第二章8話 カトラスの街と領主の息子



「レナルドさん。身分証を持ってないんですけど大丈夫なんですか?」


「あぁ。大丈夫ですよ。身分証が無くてもお金さえ払えば入れます。そのお金は私が出しますので」


「流石にそこまでは…」


「王都への護衛をタダにしてくれるのですからこれぐらいは出しますよ。護衛依頼と言うのはお金が掛かるのでむしろこちらが助かってます」


「そこまで言うならお言葉に甘えます」


護衛依頼と言うのは長ければ長いほどお金が掛かるのだ。疾風の牙は1人あたり1日で大銅貨3枚貰ってる。つまり4人いるから1日で銀貨1枚と大銅貨2枚の出費をレナルドさんは払っている。


疾風の牙はこのカトラスの街で活動しているから王都へは行かないが、それでも俺達は5人。王都まではこのカトラスから大体8日ぐらい。5人なら1日で銀貨1枚と大銅貨5枚になる。


それが8日なので金貨1枚と銀貨2枚の計算だ。そう考えるとたしかに高い。勿論ヴィーナやララは含まれない。と考えていると俺達の順番になる。


「止まれ。身分証を」


と門番に言われるのでレナルドさんと疾風の牙達は何か見せている。


「レナルドさんそれは?」


「これは商人ギルドのプレートです。商売するなら商人ギルドに入らないといけないのです。勿論入らなくても商売はできるんですけど、入ってた方がメリットが多くてね。疾風の牙の皆さんが見せているのは冒険者プレートですよ。商人ギルドや冒険者ギルドに登録すると金属のプレートが発行されるんです。それが身分証になるのですよ」


へぇーそうなのか。異世界っぽくなってきたな!


「冒険者ギルドと商人ギルドどちらも登録するとかは可能なんですか?」


「可能ですよ。どちらも登録する方は少ないですが、いる事はいます。自分で薬草等を売ったり、貴重な魔物の素材を売ったりとかはいるのですが、買い取って貰った方が楽なのでどちらも登録する方は珍しいですね」


なるほどなぁー。と考えていると門番が近付いてくる。


「身分証を」


「こちらの方々は旅人で私の友人なのです。ですので身分証は持っていません」


「なるほど。旅人とは珍しいな。一応荷馬車の検査をしてもいいか?」


「構いません」


門番の人は荷馬車を調べる。門番は1人じゃないのだが、他の門番や後ろに並んでる通行人の目がセレスやリルに向いている。まぁセレスもリルも美人だから男の目を引き付けるのは仕方ない。


リルはいまローブを外している。なのでハイレグアーマーだ。肌の露出は多い方だ。ハイレグアーマーと言ってもそんな際どい鎧では無く、露出は腕とお腹と太ももぐらいだ。だけどやはり目を引くらしい。セレスも美人だからなぁ。もしかしてエルフや獣人が珍しいのかな?そんな事を考えていると門番が帰ってくる。


「荷馬車は随分と荷物が少ないな」


「えぇ。迷いの森の結界を見に行っただけですので」


「あぁ、急に森全体に結界が張られた森だな」


「はい。私はその森で採れる素材で商売をしていましたから」


「なるほど。それは災難だったな」


「荷物が少ないのは、結界を自分の目で確認したかった為です。確認するだけなのでほとんど荷物はありません」


「なるほど分かった。身分証を持ってない者は大銅貨1枚だ」


レナルドは俺達5人分、大銅貨5枚を払う。


「よし。通っていいぞ!ようこそカトラスの街へ!」


と門番は笑顔で言ってくる。そしてカトラスの街へ入る。カトラスの街へ入ると早速商売をして店を出している商人達の声が飛び交う。


「安いよ安いよー!新鮮なマトの実だよー!」


「新鮮なジャイアント・ボアの肉が入ったよー!」


「こっちはフォレストイーグルの肉だぞー!」


おぉー!凄い呼び込みだ!活気が凄い。それに知らない魔物の肉や野菜。買いたいが今は我慢するか。別にお金を持ってない訳じゃない。お金は少しだが持っている。


何処からゲットしたのかというと、ラガンとその取り巻き達の手持ちを貰っただけだ。全部で金貨3枚、銀貨7枚、大銅貨13枚、銅貨25枚だ。それなりに持っている。


「まずは今日泊まる宿屋に行きましょう。私がカトラスの街でよく泊まる宿屋があるのです」


「分かりました」


「俺達は泊まる宿屋が違うからここまでだ」


「護衛ありがとうございます。後ほど冒険者ギルドに伺いに行きます」


「あぁ。報酬は明日取りに行くよ。ルーク楽しかったぜ。また会う日まで死ぬんじゃねぇぞ」


「また会う日まで死ぬなよ」


「皆さんまた会う日まで死なないでください」


「また会う日まで死なないでね」


「あ、あぁ」


また会う日まで死ぬなよ?


