2021年 12月

母と二人、口腔外科に歩いてく 駐車場にアヒル人形の群れ


五連休明けの休日 歯科医師の手紙配達員となる


歯に孔を開けられ一言「開けるほどじゃなかった」どうすりゃよかったのか


放射線技師のいい兄っぷりに惚れ惚れとしてたら撮影終わってた


一階から眺める地下に空いた中庭 煉瓦造りと薄い空色


クリスマス 歯医者の予約を入れました 歯科医師さんを恋人と思おう




小説を書いた おこたの滞在時間は9時間


クリスマスツリーの鮮やさに夢と思い出を託す


元彼とSMSでやり取りを 私達友達になれたらいいね


母親に暴露されたM-1の優勝者 ネタバレ禁止令発布


今日で先輩が退職する ロッカーの手紙 別れの言葉


小説の中の幸福 現実の中に浸透 作戦成功


着々と ジャニーズに詳しくなる母は 頑なにオタクじゃないと言い募る


明日はきっと 明日はきっと早起きを しようと思っています、本気(マジ)です

 


〈初恋〉


夏の日に 同じ楽器を弾く君の 立ち姿を覚えている


首かしげ 可愛らしい声で話す 栗色の髪 零れ落ちて


分からない 君が好きなのかどうなのか 胸は痛くなるけれど


届かない あの子はきっと 私のことを嫌いでいるの 触れずにいる手


踊り場を駆け下りて声上げる君 ときめく心 平静な顔


向き合ったのは卒業後で 自覚した時には人の彼女で


男の子 二人と付き合ってみたけれど みんな空気みたいだった


この体 まだ誰も通っていなくて 操を立てたわけじゃないのに


春の似合う 君の瞳に キスをする さよなら初恋 さよなら蒼い日


〈SFへ、愛をこめて〉


掌から放たれる清純 青春 晴嵐 ここは電脳世界


ヘッドフォンから流れでる 荒廃のタイポ 光背の天使


ヤバいやばいよ パイプ引き摺ってバイクかっ飛ばして


人工食吸い込みながら アルジャーノンの墓に造花たむけて


化物の あいつは俺のことが好きで だから俺が行くべきなんだ


赤と黄の パプリカ噛り あの子はアイドル 私のライバル


飼い犬は 暗闇に消えて 私達 大人にならなきゃいけなくなって


さかさまの 彼女の手首を掴む 世界が砂時計になったとしても


僕のこと 愛してくれるの ねぇ誰か 答えてほしい、父さん、とうさん


ブルーソルジャー 僕は間違っていませんよね あなたの意志を継げていますよね


星が降る夜に祈る 全ての命が安らぎますように


真っ暗の宇宙で出会った友達と 指切りをした まだ見ぬテラよ


星の子を 失ってしまった悲しみを 癒やす方法は 見つからないまま



〈友人〉


僕は哲学が友達で ショーペンハウアーは親友なのさ


焼きそばパン 頬張る 今日中にノートを取らなきゃ


友人が 椅子の裏側小さく蹴ってくる 手紙を回す「なんだよう」


推測によると 住める惑星が確かにあって そこで散歩したくはないか?


天文学の授業に誘う あの教授の癖の真似見せて


眼鏡を押さえて俯きがちに 微笑むお前 慣れぬ感情に戸惑い覚え


空き教室 分厚い本を眺める横顔から目が離せず


鉛筆を 転がし占う「今日はカントがおすすめ!」「へぇ、そうか」


哲学者になりたいと打ち明けた 瞳の中の未来に俺はいるのか


若葉揺れる 季節に君といられたこと ほんとに嬉しい ずっと友達でいて


通じない 想いを抱えて眠る 星と夜と望遠鏡


言葉にして伝える気持ちを受け取って 返さなくてもいいから、


星が降る そのうちのひとつに手を伸ばす 夢みたいな景色の中にふたり



〈美しい人へ〉


テクノカットの君の横顔に恋をした 光ばかりの人だと思っていた


溢れんばかりの愛情を言葉で受け取る 溺れそうになる


前髪に 鋏を入れる指先の 真剣なこと 必死であること


笑顔が眩しい君は どうしてそんなに優しいの 綺麗な歯覗かせ


参謀ポジの君は甘やかに笑み蕩かす 矛盾のひとよ


俳句のルールを知らなかった あなたの無垢を愛しています


万人を愛するあなたの濃やかさこそ 愛されるべき資質であって


同性を目を細めて慈しむ君に 救われる男の子のことを考える








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