第21話 ビースト ―次女―

またしてもワカナは二人の執事に捕まっています。思った通り、王太子の前で問題起こしたのでしょうね。


「ふっざけんじゃないわよおっ! 何が王太子よ! 礼儀だの気品だの細かいこと気にしてんじゃないわよ! 地味な女と最高の美を持つ女を取り換えられるというのに、後悔しろおおおぉぉぉ! ちくしょおおおぉぉぉ!」


ふふふ、問題発言ですよこれ。ソノーザ公爵家の醜聞には十分すぎます。仮にも公爵令嬢が王太子に向かって理不尽な怒りを叫んでいるんですからねえ。


「ムッキー、くそ、離しなさいよ! あの馬鹿王太子に文句言ってやるんだから! 目を覚ますまでね!」


「無理です……旦那様の指示です」


「抵抗すれば身だしなみが乱れます」


怒り狂うワカナは執事二人にも暴言を吐いています。聞くに堪えない言葉を聞かされる執事たちには同情します。半分は私のせいですしね。


「私に逆らうなら、お前たちはクビにしてやる! 私のような美しい女神に見捨てられるのよ、絶望するでしょ!? さっさと放しなさいよ!」


美しい女神? 冗談も大概にしてほしいですね。心がここまで醜いと証明し続ける女のどこが女神なのか、悪魔の間違いでしょうに。



そして遂に、あのバカ女は若いイケメンの執事に捕まえられて地下室に連れていかれた。ざまぁ。


ソノーザ家の地下室。ここは滅多に使われることがないため、ろくに掃除もされていません。なので、汚くて寒いです。そんな場所に馬鹿ワカナが放り込まれたのだと思うと笑いが込みあがりそうです。


「ムキーッ! ここから出しなさいよ!」


ガンッガンッ、という音が響く地下室から響くのは、公爵令嬢ともあろう者が鉄格子を蹴ったり噛みついたりする音だと誰が思うのでしょうね。普段のふるまいからして我儘で傍若無人。最低最悪。これがワカナ・ヴァン・ソノーザ、この世界で唯一の悪役令嬢です。ざまあ!


「何でよ、何で私がこんなことになるのよ! お父様は実の娘を何だと思ってんのよ! あの王太子もこの美しさの価値が何も分かってない! お母様は一体何してんのよ! 何で使用人も来ないのよ! 皆、皆役立たず! どうして私を怒らせるのよ!」


……まあ、確かに両親も問題あります。だが、周りに甘えるばかりで他人を思いやらなかった自分も悪いことが分っていない時点で救いようはないです。サエナリアお嬢様の名前を口にしないのがその証拠。


家族愛などない。それではもはや人ですらない、獣です。


「くっそおおおぉぉぉ! うわあああぁぁぁ! どうしてよぉぉぉ……どうして、この私が……こんな目にいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


悔しくて叫びますが、まるで獣のようです。いや、この女と比べては獣に失礼ですね。前世の知識によるものですが、獣とは大概動物のことで、その動物にだって愛はある。愛のないワカナは動物にすら劣ります。


「どうしてこんな目に、ですか。滑稽ですね。自業自得………そんなこと言っても分からないでしょうね、きっと。甘やかされて育てられるということは貴族として幸せではありません。むしろ致命的です。後々になって不幸になるだけです」


口にしますが、同情しません。サエナリアお嬢様にした仕打ちの数々を思えば、怒りと侮蔑の上司乾きませんので。


「さて、もうそろそろ王太子殿下が帰る頃でしょうか。上手く引き留めて仕込みを入れておきましょうか」


ワカナの醜態をその目で見てみたいと思って地下室に来ましたが、もういいでしょう。一度だけワカナの方を振り返って。


「獣のような愚かなワカナお嬢様、幸せな時間は終わりました」


私はトレードマークの度の入っていないメガネを外して、普段の私らしからぬ満面の笑顔でこう言ってやりました。


「さあ、地獄を楽しんでくださいね!」


ここで高笑いしてもよかったのですが誰かが聞いても怪しまれるので控えます。これからあのクズ王子を呼び戻してサエナリアお嬢様の部屋を見てもらわないと。


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