第一章14話 妖精の集落


幻術の結界に穴を開けてさらに森の奥に進んでいると


「お前様、こっちに近づいて来る者がいるでありんす」


「狙い通り来たか。お前達、その者が現れても手を出すなよ」


「えぇ」


そして少し待つとそいつは現れた。


「貴方達!結界を破ってここまで何をしに来たのですか?返答次第ではタダじゃおきませんよ!」


いきなり現れたそいつは俺達の事を敵視しながらそう言い放った。まぁそりゃそうか。いきなり結界を壊して侵入をしているのだから敵視されてもおかしくないか。


敵視を向けているそいつは身長100cmぐらいの少女で黄緑の髪を靡かせ、エメラルドグリーンの目でこちらを睨みつけている。そしてその少女の背中に青い蝶々の様な羽が生えて、宙に浮いている。妖精族か…しかし普通の妖精族よりは大きいな。この世界では、この大きさがデフォルトなのか?


それはそうと、こちらは敵対するつもりはないので無難な返答を返しておく。ノベルゲームなんてやったこと無いけど上司の機嫌を取りまくった会話術見せてやるぜ!


「実は旅人で迷ってしまいまして」


「……へ?」


目の前の少女は虚をつかれたような声を出して固まっている。その反応も俺は予想できた。いきなり結界を壊して会ってみれば旅人で迷ってますなんて信じられる訳ない。俺でも信じないよ。だが真面な理由がこれしか浮かばなかったので旅人にした。


「そんな話信じられる訳ありません。旅人なら何故結界を壊す必要があったのですか?」


「えぇ。自分も言ってて信じられませんが事実です。ここ数日、この森から出られなくなり、出口も見つからず。そんな時にこの幻術結界を見つけたのです。この幻術結界の中に結界を張った人物がいると思い、壊して中に入り、結界を張った人物と接触を図る事にしたのです。壊した事には謝りますが敵対する意思はありません」


「そう言って私達を騙し妖精を攫いにき…たっ……!?」


その少女は言葉の途中でこちらを、というか俺を見つめ驚いた顔をしながら口をパクパクしている。なんだ?俺の顔に何かついているのか?


「あの…どうしましたか?俺の顔に何かついていますか?」


「あ、あ、貴方それをどこで!?」


「それ?」


「それよそれ!そのローブよ!」


この少女は【フェアリーローブ】の事を言っているようだ。何かマズったかな?この【フェアリーローブ】が実際、何で出来てるか分からないが、妖精の素材で出来てたなら確実に怒るだろう。ここからは更に慎重に答えないとヤバそうだ。選択肢を失敗すると敵対しかねん。


「このローブは昔、知り合いから貰いまして…」


「その知り合いって妖精ですか?」


「えぇまぁ…」


いや本当は装備ガチャから出た副産物なんだけど、ここは話を合わせていた方がよさそうだ。


「そうですか……」


あれ?何か思案してる顔になっているけど、俺選択間違えたかな?やべぇー…こちらの世界にきて初めての言葉が通じる住人なのに。信頼を築くの失敗したか…。どうするか。と俺も考えを巡らせていたら


「分かりました。貴方を信じます」


「……え?いきなりどうしてですか?」


えっ?なんで?いや明らかにフェアリーマントのお陰だろうが、いきなり信じますとか言われて、手のひらを返されても逆に怪しい。こちらが不審に思う。


いや元はこちらが信じて欲しかったんだけど、罠を警戒してしまう。信じて欲しいのに、いきなり信じますと言われ罠ではないかと疑うのも不謹慎だが、こればかりは仕方ない。


「そのローブ、【フェアリーローブ】と言うのですが、私達妖精一族しか作る事ができないローブなのです。そのローブを持っていると言う事は妖精族が心から信頼できると言う事です。言うなれば妖精族の友好の証なのです」


装備ガチャからの副産物がここでこんなに役に立つとは!!着やすいからと着ていたがよかった!着ていなかったらと思うとゾッとする。


「そ、そうなのですか。その知り合いですが、妖精族の友好の証とか一言も言ってなかったんですが」


「それはそうです。この【フェアリーローブ】は本当に心から信頼できる者にしか作らないのです。私が知る限りこのローブを授けた人間など数えるぐらいしかいませんよ?それほど滅多に授けないのです!」


