第2話 事件は大使館で起きている

「柊 捜査官、ライリー 捜査官 至急合同本部へ」


どうやら仕事の時間らしい。2人で本部へと急ぐ。

合同本部とはいうもののどうやら、名前だけの合同本部だ。

実際は軍本部であった。事件が事件だけにしょうがないと言えばしょうがない。

アダムス大尉が奥に見える。ほか数名の捜査官、情報分析官が席を並べて任務にあたっている。


「柊 捜査官、ライリー 捜査官 到着しました」


最奥から足早にアダムス少佐が近づいてきた。


「柊、久しいな。君がライリーだね!」


「はいっ。イザベラ・ライリー捜査官であります」


「あはは。君の父上には私も柊もたくさんお世話になった。そんなに堅苦しくしないでくれよ」


当然、ライリーのことも調査済みというわけか。


「早速本題に入ろうか。消防、警察の協力もあり、消火がほぼ完了した。よって大使館内の詳しい捜査が可能になった」

「復元した爆発直前の監視カメラホログラムから、複数の大使館職員と思われる数名を確認済みだ」


ホログラムが流れ、確かに複数名確認できた。顔はカメラで確認できず、人物特定はできそうにない。


「そこで君たちには分隊を率いて大使館内部の捜査および、人命救助にあたってもらう。以降任務コードは19223とする。任務詳細は大使館内マップと併せてすでに送ってある。分隊はこちらですでに編成、必要な装備は裏に用意してある。06:25大使館正面玄関に集合の後、任務開始。なお、現場指揮は柊に一任する。質問がなければ解散とする。何かあるか?柊 捜査官」


こんな状況で生存者がいるのかという疑念を見透かすかのように真っ直ぐな視線を向けられる。


少し間を空けてから答える。


「いえ、ありません」


「では解散。以上」


合同本部を後にし、ライリー捜査官とともに任務詳細を確認しながら、

装備を整える。

アサルトライフルに多段階炸裂グレネードとかなりの重装備である。

外にはドロイド3分隊と小型ドローン複数機も待機している。

この光景は紛争時代を思い起こさせ、脳裏に嫌な記憶が浮かぶ。


「柊 少尉捜査官、顔色がよくないようですが大丈夫ですか?」


「ああなんでもない。朝飯を食べ損ねただけさ」


「そうですか...」


最後に防弾仕様のジャケットを羽織り、気を引き締める。


「さぁ時間だ。行こうか」


大使館正面へと急ぎ足で向かう。


--


「06:25 任務コード19223開始」


まずドローンを全機投入し、各部屋の生命反応と様子を一部屋ずつ調べていく。


受付、生命反応なし。

応接室、生命反応なし。

事務室、生命反応なし。

備品室、生命反応なし。

大使執務室、生命反応なし。


これで全部。やはり生命反応は無し...。無理もないこの惨状だ。映像として映し出されるのはばかりだ。


「HQこちら柊、任務19223フェーズ2開始。ドロイド分隊を先行させ、大使館内へ突入を開始する。」


やはり直接確認する必要がある。


ビニールの焼けた焦げ臭いとススのにおいが辺りに充満している。人が生きているとはとても思えない光景である。ありとあらゆるものが爆発によって壊れ、原形を残しているものは何一つとして見当たらない。


とくにこのあたりの損傷が一段と激しい。


「コロン、MRで周囲10mを復元開始」


ドローンの収集した飛び散った破片や監視カメラの映像などを元に爆破直前を再現構築していく。どうやら爆心地グラウンド・ゼロはやはりこのあたり、ちょうど応接室があったエリアだ。


「コロン、ここ1週間で応接室に入った人物を全員調べてくれ」


「了解いたしました」

「結果、52名が該当しました」


「彼ら全員の経歴を調べて怪しい人物をリストアップしてくれ」


「了解いたしました」

「残念ながら、怪しい人物は確認できません」


「分かった。なら全員分の人物データをすべて表示してくれ。自分で確認したい」


「了解いたしました」

「こちらになります」


複数名の人物データを流し読みしながら不自然な箇所がないかチェックしていく。これだけ多いと時間がかかるが...。


「柊 少尉捜査官 こちらに何か反応があります」


「了解、そちらに向かう」


別動隊のライリー捜査官の報告で大使執務室に向かう。大使館の一番奥に位置し、壊れかけ半開き状態の自動ドアとススで汚れ少し傾いたグラント大使のプレートが見える。他のエリアと比べればまだ損傷が小さい。爆破位置が遠かったのが理由だろう。


