2020年 1月

短歌 2020/01



祖母の笑み ほら 誰よりも 翠深く ころころころろ 愛の鳴る音


こたつの中には 宇宙はなくて ただ深翠の 海があるだけなんです


死は消滅ではないよと 教えてくれた君と 桃色味の アイスを分けあう


新しい 年の子一人 悲鳴上げ 白い光の 満つる街へと


悪意なんて ないよと振り返り 笑う君の 形の良い歯に みとれている


錦紗の髪の あなたに問いたい 愛はいつ 果てるのですか その先になにが


垂直の 宇宙丸めて 投げ返す 春子はまだ 生きていますか


ルーン文字 るーんるーん るーんもじ 鉱石をぶつけ合うと こんな音が鳴るのかしら


漆黒の ビー玉や腐ったケーキみたいな 悪意を泣きながら 鎚で壊す




「決めるのは 私ではありません 神様です」 あなたはコスモスに 鼻をうずめて


胸の奥には 大きなうろがありまして こころなんかが 生えているんだよ


ほらみてよ 空がつぶつぶ化するよ そう君が 指さす先に 終末の気配


ほんとはさ 絵だけ描いて 暮らしたいんだ 地球を玩びながら 彼はいう


wikipedia には載っていない 君の癖 目を伏せる時 薬指に力が入る


あなたが髪を 指で梳いた 同時刻 ミカエルんちの 子猫があくびしたの


自我なんて 上手く育たなかったから 川辺に捨てたよ、と うそぶくひよこ


地上と 水平方向の タイタニックごっこ 妹は勇敢 私はひやひや


あの世には この世のすべてが アーカイヴされているんだって 冬空の下の ささやき声愛し


少女はね 青いワンピース着て 輪回しして 灯台のある岬まで 駆けていったきり


大股を 広げてスカートの中 煽ぎつつ 「あ、見ててんとう虫」 「あ、にきびどうにかしないと」




愛さやぐ 髪の膨らみ 押さえつつ 秘密を教えて 明日死ぬから


遠方に 見ゆるはロケット群 水銀色 君は険しく 瞳細めて


木漏れ日の 翠露のなかを チャリンコで 君は仰け反り 僕は笑った


天使の羽音 振り向かずに あなたは 逆光の中を 踏みしめ歩く




躰が 精神を置いて行ったの 紅いほっぺを膨らませて 


赤い糸が すうっと降りていきますでしょ そしたらこの時空生成器を回すの


地球破つ 父は子の手 取って駆ける あれがオリオン座 あそこまで走っていこう


君笑う 白シャツ跳ねて 陽光を 打ち返す確か アロマンスのひと


机の上 指先くねらせて おどける君の 横顔に向ける 心のカメラ


痛ましき 瞳を伏せて 路地裏で 胸を押さえうずくまる そなたは堕天使


てのひらに 赤き木の実を 転がして 退屈しのぎの 悪魔がひとり


少年と 少女よ出会い 輪になって 踊れよ踊れ 命尽きたのち



緑光の ともしびひとつ 消えるとき あなたの中に 暖光燈る


赤色を 重ね合わせて 我祈る 彼包みたまえ 彼死なぬよう


憎き人 清き瞳 煌めかし 紡ぐ言葉に 哀しみ降る日


お前なんかの 力なんていらない 奴の側まで 這いより手重ね




眠りから 放たれ白き ふとんにて わたし今、海を愛していた気がする


恋人の いるひとがいう 恋愛論 2人以外を 排除しながら


黒き肌 喉仏さへ 冴えざえと かつて触れえた 白夜のひとに


青年が 屋上駆けぬけ ネオン街 飛んで微笑む 真空流れり


茫然と 黒板消しの 騒音を聞く 俺はあなたを 愛してしまった


みつ編みの 少女は少女に 寄りかかる 桃色のリボン 微かに頷き


家事なんて つまらぬなどと いう我に 母は首を 傾げて微笑む


霞きて 一刹那のち 椿落つ 拾える母の 白きてのひら




ろいろいと 緑の素肌 踊り狂う 彼らかつては 人間でした


黒き山 溢れる後光 夜明け前 あなたの名前で 埋まったノート


