古の英雄の伝説
人々の泣き叫ぶ声が聞こえる。
どこかで獣が咆哮し、直後に断末魔が響き渡る。
あちらこちらから火があがっており、かつての平穏な村の面影はもうどこにも残っていない。
村の上空にいる怪物が一声吠えると、地面がグラグラと揺れた。
奇跡的に生き残っている村人たちは、絶望の表情で灰色の空を見上げる。
漆黒のドラゴンが口を開いて炎を吐き、ひと際大きな火柱がたった。
硬い鱗でびっしりと覆われた体は返り血で染まっており、尖った突起が無数に並んでいる。ボロボロの翼は先端にいくにつれ色褪せていて、その縁はカミソリのように鋭くなっている。
その黒曜石のような瞳には、哀しみとも苦しみともとれる感情が浮かんでいた。
ドラゴンの背中に乗っている人物が何かの指示をすると、ドラゴンは長い棘がついた尾を鞭のようにしならせた。小さな竜巻が生じ、村の建物が破壊される。
そこはまさに、地獄だった。
それでとどまることなく、ドラゴンは再び大きく口を開いた。
黒色をした巨大な火の玉が、村に向かって放たれる。
火の玉が村を焼き消そうとしたその瞬間、白銀の閃光が走り、火の玉を吹き飛ばした。力強い咆哮が聞こえ、大地を震わせる。
新手の勢力に目をやった人々は、一瞬にして希望に満ちた表情に変わった。
星空のような色をした小柄なドラゴンが、一瞬にして漆黒のドラゴンの前に移動する。
「クレイス=ドラゴンが来た! ドラゴンの祝福者だ! これでみんな助かるぞ!」
星空のドラゴンに乗った、クレイス=ドラゴンと呼ばれた人物が剣を掲げた。
星空のドラゴンが、漆黒のドラゴンに語りかける。
「愛しき同胞よ、汝の苦痛は我らが終わらせよう」
白銀の牙が灰色の空に踊り、怪物は苦しみから解き放たれたかのような叫び声をあげながら落ちていった。
漆黒のドラゴンに乗っていた人物はすぐに逃げ去ろうとしたが、クレイスがその先に立ちふさがる。
「パルンの国民を傷つける者は、この僕が許さない」
あっという間にその人物の心臓を剣で一突きし、村には以前の平穏さが訪れた。
クレイス=ドラゴン。
パルン王国初代国王の盟友にして、歴代最強の祝福者。
初代国王と共に王国を建国した後、戦いで負った傷を癒すためキューレに向かった。
――彼は、王国建国から数百年の歴史が流れた今も、生きているとされている。――
ドラゴンソウル1 白銀の湖 @hoshihuri
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