おいおいマジかよ。俺の国の宝物庫にあと3着はあったぞ?そんなにレアなローブなんだ。レア度Aだけど。


「ま、まぁ信じてもらえるならそれに越したことはないけど」


「はい!そういえば貴方達はここに何しに来たのですが?」


「それについてですが、その前に私は旅人のルークと申します。後ろの連れのエルフはセレス、もう一人の女性はヴィーナと言います」


「セレスと言います。よろしくね!」


「ヴィーナでありんす」


一応ヴィーナの種族はブラッドナイトメアプリンセスという種族だから伏せておく。


「これはご丁寧に。私はこの先にある妖精の集落の女王をしております。フリージアと言います」


俺は驚いた。普通の妖精とは違うと思っていたが、まさか女王が出張って来るとは思わなかった。いや俺も王なんだが。緊張するが平静に。


「フリージア様、私達がここへ来た理由ですが先程も申した通り、道に迷ってしまいまして、ここが何処の森なのか、できればこの世界の事とかも教えてもらえると嬉しいです。何分、人を避けて暮らしていたので。あぁ後結界ですがこちらで穴を塞いでおきます」


トワイライト王国についてはまだ伏せていた方がいい。面倒な事になりかねない。


「そんな堅苦しい喋り方はやめてください。女王と言っても小さな集落なのですから。では、ここで話すのは何ですから私たちの集落にご案内しますね!それから結界は放っておいても勝手に修復しますので」


結界が自動的に修復するのか。高性能な結界だ。まぁとりあえず戦闘にならなくてよかった。戦闘になってもセレスやヴィーネがいるので負けないと思うが、会話で済むならそれがいい。セレスは大丈夫だがヴィーナは良く我慢したな。後で労うか。


「ではお言葉に甘えて」


俺はフリージアさんの言葉に頷いて妖精の集落を目指す。妖精の集落か楽しみだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺達はフリージアさんと供に妖精の集落を目指している道中なのだが、暇なので色々質問をしてみる。


「フリージア様こ…」


「フリージアで結構ですよ」


「で、ではフリージアさんで」


「まぁいいでしょう。で、何ですか?」


「この幻術の結界はフリージアさんが?」


「えぇ。私が幻術の結界を張って、結界の維持をしてます」


かなり広い範囲の結界を一人で維持するなんて相当大変な筈だ。


「凄いですね。こんなに広いのに」


「私が維持していると言いましたが、精霊にも力を借りているのです」


「精霊ですか。見えるのですか?」


「えぇ見えますよ。人間には見えない人が多いですね」


「見えない人が多いという事は、見える人もいるのですか?」


「たまにいますよ?見える人は精霊を使役して精霊魔法を使う人が多いですね」


何その羨ましいファンタジー魔法!俺無属性魔法しか使えないのだが…。というか魔法すらまだ使えてない。


「羨ましいです。俺は精霊が見えないので脈は無いですね」


「そんなことありませんよ?生まれつき精霊が見える人もいますが、急に見える様になった人もいますよ」


「そうなんですか!?それはまだ希望がありますね!」


と言うとフリージアさんはフフッと笑った。何かおかしな事を俺は言ったのか?まぁいい。


「幻術の結界なんですが、やはり人間と関わらない為に?」


「そうですね。人間というよりは冒険者ですかね?」


「冒険者?また何ですか?」


「えぇ…。それは私達妖精族が錬金術の素材になったり、捕まって奴隷にされたりと裏では取引されたりするのです」


「えぇ?冒険者がですが?」


「冒険者と言っても裏で闇商人とか闇ギルドの犯罪組織に繋がっていたりとか」


あぁー。何処にでもそういうのいるよね。前の世界でも違法な薬を裏で売ったりとかあくどい商売してる奴とかいたし。


「妖精族の羽は錬金術に、妖精族の涙は万病に効く薬になるとか」


「フリージアさん、それ俺に教えて良かったのですか?」


「貴方は信用できるから大丈夫です」


とニコッて笑う。これで裏切ったら俺は最低な人間だ。


「えぇ。もちろんこのローブに誓って誰にも話しません」


「ありがとうございます!ルーク様見てください。もうすぐ私達の集落です!」


フリージアさんが教えてくれる。今歩いてるところは森が生い茂って太陽の光すら当たらないのだが、フリージアさんが言った通りもうすぐ森を抜ける。トンネルを抜ける時みたいに光が眩しすぎて先が見えない。