「こちらに、マップにはないドアがあります」


「非常用の隠しドアか。セキュリティ上地図には書いてないわけか」


「セーフティルームというものですねきっと」


ドローンではドアの向こうは確認できない、一切のスキャンが使用できない。つまり特殊合金製か。


「こちら西アメリカ軍捜査局、柊 捜査官です。誰かそちらにいますか?」


ドアに向かって呼びかけてみる。


やはり反応はない。これだけの厚みだと聞こえていないか。

スイッチやセンサー等は見受けらず、厳重な造りとなっている。


「001a、 ドアを開けろ」


軍特殊任務用ドロイドにはドアや壁破壊を目的とした装備が搭載してある。


「ドアの破壊命令確認致しました」


ドアの四方に爆発剤を塗りつけていく。


「準備完了しました。危険ですので2m以上離れてください」


すぐさま奥の机に身を隠す。


「カウントダウン開始 5 4 3 2 1」


すさまじい破壊音とともにホコリとススが一面を覆う。


「破壊完了。命令の遂行を完了しました」


ドロイドを下がらせ、ドアをゆっくりと開ける。

もう1つドアが見える。

内部の電気系統は生きているらしく、2つ目のドアは自動で開いた。


空調が動作しているらしく、やや暖かい風がこちらに流れてくる。


「こちらは西アメリカ軍捜査局、柊 捜査官です。誰かいますか?いたら返事をしてください」


部屋は鈍い赤色の非常灯の光のみで薄暗い。光が壁や床一面に散乱し不気味さを感じさせる。奥はかなり広い。なにやら医療用の端末が壁に備え付けられ、棚には薬品や注射器などが見受けられる。ここはなんだ?シェルターというわけではなさそうだ。


ドロイドがライトで遠くを照らす。かすかに人影らしきものがひとつ確認できる。部屋の角にうずくまっているようである。どうやら部屋は行き止まりのようで、バックドアは見当たらない。


「大丈夫ですか?助けに来ました。今そちらに向かうので待っていてください」


返事はない。動きも確認できない。


「HQ こちら柊、生存者を1名、大使執務室隠し扉奥にて発見」

「コンタクトを開始」


「了解、最優先で確保せよ、オーバー」


さらに奥に進む。

やや小柄か。子供なのだろうか?座っているため推測だが身長は160cm程だろうか。ややさせ方。髪型は短い。 顔を膝に埋めていて表情は分からない。


「安心してください、今助けますから―」


触れようとした瞬間、彼いや彼女か、いやそんなことはどうでもいい。深紅の両目がこちらを睨んだと思ったら束の間、私の右腕に咬みついた。軽くを突き破り、すら今にも噛み切らんとする勢いである。


「柊 少尉捜査官!!」


緊張が分隊に走り、全員がトリガーに指をかける。


「全員、武器を下ろしてくれ、俺なら問題ない」

「これは命令だ、ライリー捜査官」


彼女の合図で分隊の全員の銃口が下がるのを確認する。


「全員そのまま退却してくれ、俺が対処する」

「命令だ」


全員がライリーとともにゆっくりと来た道へと引き返していく。


彼らがドアの向こうへと消えていくのを確認してから、優しく話しかける。


「もう大丈夫だ、怖かっただろう。私は柊ツバサだ。よろしく」


しゃがんで話しかける。


少し落ち着いたのか、腕から口が離れる。2歩3歩と後ろに下がりまたうずくまる。


「名前を教えてくれないかな?」


私の問いに答えようとしないものの顔をそっとあげ、私の右腕を眺める。

ゆっくりと腰を下ろして、私も右腕にそっと目を移す。


右腕をさすりながら

「気づいたかな?右腕は義腕なんだ」

「紛争の時に腕を失ってね、その名残」

「だからさっきのも痛くもない、何も気にしないでいい」


我慢できなくなったのか、彼、もしくは彼女の口が動く。


「なんで義腕なの?再生すればいい」


「そうだなあ」


視線を天井へとむける。

腕を失った時の痛みと苦しみ、怒りが複雑に混ざり合った感情が胸に広がる。

言葉を選んで答える。


「自分への戒め、かな」


そっと視線を戻す。


「それに...かっこいいでしょ?」


「別に」


興味を無くしたのか、あるいは元から興味がなかったか、また下を向いて黙り込んでしまう。


「名前...聞かせてくれないかな?」

「私はひいら―」


遮るように、口を開いた。私の目を赤い両目で見つめ返す。


「柊 ツバサ 、WAIAの捜査官、右腕が義腕の男」

「ルビー ルビー・ブルーム」
























 



























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