「あぁ、この別れの挨拶は冒険者達が別れの挨拶で使う言葉なのです。冒険者と言うのは常に死と隣合わせの職業なので、また会うその日まで死なないで、次会った時は笑って再開を喜びあおうと言う意味が由来で、時が流れてまた会う日まで死ぬなよが別れの挨拶になったのです。まぁこの挨拶は頻繁に会っている者達が使う言葉ではなく、長期間会わない人達が使う事ですがね」


「そういう事だ!レナルドさんもまた会う日まで死ぬなよ」


「疾風の牙の皆さんこそまた会う日まで死なないでください」


と笑顔で返す。そんな深い言葉だったのか。俺も冒険者になったら使いたいな!そして疾風の牙は俺達とは別の方向に去っていく。俺達はレナルドさん行きつけの宿屋に向かう。


「着きましたよ?ここです。安い割には食事が美味しいのです」


レナルドは馬車を馬車小屋に入れて宿屋の中に入っていくので俺達は続く。宿屋に入ると1人の恰幅のいいお姉さんが出迎える。


「ようこそ〈安らぎのゆりかご亭〉へ。おや?レナルドさんじゃないか!」


「こんにちはベリル。今日は泊まりにきたんだよ。この人達も一緒で泊まりたい」


「部屋はどうするんだい?」


「私が1人部屋で、他の人達には2人部屋を2つ用意してもらえるかな?」


「分かったよ。レナルドさんも入れて食事付きで1人大銅貨2枚だよ」


「3日分頼むよ」


とレナルドさんは銀貨4枚を出す。


「あいよ。お釣りは大銅貨4枚ね」


流石に商売してるだけあって計算は早い。異世界の人間って計算が弱いと小説等で読んだことあるんだが。


「ルークさん王都へは3日後に出発しましょうか」


「はい。それで大丈夫です」


「アリルー!」


「なーに?お母さん?」


「お客さんを部屋に案内してあげな?」


「うわっ!すっごい美人さんだ」


「馬鹿な事を言ってないではやくしな?」


「はーい!」


アリルと呼ばれた女の子は日本で行ったら高校生ぐらいかな?だがやはり日本と違い可愛い。異世界の女の子はハズレがいないよね。とどうでもいい事を考えていると


「貴方がお客様ね。私はアリル!宜しくね!」


「俺はルークだ。少しの間は世話になる。後ろは俺達の仲間だ」


「わかりましたー!部屋へ案内しますね!」


俺達はアリルに部屋へ案内される。部屋へ入る前にレナルドさんに声をかける。


「レナルドさんこの後暇ならカトラスの街を散歩したいのですが」


夕食まではまだ時間があるから少し街を観光したい。


「構いませんよ。カトラスの街はそこまで広くないので迷子にはならないと思いますが、まぁ何かあってもルークさん達なら問題ないと思います」


とレナルドさんは笑う。プリンでさえ水4級まで使えるのだ。大丈夫と思って言ったのだろう。


「それにせっかくカトラスの街に来たのですから観光を楽しんでください」


「ありがとうございます。この街を楽しませていただきます」


そう言って部屋に入る。観光する準備を整えてセレス達も誘いカトラスの街を探索する。


「やっぱ他の街はいいもんだな。本当に異世界へ来たって感じだな」


「ですがやはり周りの視線がなんか嫌だわぁ」


街を歩いてると獣人は少ないがちらほらいる。エルフやドワーフは見ないな。何故か周りの視線がこちらを向いている。これはやはりセレスやリルが美人だからだ。プリンに目を向けている輩もいる。まぁ仕方ないか。と考えていると


「そこの綺麗なお姉さん!そんな男じゃなくて俺達といい事しようぜ?」


「そっちの獣人の女も一緒に可愛がってやるよ!」


とチンピラ3人組がニヤニヤして絡んできた。いや男と言ってもドラグもいるんだが?


「あらあら〜。あなた達みたいなおバカさんには興味がないの。私の興味がある人はルークさんだけよ?」


「別にあんたらに可愛がられても嬉しくないわ。と言うか気持ち悪いで」


と腕を絡めてくるセレス。セレスさんの大きい胸が俺の腕を挟み込んでる!幸せだが街中でやめてくれー!落ち着け俺の俺よ!そしてリルは辛辣だ。まぁ仕方ないが…。


「誰が馬鹿だと!?」


「見せつけてくれるじゃねぇかー。痛い目見ても知らねぇからな」


「気持ち悪いだと?あとでたっぷり調教してやるよ!」


と3人組が近付いてくる。はぁ〜。こんな事になるとは思ってたがテンプレだ。ドラグに頼むか。


「全く。モテない男のやっかみは面倒だな。ドラグ黙らせろ。そして殺すなよ」


「畏まりました」


そして3人組の前にドラグが歩いていく。


「あぁん?なんだてめぇは?」


「わたくしはドラグと申します。ご主人様の執事です。一度しか言いません。恥をかきたくないなら今すぐに去りなさい」


「はっ!執事に何ができるってんだよ!」


「恥をかくのはおまえだよ!」


と殴り掛かってくるが次の瞬間1人のチンピラが倒れる。


「あ?おいどうした?」


「何寝てんだよ!」


「彼は気絶しているのですよ。次いでに腕の骨も折っておきました。ただ気絶させただけでは性懲りも無くまたやってくるでしょう?さて次はあなた達です」


ドラグは力を抑えているが、それでもこのチンピラ共には目で追うことすら出来なかったようだ。周り野次馬達も何が起こったか分かっていない様だ。そう考えていると既に戦闘は終わっていた。ちゃんと腕を折って。


