荒野に出汁が香りまする。

龍斗

麺妖

 まったく、文明開花の大騒ぎも大昔になっちまったってのに、いまだにあやかし、あやしい話が後をたたねぇってのはねぇ…


 あ、申しおくれました。私、鉄って言うケチな物書きでして。この日の本の国を、今日は東明日は西へ気が向きゃ北へフラリと南へ、不思議なことありゃ、どこでも参上いたしております。

 今はからっ風に誘われて、下野国あたりをフラフラしてましたら、こんな寂しいところへ迷いこみまして。辺りは背ばかり高い枯れススキばかりの野っ原だ。しかも、雪までチラつく始末。

 ええい、さっさと宿でもとって、熱燗でキュッといきたいねぇ。とはいえ、こんな野っ原じゃあ、店なんてねぇし。こんなところはさっさと、おさらばして…と…


 ありゃなんだ。


 こんな寂しい場所にうどん屋かい…『』って。

 それになんだか賑やかなお囃子が聞こえてくるじゃあねぇか。あの若旦那、景気良さそうに丼なんか振り回してやがるよ。それに何だい、あのキラッキラしたレトロな車…って、おいおいおいおい!バカでけぇ顔がついてやがる…寒さのせいで、わたしゃ、どうもヤキが回ったかね。


 それにしても、この匂い。こっりゃあ、相当いいところのお出汁香りだぁ。ああ、それにしても寒い。早くうどんか蕎麦でも手繰りたいねぇ。

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