すなど前例がありません! こ、このような、」
当のザンタさんすらも証人席を飛び出して国王に訴えかけます。冷や汗を流した顔をするザンタさんの言い分だと前例がないとのこと。確かにこの国の歴史を学んだ私の知識にもこんなことはありませんね。ゲーム知識にだってなかったです。
「気にすることはない。今日がその前例になる。それだけだ」
わーお、すんごい軽く言いだしたよ。こういうのも王様っぽいのでしょうか?
「しかし、このようなことは大胆すぎます! ……冤罪が晴れたからと言っても時が経ちすぎました。今の私は自力で男爵に上り詰めたばかりです。今更、亡き父のような辺境伯を務めろなどとおっしゃられても周囲の反感を抱かれるだけ、それ以上にこのような決定を下した陛下御自身の立場が、」
「そういうことなら大丈夫だ。そもそも何も冤罪だったから、と言う理由だけではない。私はそなたの能力を買ってもいるのだ。平民に落ちた元貴族の身から信用が重視される商人として大成功を納めて我が国に貢献し、自力で男爵位を得るほどの手腕、未来の王妃になるはずだったサエナリアに信頼される娘を育て上げた教育能力。それらは男爵程度では過小評価に値する。私と王妃、それに宰相をはあじめとした文官たちはそのように判断したのだ。それゆえ、我が国のためにも、そなたには辺境伯に戻ってほしいということになったのだ」
「そんな……陛下……そのような……!」
体が震えて涙すら流すザンタさん。ここまで高く評価されると感動ものですよね。
……それにしても『未来の王妃になるはずだったサエナリアに信頼される娘を育て上げた教育能力』か。それも評価のポイントとしてカウントされたから爵位の復帰? だとすれば、これは私がサエナリアお嬢様にマリナ様と仲良くなるように仕向けたことが要因では? ということは私のおかげかも?
「そういうことですよザンタ殿。ソノーザ家という大きな家が取り潰された今、我が国の貴族間の勢力図は大きく変わることでしょう。貴方ならお分かりになるはずですよ」
「クラマ……」
確かに最低野郎でもベーリュ・ヴァン・ソノーザは大貴族です。その家がなくなった今、クラマ宰相の言う通り貴族間の勢力図は大きく変化、最悪荒れるでしょう。それを補うためにザンタさんを辺境伯に、か。これはいい手ですね。ゲームとは違ってクラマ宰相は結構有能なお方のようですね。
それに私達にも好都合です。ザンタさんはマリナ様の父君。つまりマリナ様の家が大きくなり、マリナ様も貴族令嬢として大きな力を得るということになりますね。マリナ様が貴族として強くなるのであれば、いざという時に私や平民となったサエナリアお嬢様の助けに繋がります。これは嬉しい誤算です。後はザンタさんが受け入れるかどうかですか……。
「今は一人でも有能で信頼できる貴族が必要なのです。また学生の頃のように頼りない我が君を助けていただきませんか、ザンタさん」
「…………」
学生の頃のように? そういえば国王陛下は学生の頃は生徒会長で、他の二人も生徒会に入っているのでしたね。っていうか国王陛下って「頼りない我が君」って言われるような人なんですか? そんなふうには見えないのですが。
「……二人とも、今の私でいいのか?」
「馬鹿野郎! 当たり前だろうが! むしろ俺達が戻ってきてくれと懇願してるんだよ! ……あの時の俺達はあまりにも無力だった! 大人の世界のろくでもない負の部分に負けちまった! お前個人に罪なんて無いって信じてたのに何もできなかった! ……お前が商人として成功したって聞いた時は深く驚いたし嬉しかったんだ。俺が王になった後、消息が分からなくて心配していたんだ。望むなら援助してやるつもりだったのに、平民になっても自力でここまで成り上がって……ああ、ちきしょう! もう何言ったらいいか分かんねえよ!」
……こ、これは、何と言うか、凄い光景です。国王陛下がザンタさんを抱きしめて、普段のレフトン殿下のような口調で思いをぶつけておられます。あれが巣の口なのですか。まるで熱血漢主人公のようなセリフを……。
「は、ははは、立派な国王になったと聞いてたけど、根っこのところは変わってないじゃないか……変な王族のままだったんだな……。これは心配になってきたじゃないか、しょうがない我が君だ……」
変な王族のまま。ある意味不敬を言われそうですね。そして、ザンタさんは笑顔でその場で跪いた。そしてその場で宣言します。
「ジンノ……国王陛下。私、ザンタ・メイ・ミークは国王陛下のご厚意を喜んでお受けし、辺境伯位に復帰します! 必ずや辺境伯にふさわしい功績を上げて陛下のお力になることを誓います!」
「ザンタ! よくぞ申してくれた!」
「ザンタさん!」
「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」
国王陛下は感激したのか、ザンタさんの肩をがっしり掴んだ。クラマ宰相も感激して涙を流し、王妃エリザベス様ももらい泣き。その姿を見た多くの人々が心を打たれました。もちろん私も。そして、盛大な拍手が始まりました。
そして、爵位の復帰はザンタさんだけではありませんでした。
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