『ラストめん』

やましん(テンパー)

『ラストめん』


 『これは、フィクションです。暗いです。ごめんなさい。』


 




 理屈なんて、わからない。


 何かの、巨大なエネルギーに巻き込まれたらしい。


 そうしたSFは、いくつもあったような気がする。


 でも、時間をぶっ飛んでしまったなんて、あるわけがない。


 あるわけがない、が、ここはなんだろう。


 山の形。


 どうも、同じ場所だと、断言はしにくい。


 しかし、向こうに見える長い裾野の一部は、半分以上、上側がなくなった富士山みたいである。


 が、海が近すぎる。


 裾野は、そのまま、すぐに、海になだれ込んでいる。


 ぼくは、たしかに、富士山のそばに来てはいた。


 しかし、街らしきものはなにもない。


 道路はないし、線路もない。


 建物もない。


 つまり、文明の産物のようなものは、何も見当たらない。


 電柱ない。


 地下に埋まってるか、必要なくなったのか。


 飛行機は飛ばない。


 鳥も飛ばない。


 なんだろう。


 荒れ果てた、でこぼこの広野だけが広がる。


 上側が吹き飛んだようなその山は、しかしながら、煙も上がらない。


 植物も、見当たらない。


 いやいや、何かあるだろう。


 と、思いながら、歩く🚶。


 地面をおおっているのは、溶岩か、火砕流とか、の流れたあとかしら。


 ぼくは、地質は、良くわからないが、桜島とか、浅間山とかの周囲で、ちょっと似たものを、見たような感じもある。



 なかなか、歩きにくい。


 というか、歩ける場所は少ないな。


 肩から下げた鞄の中には、たまたま、コンビニで、さっき、買ったばかりの、栄養食品と、スポーツ飲料のペットボトル二本。


 都市伝説的なものにしては、あまりに、でっかすぎだし、はっきりしすぎだ。


 あ、スマホがあるな。


 けれど、作動はしているが、外部とはつながらないなあ。


 ポケットラジオも持ってるよ。


 あらまあ、雑音しか拾わない。


 中波放送、FM放送、みな、だめ。


 短波放送も聞こえない。


 夜になったら、違うかも。


 エアバンド、反応なし。


 FMアマチュア無線、入らない。


 ぼくの鞄は、魔法の鞄みたいなんだ。


 手帳、ぺん。懐中電灯。


 ハンディ・トランシーバーもあるぞ。


 資格も持っているよ。


 430のメインで、呼び出してみる。


 『メイン失礼します。CQ、CQ、こちら、JK……………。お聞きの局ありましたら、どうぞ。』


 応答なし。


 『繰り返します。CQ、CQ、お聞きの方、ないですか、どうぞ。』


 少しずつ場所を変えながら、繰り返したが、反応なし。


 ツーメーターも、出してみるが、やはり、反応なし。


 『あらまあ。こおれは、まいった。』


 何が起こったのかわからない。


 ぼくは、久しぶりに、新幹線利用で、富士山の近くまでやってきた。


 適当に歩きながら、コンビニにも寄った。


 変わったことはなかった。


 ICBMが、飛んで来そうな話もなかった。


 富士山や、箱根が噴火しそうだとも、聞いていない。


 ぶっひゃー。


 なんなんだ。


 お薬の飲みすぎかい。


 幻想かしら。


 座ってみます。


 ……………


 風が吹いて行くだけだ。


 ねこもいない。


 わんも、いない。


 虫もいない。


 最強の、ごきも、見当たらない。


 だいたい、相変わらず、道もない。


 空は、不気味なくらいに、淡い、薄い、青空だ。


 雲らしき、はっきりした物体がない。


 反対側は、だから、すぐ、海がある。


 船がいない。


 港もない。


 なんにも、見えない。


 なんだか、じわっとしたものが、こみあがってくる。


       ✴️


   夜が来た。



 薄曇りみたいな、怪しい、真っ暗な空に、でも、星が一杯、広がる。


 ドリンクは、あと、一本にになった。


 倹約しなくては。


 ビスケットは、少しずつたべる。


 期待したラジオは、まるで、入らない。



 いつの間にか、寝た。


 寒くも暑くもない時期だから、凍死したりはしなかった。


 獣が出るかと、心配したが、まるで、出ない。


 幽霊さんも、出ない。


 蚊さんも、出ない。




 翌日、川を見つけた。


 ガタガタだが、歩けないこともないから、可能な限り、遡ってみよう。


      


      ・・・・・・・・・



 川を遡って行けるのは、ここまで。


 この先は、断崖絶壁だ。


 なんだか、まったく、意味不明で、どうにもならない。


 川には、お魚の姿もないが、木の枝、一本落ちてない。


 ぼくは、サバイバルなんか、学んでいないが、そもそも、何かが居たりするから、サバイバルだって成り立つのだろう。


 ラジオも、スマホも、無線機も、反応なしのままだ。


 何もない。


 何もいない。


 何も、飛ばない。


 だれも、いない。


 

     ・・・・・・・・・・



 ぼくは、すごいものを、見つけた。


 崖っぶちの、ちょっと引っ込んだ場所。


 小さな祠があった。


 崖には、文字らしきものが、彫り込んである。


 なんだか、目が薄くなっているが、なんとか、読めた。


 『20⚪⚪年、宇宙に激震。地球大崩壊。すべてが終了す。過去にまで、影響した可能性あり。もはや、自分の他、なにも見当たらず。川にながる。さいごのひとつを、託すものなり。』


 地球大崩壊?


 20⚪⚪年って、まだ、来ないだろ。


 祠の奥に、小さな扉がある。


 手を合わせて、開いてみる。


 そこには。



 そこには。


 かっぷめんが、祀って、あった。


 

   ・・・・・・・・・

 



あとがき



 いつか、明る〰️〰️い、楽しいお話を書きたいなあ、と思いながら、思いっきり、暗くなりました。


 かっぷめんとともに、託します。


 あとは、川にながる。


 



・・・・・・・・・・・・・・・・・



注) 1 『430』(ヨンサンマル) =430メガヘルツ帯の周波数を使う、アマチュア無線。


注 2  『ツーメーター』 =144メガヘルツ帯の周波数を使う、アマチュア無線。波長が約2メートルだから。

 


 

 


 


 

    


 


 


 

 


 


 


  


 


 

 

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『ラストめん』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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