2023年 9月
《少女の恋》
蝶ひとひらゆっくり飛んで私に止まる あの人はまだ生まれていないのです
紺色のリボンを髪に結わえていて天にいつか召される日まで
綿菓子をすくってたべる美味しいわ口から出ていく雲たちのよう
真四角のパウンドケーキを焼いている食卓の甘やかな感触
ワンピースひらめかせて海へ行く 二番についた人が神になるよ
かもめが飛んでいく 麦わら帽子をさらっていかないでね
《少年の恋、夏》
黒髪の君は笑って若葉の下をゆく いつも持ってる赤い薔薇は
思い出を共有するときに見せる 笑い皺を愛していて
悲しみの歌を唄って泣いている小さい少年を胸に宿して
自転車を漕いでいく君の後ろ姿 見失わぬよう急いで走る
揺れている君の気持ちを見ていると 永遠ってことがあるような気がして
真っ直ぐな背筋で手を挙げ答えてる 授業中の君の真面目さ
文庫本カバーは藍色難しげな顔をしながら読む君の息
いつまでもあると思うな初恋の人そして若干涼しい夏の日
学ランの胸をくつろげ仰いでる君のワイルドさにちょっと妬けてる
出会った頃ノートがないと僕が言えば破ってくれた紙片の煌めき
君の書く英字の癖が愛しくて いつの間にかそれが移ってる
夢語る君の瞳は銀河色 いつまでも優しい男でいて
水性のペンで描いた落書きは まだ君のノートに残っている
金に光る川の横を歩いてる 想いを伝えようとは思えず
いつか僕ら大人になったら言えるかな 臆病な僕の小さな胸は
屋上で弁当を食べる君の横顔 ゆっくりとした夏風が撫でる
《黄色》
外国の黄色に光る太陽は悪魔を一人残らず焼いて
たんぽぽが揺れて満たしていく道を天国みたいに歩いていくよ
幼さの残る顔を盗み見て 君の未来に幸多からんことを
黄色って裏切り者の色なんだって そういう君のまつげのカール
レモン色したブックカバーはない とりあえず今は見たことがない
《湖畔》
湖畔にて佇む女性の傍らにヨーヨーが一つ揺れており
青色の眼をしたあの子の心には湖がひたと広がっているの
グラーデーションした湖畔はあなたのそばにありあなたに思い出せとせっつく
湖畔色した服を着た少年が思い出の中を歩いていくよ
水色と深い水色それから湖底の水色すべて混ざり合い
僕は行く湖畔の上の小さな家に歩いていくんだ幻想として
君と見る湖畔のさざなみ新しく生まれては消え生まれては消え
湖に涙一粒落ちていく君の痛みが経過していく
《流れ星》
一筋の傷が夜空に生まれては素早い速さで治っていく
流れ星君も今頃見てるかな今日が地球の最後の日として
流星を食べた巨人が眠るという小高い丘で夜空を見上げる
願い事受け取りセンターに赴く入口に出荷予定の星屑がある
君と見た天体ショーの思い出が流星のように脳裏を横切る
漆黒の瞳に映る流星が君を静かな宇宙に運ぶ
夜窓からカンパネルラと見た流星 十字架と共に愛を知って
僕達は僕達だけは覚えていようあの日地球を焼き尽くした星のことを
《ある女性》
花をあげましょう 大きな花束を 君の体が隠れてしまうくらいの
私達が手を取り合えばどこにだっていける そうあなたが言ったのでしょう?
生きている喜び あなたにもおすそわけしてあげたい 春のさえずり
愛してる あなたはそう言ってくれる 私だって愛しているのよ
あなたの胸から溢れる言葉を手のひらに受けとめて、もうすぐ夏が来るわ
昼寝するあなたのまつげを眺めてる 小さな影が頬に伸びてる
いつだって未来は不確定で難しい それより今を見て微笑みましょう
押し流す 全ての淀みを押し流す さよなら かつて私だったもの
新しい世界にいっそ飛び出そう確かな夢を掴み取るのだ
《うたかたの日々、ふたたび》
温かい器を持って泣いている 涙がふちにひっかかって落ちる
美味しいスープを飲みたいの そう女の子がぽてぽてと云う
いつまでもあると思うな星と川 そして蟻を眺めてる時間
麗しい人と偶然すれ違う 彼の歩き方の優美なこと
新しい麦わら帽を被っている幼い人は太陽を背に笑う
石英を拾って透明の瓶につめるそれだけを繰り返す夏があって
面影だけが残っている友達のことを思い出して、眠る
どこまでも続いていくよな未来への道 また会えるかなと口には出さない
あいしてるその言葉の響きがブラジルまで届きますように
母さんの手料理はとても美味しくてほんとうは全部忘れたくない
不確かなバイオリンの音色響いてる今度はいつあなたを殺せる?
本当は何もない世界に帰りたい でもそれまでは生きていたくて
幽霊を見た人間だけが行くあの世があるよいいことなのかな
男の子が男性にほだされる漫画を読んで眠りにつく日
いい加減目を覚ましたらどうなんや茂造が走馬灯に出てくるのは謎
父親の父と母に電話するいつも説教されて終わる
唯識論全ては心が作ってるだとしたらこの世界って?
さくらんぼ宇宙に沈んで弾けたら次の宇宙が生まれはじめて
きっと君神様の声を聞いたんだ だからおやすみ、いい夢を見て
チベットの洞穴の奥で覚者眠る いや起きている、観測者によって
結婚という概念は放り投げ青空の中に溶かしてしまおう
いつの間に赤ちゃんが空に浮いていたの彼女は笑って糸をたぐる
アイシテルなんて囁く君の耳喰んだら生まれた可哀想な鰐
いつだって僕はあなたを想ってるそして昨日のシチューのことも
30日
秋迫るシモーヌ・ヴェイユの言の葉を胸にしまってお風呂に入る
とても強い人が死んでしまったと 親友と架空の人の話をする
可愛らしい男の子の刺繍を緑色のフェルトに作って友達に見てもらう
本屋さんは私の補給ポイント 多様性の空気を吸って回復して帰る
独特な上擦るような癖のある声のVtuberさん、とても可愛い
可愛い顔のアイドルがひーひー叫ぶ番組をけらけら笑いながら見ている家族
可愛らしい表紙の本を出したインフルエンサーに嫉妬する夜
児童書の古く新しく真実が書かれていることについて書いてある本
こうやって詠んだ短歌を日記のように積み重ねていくことの歓び
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます