第3話『温もりの中で、私は眠る』
出撃した部隊は半日の時間を使い目的地に到着。
今回の標的は、王国へ進軍をする魔王軍の阻止、殲滅というものだ。
まず、敵情視察に私とラナが出向き、小高い丘の上で情報収集を始めた。
「アイナ様、如何なさいましょうか」
「そんな辛気臭せえ顔すんなよラナ。それに、隊長様はまたしてもどこぞの金持ちに求婚されたって話じゃあねえか」
「なんでその話が今でてくるのよ」
「そうですよ! ガルムさんはもう少し緊張感というものをですね――」
「だってよ、隊長はもう何もしなくたって良いぐらいにはちゃんと仕事してるし。なんなら、現場の指揮だって自分がやる必要はない。だろ?」
「……それには私も同感ですが」
ガルムが言いたいことは、大体わかる。
本来、聖騎士というのは王城などを守護するために居る者達のことを指す。
だから、私以外の聖騎士はこのように現場に足を運ぶことはかなり稀だ。
防衛の聖騎士、攻撃の勇者といったところ。
今頃、聖騎士の任に就いた彼女彼らは、貴族連中にチヤホヤされて惚けているに違いない。
当然、私にもその権利はある。
しかも私はこうしていくつもの功績を上げている、だからこそ、ガルムは私に休んで安泰を築けと言いたいのだろう。
だが、私の心はそれを良しとしない。
「でも、今はアイナさんが私達の隊長であり、一緒にいてくれる唯一です」
「確かにな。こんなお人好し、国中探しても隊長ぐらいしか居ねえ」
「そういうことです。今はそんな話をしている場合じゃありません。アイナさん、如何なさいましょうか」
「そうね――数こそは私達と同じぐらいに見えるけど、明らかに今までの敵とは比べ物にならないかもね」
「そうですね。武装歩兵に騎乗兵、飛行兵や指揮官のような者も見えます」
あの敵勢力に対し、今までのような戦術は通用しないかも。
だとすると、戦力集中より分隊での展開戦術が有力。
「うん、展開戦術にしましょう」
「でもそれってアイナ様が……」
「良いのよ。これが最も安全かつ敵の認識を一点に集中できるもの」
「……わかりました」
「ラナ、心配してくれてありがとね」
ラナは腑に落ちない態度で返事をした。
無理もない。この作戦は、普通に考えれば無謀としか言えないのだから。
だけど、私は普通ではない。私にはこの
「さあ、行きましょう」
隊に合流――作戦を伝達後、皆の反応はラナ動揺に煮え切らないものであった。
影が差したみんなの顔。ガルムは、それを晴らすように冗談を交じえつつ陽気な感じで説得してくれた。
その甲斐あって作戦を飲み込んでくれた皆は、表情が次第に明るくなり始める。
「みんな、常に仲間の位置を確認しつつ戦ってほしい。そして、命の危機を感じたら必ず戦線離脱してほしい」
「ははっ、一番危険な役の人がよく言うぜーっ」
ガルムが茶々を入れることによって、みんなの顔の緊張は既になくなっていた。
「ただ逃げる訳では無い。ここは最前線だ、再戦する機会は後にもある。だから、逃げる時は思う存分に全力で逃げてほしい」
気迫のある返事など返ってこなかった。腹から声を出してみんな笑っている。
真面目に振舞っていた私も表情が緩まずにはいられなかった。
作戦会議は終了。分隊は迅速に各方面へと散開していく。
今この時、この場には私一人。
敵軍の進路で私は目を閉じ――呼吸を整える。
地響きにも似た複数の足音、木々が薙ぎ倒れる音が響き渡ってくる。
時は来た。
視界に敵影を確認。先頭は武装歩兵のオーク、大盾に片手槍。兜の頂きには赤羽――突撃隊長。
敵もこちらを確認した模様。姿勢を低くして盾を前に構え、戦闘態勢に。
私は、音静かに抜刀。
