より当世風に
シヨゥ
第1話
「やっぱり金は大事だよな」
「いきなりどうしました」
「いやね。この不景気の世の中で求人を出しているというのに人っ子一人応募してこない。そんな状況をみて、思うわけよ」
社長が大きなため息をつく。
「求人情報に人を寄せ付けない悪いところがあるのでは?」
「ないない。給与面以外は大手とほぼ同水準」
「実態が伴っていないのでは?」
「それは……あるな」
「それが噂になって、みんな応募を控えているのかも」
「でも働いてみてどうよ。親父が亡くなって、俺の代になって労働環境もだいぶ近代化したと思うが」
「たしかにあの頃と比べたらだいぶマシです。でもまだそのレベルなんです。それに今から入ってくる人たちは過去を知らないから比べようもない。今の環境がすべてなんです。僕はこの工場の歴史と、オッチャン達の技にひかれて残っていますが……」
「それがなかったら大手の求人を選んじゃう?」
「それはもちろん」
「正直だね~いいよ~」
僕の即答に傷ついたのか目端に涙を浮かべつつも社長はそう茶化す。
「まずは求人情報を目標に実態を改善するところから始めましょうよ」
「それしかないか。もう切る身銭もないというのに」
またまた社長から深いため息が漏れる。
「そういうこと言うから悪いうわさが流れるんですよ。何事も前向きに。暗い場所に人は集まりませんよ」
「正論ばかりを並べないでくれるか」
「傷ついてもらわないと改善しようと思わないでしょうが」
強めに言うと社長が少し小さくなったように見える。
「とりあえず頑張りましょう。」
「そうだな。あの頃のように我武者羅に頑張れば道も開けるか」
「その意気です」
社長がその気になりやる気を滾らせ始める。こうなればあとは勝手に転がりだすのを待つだけだ。
個人的にはけしかけるだけけしかけて何も具体を示せていないのがちょっと心残りではある。ただこれ以上余計なことを吹き込むのはいらぬ雑念を起こさせるようで気が引ける。若輩者は若輩者なりに変化に対応し、成り行きに身を任せていこうと思う。柔軟性。それが若者の特権だから。
より当世風に シヨゥ @Shiyoxu
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