屋上の ベランダ天に 届かずに ただ鳥たちの 議事堂になる


肘触れる 笑ったふりして 躰離す 僕はあなたに 恋しちゃいけない


少女二人 顔をみあわせ 笑ったら かならず君は 外にいなさい


鳥貴族? 泥酔してるって? しょうがないなぁ 靴ひっかける音軽やかに


街灯の 寂しさ無視し ぐったりと 肩に寄りかかる 彼の酒臭


お嬢様結びの少女 手鞠つき つきつきつっくん 慈しむったん


空色の 女神降り立ち 海掬う 腰まで成層圏に浸し



水満ちた 部屋の真ん中にいるからさ 羊羹切る要領で助けに来てよ


うっそりとした空を眺めています 岸に別れを告げ 8日経ちました


やあやあ 我こそはオールトの 雲ノ丞 散歩が趣味です 仲良くしてください




つんとくる 雨の気配 電車にて 孤独をつつき 暇つぶしする


使って古びるものはなんだって悪だよ 君は若木のごとく伸びをして




〈天使と悪魔〉

ちょうおうと 白魚翻り 空に吸われ ソドムの街は 先ほど仰せのままに


人間て 可愛いものですね あなたが生死を握るだけあります


「なぜそんな 生きにくい方を選んだの」 真白の羽畳みながら 悪魔に天使は


涙受ける 黒きてのひら 鍵の爪 魂はおいしい 絶望的なまでに


「泣かないで」 童子のくれた 赤い実を 畳の上で 眺める悪魔


見守る身にも なってくれよ 俺たちは 神様と君らの 板挟みなんだいつも


「今日の雲 誰が流す?」 金の輪の 鳩首会議 あぐらかきつつ


そそのかす 暗い路に 金貨置いて 「またやってんの?」 俺にまで優しくしてくれるなよ


「アンパンチしちゃうぞ」天使よ 俺は悪魔だ ふざけてる場合じゃない


彗星 綺麗だね この空を君と 最後に見られてよかった 生まれ変わりがもしも、




〈姫と王子〉

「お兄さま」幼き指先 目の前で 君のラピスラズリのような瞳にひびが、


生き別れの 妹の面影 焼きついて ハミラダ国へは ラクダで半年


正装の まま裏庭に 躍り出る 王子と王子 ゆるされぬ恋


王子は王子の手をとりて 「踊りませんか」 月夜の薔薇園


花のワルツ 口ずさみながら 少年2人 蒼きシルエット ゆるやかに風となれり


指先を 針でつついて 血を合わせる 「これが婚姻の証」 真剣な眼差し


「引く手あまたですよ」 大臣のごますり 君は目混ぜして 僕は吹き出す


宝石も 美しい王子も いらないわ ベッドの下の 藍の靴さえあれば


大丈夫 わたくしがあなたを守るから 黒髪の王女 王子を庇い


尖塔にて 頁捲る手 力こもる 王子と王子の悲恋 ありだわね


楽園の門は閉じられた 少年は 王子となりて 胸縫い合わす


茨の棘 王子を締めつけ 血を吸って 亡骸にさえ からみついたの


乞食の 胸には青き 夢 王子の 胸には白き 退屈あり 


ガラスの靴 一閃 砕け 少女仁王立ち

あんたとはあの夜だけの関係でしょ




〈夏〉

恋なんて エゴそのものさ くだらない ラムネの瓶を 提灯に透かし


透明の 純粋階段 空に伸び 隣でアイス 舐めてる子ども


少年が 胸元開き ばたつかせ それでも足らず 下敷き取り出す


じりじりと 病院帰りの 白き路 母と子固く 手を握りあい


綿飴に 絡みつく風 ごつい指 疼くままに くちびる重ね


汗と玉(ぎょく) 日焼けした膝 触れている 君は震えて 夏に沈む


宇宙船 壊れちゃったね 鉱物の なる木を探すよ 君は待ってて


銀河色 涙を流し 艶めいて 僕を惑わす 君の頬線


海ねこは さみしいのでしょうか あんなにも 声を張るのに 何も返さぬ海




〈時間SF〉


100円玉 弾いて入道雲のなか ここから先は 分岐ルートです


その話 もう30回 聞いたって ループする夏 出口は何処

 