「さあいくわよ、ミリディス。力を貸してね」
姿勢を低くし、剣の持ち手を引き、剣先に左手を添え敵に向ける。
そしてただ一言、唱える。
「輝き穿て、ミリディス!」
そう唱えた瞬間、剣先から敵に向かい赤く煌めく閃光が走った。
人間サイズのオークは未だ臨戦態勢。
状況を理解できないオークは攻撃を察知することすら叶わず、上半身が吹き飛び死滅。
この様な出来事を敵軍が察知しないはずもなく、大地が揺れる程の足音は加速し接近し始める。
一対複数、絶望的状況。だが、これは作戦通り。私が戦闘を開始すれば仲間が多方面からの攻撃開始。
あまりにも上手くいきすぎて、私は一度だけ鼻を鳴らした。
『ぐるあぁぁぁぁ!』
『ぐがぐががうう!』
敵軍が視界一杯に現れるのに時間は掛からなかった。
「共に踊ろう、咲き乱れ――」
剣を正面に剣身を縦に、唱えた。
赤光する花弁が体の周りをゆらゆらを揺れ、はらりと舞い続ける。
考え無しに突撃してくるオーク部隊は光に触れ、武器が、指が、腕が千切れ落ち肉塊の山ができていく。
痛みから悲鳴を上げつつ闇雲に攻撃する様は、泣き喚き地団駄を踏む子供のよう。
無数に咲き散る花びらは、非情にも触れた敵を次々に切断していき、敵の攻撃が私に届くことはない。
次々に肉片を作り続ける光景を見て、異変に気付いたようだ。残りの敵部隊は後退し、距離を取って態勢を整え始めた。
これでいい。時間を稼げればみんなが包囲する。
だが何かがおかしい。そろそろ分隊の一つでも合流して良い頃のはず――。
「隊長! 作戦失敗です! 逃げ――」
「っ!」
隊員の一人が警告を伝達。だが忠告虚しく、引きずられ森へと消えていく。
私はすぐに駆け寄ろうとしたが、進路を塞がれてしまった。
そして私は異変に気付いた。明らかに数が増えている。そう、偵察時の倍以上に。
このまま敵を引き付けていても意味はない。こんな事態となっては、より多くの敵を討伐し、みんなの逃げる時間を稼がなければならない。
「許さない。許さないぞ。お前ら、全員葬ってやる! ――共に狂い踊ろう、ミリディス!」
数百、数千もの光り輝く花弁が躍り散る。
切り裂く対象は魔物だけではない。木々や地面をも切り裂き塵と化す。遠方に構える敵軍にも、花びらは容赦なく襲い掛かっていく。
だが、攻撃は遠隔攻撃も可能だが目視できる範囲に限る。
このままでは生存者の確認は愚か、残りの敵数も確認できない。
この状況を打開するにはどうすればいいのか……。
自らの非力さに苛立ちを覚える。
剣を握る手には震えるほどの力が入り、血が滲み出るほど唇に歯を立てていた。
喉が枯れるほど叫び、視界に入る敵をひたすら切り刻んで進む。
「うわあ――あ――あーっ!」
走り続け息切れを起こし、足を止めた。口内には血の味が広がっている。
荒げた呼吸を整え、再び走り出そうとした時だった。突如、空中に白光の柱が立ち始めた。
その光景に見惚れている暇はない。次に数十本もの白光が至る所で立ち始める。
だが、私はこの光景に驚きはしなかった。何故なら、私は知っているからだ。これは彼の――。
「アイナ、大丈夫か!?」
光の柱が消えた直後、茂みから一人の男が飛び出し駆け寄ってくる。
そう、彼が白光を発生させた張本人。
「クディア……」
力尽きた私はその場に崩れ落ちる。
だがクディアが駆け寄り、優しく抱き締め支えてくれた。
「――もう大丈夫だよアイナ。後は僕に任せて、一旦休むんだ」
その言葉に安堵し、温もりの中、私は眠るように意識を無くした――。
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