Shouts

怒ゲンドウ💢

第1章

大使館テロ事件

第1話 朝日を見て、目は覚める

「おはようございます。ツバサさん。今日は2308年6月22日金曜日、6時00分、睡眠時間5時間23分、現在体温36.7℃、睡眠発汗量782ml、血圧128.8/78.5mmHg 、ノルアドレナリンとドーパミン量が増加しています」


 左手に埋め込まれた内蔵型デバイス"レイク"からの振動とボイスで起こされる。代り映えしない朝の空気、代り映えのない単調な天井、いつもの長たらしい次世代型人工知能"コロン"の挨拶。


「コロン、カーテンと明かり」


 ベッドから起き上がり、奥のキッチンへと向かう。


「了解しました。カーテンを開きます。部屋のライトを付けます」


 ドリンクサーバーに飲みかけのコップを置く。


「ご飯は?今日は日本食がいいんだけど」


 画面に触れる、水がコップに注がれていく。


「日本食ですと人工鮭を使った焼き魚定食、培養肉の醤油炒め、オーガニックそばから選べますもしくは―」


 コップを片手に、古ぼけたソファに腰掛ける。


「おすすめは?」


 朝日を眺めながら、コップに口をつける。乾燥しきった唇に水が触れる。身体全体に徐々に冷たさが染み渡る。


「焼き魚定食ですね。製造法がリニューアルされて前までの人工鮭と比べて28パーセント本物に近づけることに成功したそうです」


 本物の鮭と言われたところで食べたことのある人などいないのだが。"本物"という言葉につい惹かれてしまう。


「じゃあそれで頼む」


「かしこまりました。焼き魚定食、生成完了時間は3分24秒となります」


やはり日本食や中華は生成に時間がかかるか。仕方がない。

レイクに触ると、MR(複合現実)世界に切り替わる。

瞬きをする間もなく、デジタル世界の街”エデン"が読み込まれる。

すると緊急通知が鳴り響く。

ー新東アジア解放軍"レギオン"、オラクルズへの宣戦布告と同時に西アメリカのオラクルズ大使館への爆破テロ発生。繰り返します――


「コロン、MRオフ」


「かしこまりました。MRをオフにします」


ソファから立ち上がり、洗面所へと急ぐ。


「スーツを」


「かしこまりました、お持ちします」


コロンがスーツを運んでくる間に顔を洗い、歯を磨く。

こんなことならサンドウィッチにでもしておけばよかった。


「スーツお持ちしました。」


手早く歯磨きを済ませ、着替える。


「コロン、朝飯は冷凍しておいてくれ」


玄関へと急ぐ。


「かしこまりました、冷凍にしておきます」


履きなれた革靴を履き、扉に触れる


「いってらっしゃいませ」


ウィーン


ドアが開くとともに世界が開ける。


ウィーン


眩しい。透き通った空気、いつもと変わらない。

足早に駐車場へ向かい、スカイに乗り込む。


「コロン、オラクルズ大使館へ直行してくれ」


「かしこまりました、オラクルズ大使館へ向かいます。到着予定時刻は6:12です」


スカイがゆっくりと静かに浮き上がる。方向を変えながら飛び立つ。

再びエデンに入ると西アメリカ軍捜査局本部からの通知が届く。


ー柊 上級捜査官、緊急出勤命令 (06:04)

06:02新東アジア解放軍"レギオン"がオラクルズ大使館を爆破。至急現場へ直行せよ。現場指揮はアダムス少佐が務める。以上。


「コロン、コード:0089 ひいらぎツバサ 飛ばしてくれ」


「かしこまりました コード:0089 柊ツバサ捜査官 階級:少尉 認証 制限速度解除、到着予定時刻06:07に修正」


座席がやや傾くとともに、固定用のベルトが伸び、全身が自動で固定される。


ヴゥウウウウン


徐々に加速していくのが伝わる。何歳になってもこればかりは慣れない。

すきっ腹だからマシなものの、朝食べていたらどうなっていただろうか。

最高速度はマッハ3.1、民間用としては最高レベルなだけはある。


ヴゥーーン...