「君の名は」 派手に転んだ 俺に手を 差し出す野郎を 引きずり倒す




まぁだだよ おさがりTシャツ 襟伸びた かわいいあの子は 白昼夢想少年




〈恋〉


隕石と エンカウントして 死ぬみたく 貴女と出会った瞬間踊る


あおつばき 貴方の手元で 光るそれ それってもしかして ガラスコップではないですか


永遠の 両片思いしてみてぇ 三つ編み少女 頬杖ついて


紫の ジェリービーンズ 指で押し これあの人に 似てる気がする


「あの子のこと 全然好きなんかじゃない」 顔そむけた 正面の耳 赤いとか言わない


カップルが 微笑み合って 風 祝福す それはそれとして うどんを鼻から


木漏れ日が 眩しいので君思い出す 恋を通らなかった愛は


丹田に 鳶色たくさん つめこんで 出だしの文字を 繰り返す「すすす」


「好きです」 あっそうですか そういえば 今年の金木犀 もう嗅ぎました?


獰猛系の 熊とぬいぐるみタイプのくま 禁断の なんてもう古いのよ


愛ゆえに あなたのことを しらないままで 仕草の標本箱つくったのは秘密


滲み出る 高野豆腐の 出汁みたい これが恋なの? へぇそうなんだ




〈少女たち〉


自転車に 乗った王子が ベル鳴らし 「駄菓子屋いこうぜ」 あぁ数年後にはきっと


鏡台の 前で髪を三つに 編みながら マカロンだけで 生きていきたいな


少女A 結婚なんて しないでね 片田舎の 少女Fより


水晶に 生まれたかったの ほんとうは 白きベッドに 拒食症の乙女ひとり


一緒に 死のうと誓ったあの子とは もう口もきかないの けろりと君は


白き指 尖った関節 花を取り 悔しい憎い 食べてしまいたい


「お姉様」 自分から呼ばせたくせに私 妙にむず痒くて 「お黙り」っていう


胸元の リボン揺らして 内緒よって 脇のケロイド 見せるせんぱい


何カップ? 平気で教えあう友人 ひとり胸を 抑えて「わかるでしょ」


はじめては いつ、だなんて 通過儀礼 なんかじゃないのよ 肩を怒らせ


少女のまま 完成するのって微笑んで 逝ってしまった あの子は愚か


少年に ついていった その先に 虫の楽園 「おじゃまします」


「ピンクなんて 嫌いだ」って刃みたいなあの子の頬は薔薇色


ふわふわの 白いドレスが 着たいの そのためだけに 結婚してよね


頬寄せ合い 眠る少女と少女 幸福は 淡き桃の 匂いがするもの


夏の日の 身体測定 美しき 形を探す 気づかれないように




〈団地〉


しろぺたの 建物浮かぶ 青空と 黄色い持ち手の 自転車ひとつ


北棟の 隅にたたずむ 給水塔 夜になったら 動くんだってさ


午後4時に 3棟前の 公園前な 遅刻厳禁 宿題なんてするなよな


星空の 下で交わす 合言葉 ベランダ越しの 秘密の会合


「ばか、声が大きいよ」「だってみーくんが」団地のみんなが 知ってる秘密基地


9棟の どこかにあるんだってね カルキ水に 沈んだお宅が


雨降ると わかめみたいに 増える団地 子どもたちには 好評ですね


屋上にて サバトが開催 一年中 風鈴なってる お宅が消えました 


「我が宇宙論を聞け!」第2回 やります405号室に 集え同志よ


機動隊 突入するも ○△団地は もぬけの殻だったもよう 繰り返します


まただよ また始まった 溝上さんちの 夫婦喧嘩 ほら本棚揺れだした


電波塔 真面目な人ね 給水塔 君は素敵だ なんたって丸い







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