「お疲れ様ドラグ。助かったよ」


「ご主人様を守る事がわたくしの約目ですから」


さて衛兵が来る前に移動するか。周りの野次馬達が事情を説明してくれるだろう。と俺は足早にその場から去り観光を続ける。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここが領主館か。そこそこ大きい屋敷だ。街で一番大きい屋敷が領主館だった。ふむここにアイツがね。まぁ今は何もしない。次に冒険者ギルドでも見に行くか。


観光しているとララが起き出した。ララは毎回よく寝るなぁ。子供だから仕方ないけど。ララは俺の特等席、肩に座り一緒に観光を楽しむが、滅多に見れない妖精が俺の肩にいるので周りの視線が更に多くなった。


まぁだがララの好奇心を俺は止める事が出来ないから仕方ない。ララがいなくてもどうせセレス達で注目されるのだ。もう気にしない事にした。


そして俺は冒険者ギルドや商業ギルドを見たりして観光を楽しんだ。ちなみに冒険者にはまだならない。王都でなるつもりだから今はいいのだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


冒険者ギルドや商業ギルド、色んなお店をみて楽しんだ後、そろそろ宿に帰ろうとしたその時


「おい。そこのお前止まれ」


後ろから声が聞こえる。まぁ俺たちではないだろう。無視して宿屋に帰ろうとすると


「おい!聞いているのか?お前だ!その肩に妖精を乗せているお前だ!」


肩に妖精は俺しかいないだろう。またか…とそう思い振り返ると日本で言うなら中学生ぐらいの男で、身なりの良い服を着ている。うわー。面倒くさそう。その身なりの良いお坊っちゃんの周りには従者らしき男が6人いる。


「何の用だ?」


「お前が連れているのは妖精だな。その妖精を俺によこせ」


「はぁ?」


「聞こえなかったのか?俺によこせと言ったんだ。それにそこのエルフと獣人、そしてそこの少女も俺の物にしてやる。嬉しく思うがいい」


何を言ってんだこいつ?馬鹿だろ。恐らく貴族だろうが、貴族はこんな奴しかいないのか?


「笑えない冗談だな。今なら許してやるから俺の前から消えろ」


「冗談ではない。早くそいつ等をよこせ」


「断る」


「なんだと!?」


そいつは断れるとは思っていなかったらしく相当驚いている。こいつ本当に渡すと思っていたのか?馬鹿だなぁ。だがその坊っちゃんはイライラしながらこちらに近付いて肩に乗っている妖精に手を伸ばしてきた。


何だこいつ?断っているのに無理やり奪おうとするのか。どこまで貴族は腐っているんだ?いやこいつが腐っているのか?俺は手を伸ばしてきた坊っちゃんの手を掴む。


「何をする!?離せ!」


「それはこっちのセリフだ。汚い手でララに触ろうとするな!」


俺はその掴んだ手を押し返したがレベル差なのだろうか。軽く力を入れただけで飛んでいった。すると生意気坊っちゃんの取り巻き達が


「貴様!よくもアルク様に手を上げたな!」


「正当防衛だ。それに俺の大切な仲間を誰があげるといった?」


「こいつらを捕えろ!」


アルクといったな。何処かで聞いた覚えが……。あぁ、思い出した。こいつだよ。アクス・ランドル・カトラス男爵のバカ息子アルク・ランドルは。なるほど。何でもかんでも手に入ると勘違いしてる馬鹿な奴だ。


取り巻き達は一斉に襲い掛かってくるがリルが目に見えない速さで取り巻き達を手刀で気絶させる。


「な、何をした!?」


「そんな事はどうでもいい」


「俺はこの街の領主の息子だぞ!」


「だからどうした?」


「な、なに?」


「領主の息子だからなんだ?」


「俺にこんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」


「お前こそ俺の仲間に手を出そうとした…いや手を出したんだ。タダで済むと思っているのか?」


「な、なんの事だ?お、俺を殺すのか?」


「あぁ。殺す。だが殺すのは


「どういう意味だ?」


「さぁな。そのうち分かる。次に俺の仲間に手を出せばお前を俺の手で殺す」


「くっ…!」


俺はそう言って宿屋に戻る。本当はもう少し後に計画を実行する予定だったが、少し早めるか。アルク・ランドルお前は生かしておけない。本当は俺の手で殺してやりたいが、そうするとバレてしまった時、俺がお尋ね者になるからそんなヘマはしない。慎重に行くとしようか。俺達は宿に戻り今後のことをみんなに話すことにする。

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