そしてその光を抜けるとそこは…


「これは…!凄いですねー!」


セレスとヴィーナも見惚れて声を失っている。それぐらい美しいのだ。広場みたいな場所に色とりどりの花が咲き誇り可愛らしい家が所々に建っている。


「ようこそ!妖精の集落フェアリーガーデンへ!」


「フェアリーガーデン……。幻想的ですね!」


このフェアリーガーデンの景色に俺も見惚れていると3人の小人?が飛んでくる。


「女王様ー!おかえりなさーい!」


「なさーい!」


「なさーい!」


「リリ、ルル、ララ心配をかけましたね!」


「大丈夫だよー!あれ?女王様この人だーれ?」


「知らない人ー」


「お客さん?」


「えぇ大事なお客さんですから悪戯しちゃだめですよ?」


悪戯するのか?と俺は思ってしまった。その3人の小人は妖精だった。俺の国にもいるがやはり似ている。身長といい話し方といい。


「ルーク様、そしてお連れの皆様、こちらはリリ、ルル、ララ。この集落の妖精です」


「よろしくねー!」


「こんにちはー!」


「どこからきたのー?」


「こら質問は後にしなさい。それとリリ、ルル、ララ他の皆にもう大丈夫って教えてあげなさい」


「「「はーい」」」


「ルーク様今日もう遅いのでここに泊まって行ってください。あまり大きな家は無いので泊まれるか分かりませんが」


本当だ。空を見上げるともうすぐ日が落ちる。もうそんなに時間が経ったのか。


「お気遣いありがとうございます。野宿用にテントがありますので邪魔にならない広場で泊まります」


「分かりました。では明日この世界の事や、ここが何処なのかをお教えします。ですので今日はゆっくりお休みください」


そう言ってフリージアさんは自分の家に戻っていく。


俺は邪魔にならない広場を見つけ夕食の準備をする。


「せっかくだからジャイアントボアを食べようか」


「いいわねぇ!」


「セレス肉食べれるの?」


「エルフでも肉は食べるのよ!」


エルフは肉を食べないってのは迷信か。まぁそれはいいんだが、俺は自炊をしないから料理なんて作れないのだ。


俺はとりあえず切って焼けば食えるだろうと思って、ジャイアントボアをアイテムストレージから出して、腹を裂き内蔵を取り出す。後は毛皮を剥ぐ。血抜きはヴィーナのスキルでしてるから問題ない。俺が知ってるのはこんぐらいだろうか?後は適当にぶつ切りにして焼いたらいけるんじゃね?と思いながら作業をしていたら、見かねたセレスとヴィーナが止める。


「お前様、じっとしててくんなんし?」


「そうです!料理は私達がやるわ!」


それは俺の従者なのだからか、俺が単に料理が下手なのだからかどっちかわからない。前者であってほしい。やることが無くなった俺はぼーっとフェアリーガーデンの集落を見ている。とそこに1人の妖精が飛んできた。


「きたよー!」


呼んでいないが。


「えーっと……君の名は?」


「ララだよー!」


この妖精はさっきの妖精3人組のララだ。皆似てるからわからん。髪色で覚えることにした。ララはピンクの髪の妖精だ。ちなみにリリは青でルルは黄色だ。


「ララどうした?」


「遊びに来たー!」


と言い俺の肩にちょこんと座る。


「そうだララ、ご飯一緒に食べるか?」


「食べるー!」


「肉は食べれるのか?」


「食べれるよー!」


「肉食べらるんだな」


「肉はねー貴重なんだよ!」


妖精も肉は食べるらしい。詳しく聞いたところ妖精は主に木の実等を食べるらしいが、肉も好きらしい。ただ妖精1人1人そこまで力がないし、そもそも結界の外にはほとんど出ないからか、ハウンドやジャイアントボア等の魔物を食べるのは滅多にないらしい。


ララといろんな話をしていたら美味しそうな匂いがしてきた。


「ルーク様できたわよぉ!」


「ララもいるでありんすかぇ」


「いるよー!」


「一緒に食べたいんだけどいいかな?」


「えぇ!いいわよぉ!皆で食べるほうが美味しいものねぇ!」


そう言って皆席に着く。ララは机の上にちょこんと座っている。ちなみに机やテント、調理器具等はアイテムストレージの中に入れてきたのだ!


テントは魔道具でテントの中に入るとかなり広い。空間魔術でテントの中を広げてるので家並みの広さだ。改造したのはレイアだ。


確かレイアは、この空間魔術を空間魔術みたいな魔術と言っていた。つまり空間魔術ではないが似た様な魔術らしい。そもそも、魔法と魔術の違いすら分からん俺にそんなこと言われてもな。レイアはこの空間魔術をプリンの異次元がどうのこうのと言っていたが俺にはよく分からん。それよりも今は飯だ!


「いただきまーす!」


「まーす!」


ララが俺の真似をして食べている。ジャイアントボアの肉は柔らかくて脂が乗ってとてもイノシシとは思えないぐらい美味しい。


ララも久しぶりの肉なのか大きな頬袋が出来ている。ハムスターみたいで可愛らしいな。後ビックリしたのがセレスはともかくヴィーナも料理出来るのだ。どこで覚えたのやら。


料理を食べ満足して寝ることにする。風呂はないから我慢だ。テントの中にベットが置かれている。ちなみにセレスとヴィーナは俺の横に自分のベットを付けている。落ち着かない。


ララも一緒に寝たいのか俺のベットに入ってくる。


まぁいいか。

そして深い眠りにつく。


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