徐々に減速していくのが分かる。座席が戻され、ベルトが外れる。


「まもなく、オラクルズ大使館上空に到着します。」


辺り一面瓦礫と炎であの"現代のパルテノン神殿"と呼ばれた大使館も今では残す影もない。

空も地上も消防、警察、軍、マスコミ車両で混雑している。

すでにマスコミ各社もドローンをまわしているようである。


スカイが地上に着陸し、ドアが開く。


すぐに左から誰かが駆け寄ってきた。


「柊 少尉捜査官 おはようございます。」


「ライリー おはよう。 でいいってば」


ライリー上級捜査官である。代々続く軍家系であり、彼女の父親は私の元上官である。現在は私の直属の部下として共に捜査任務にあたっている。


、現在消防、警察と連携して消火活動と人命救助にあたっていますが、鎮火にはもうしばらくかかるかと思います。」

「報道規制を今しがた行い始めたところです」

「また、在西アメリカグラント大使の安全は自宅にて安全を確認済みです。すでに警備を手配済みです。」

「さらに、監視カメラホログラム映像を確認中ですが今のところ怪しい人物等は確認できていないとの報告が上がっています。」


24歳という若さで上級捜査官、名家であるとはいえ優秀である。


「状況報告、ありがとう。アダムス少佐はどちらに?」


「まだ来ていませんが、もう間もなくいらっしゃるかと」


「そうか、ありがとう」


レオ・アダムス...アメリカ紛争の元同期、功績が称えられ異例の2階級昇進。

以降も軍内部のクーデターを摘発、西アメリカ大統領暗殺阻止などが称えられ今では少佐。本部が彼を今回の現場指揮に抜擢したのも過去の功績があってのことだろう。


辺りを見回す。

他の捜査官も何名か確認でき、各機関関係者とともに活動にあたっている。

捜査局指揮下の治安制圧部隊のアルファチームとベータチームが大使館周辺を警備している。空には複数の警備ドローンが大使館を取り囲むように飛んでいる。その手前でマスコミのドロイドとドローンが大使館テロを報道している。情報規制は間に合っていないようだ。


すると東の空から軍専用陸海空戦闘車両"オーディン"が3台陣形を組んでこちらに飛んでくるのが見える。


"オーディン"北欧神話の全知全能の神が由来とされる。名にふさわしくアメリカ紛争時はめまぐるしい戦果を挙げており、敵は名前を聞くだけで戦々恐々したと言われ、1台で1陸空戦車部隊を撃破したという逸話もあるほど。味方の我々ですら畏怖するほどの存在感である。


ゆっくりとスカイの2倍はあろう巨大な車両が降下し始める。

軍関係者一同が足早に挨拶に向かう。私も例外でなくやや遅れて向かう。

彼女は私が空を見上げている間にすでに向かっていた。


ドアがゆっくりと開く。

緊張が辺りに広がる。


「アダムス少佐到着、全員敬礼!」


「おはよう、諸君」


ややくだけ気味の敬礼を返しながら一人一人に声をかけている。

相変わらず、爽やかである。とてもではないが軍服と功績は彼にはとても似合わない。

せいぜい高級スイーツ専門店のパテシエが彼にはお似合いであろう。


こちらに気づき小走りでこちらに向かってくる。


「柊~ 今は なんだって?すごいじゃないか!」


「アダムス少佐、お久しぶりです。少佐に言われましてもあまりうれしくないと言いますか....。」


「おいおい、堅苦しいな柊!ツバサのほうがいいか?」


「いえ、柊でお願いします。後ろもつかえてますのでここらへんで失礼します」

「では後ほど」


「あははは、もうやだなあ。まあでもそうだよね。分かったまた後で」


敬礼をし、やや逃げるようにすぐさま下がる。


「柊少尉捜査官! アダムス少佐とお知り合いだったのですね!」


ライリー捜査官にすぐさま話しかけられる。タイミングが悪い。気まずい。


「だから捜査官でいいってば。 軍時代の同期だったんだ。話していなかったか。」


「はい。初めて伺いました。まさかあのアダムス少佐の元同僚であったとは驚きです。」

「そもそも少尉捜査官、あまり紛争時代の話されませんし...」

「にしても、なんというか....」


「どうかした?」


「いえ、アダムス少佐は柊少尉捜査官に対してはとてもオープンに話されるので....」


「昔からあんなもんさ」


彼と最後に会ったのは確かそうアメリカ紛争終結5周年のパーティだ。

今から2年前か――。

と思いにふけていたところ、急に回りが忙しくなった。

どうやら鎮火が完了したらしい。大使館全体が確認できる。

おおよそ全壊といっても過言ではなく、とてもではないが生存者など期待できそうにない。しかしながら事件が起きたのが早朝であり、そもそも人がいたかどうかすら不明だ。


いや待て。どうして人のいない早朝を狙ったのか?テロならば人の多い昼間にやるべきであろう。大勢の人を殺した方が、オラクルズへのダメージにもなるではないか。警備は24時間厳重警備で、朝でも昼でも変わらない。早朝にテロを起こすメリットがない。明らかに異質なにおいが早くも漂ってくる。




























































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