第一章12話 出立と初めての戦闘


演説をした日から5日後、フェンリルとヴィーナの部下から気になる情報が報告に上がった。


「ふーん。森の中に幻術の結界ねぇー」


「はい!ウチの部下達によると幻術範囲はこの国ぐらいの広さはあるらしいで!」


「でもそこまで強力な幻術ではありんせん。この国全体を覆ってる認識阻害の魔道具の方がよっぽど強力でありんす」


いま守護王のフェンリルとヴィーナから執務室で報告を受けている。この国はレイア、セレス、タナトスの協力により、この国を覆うほどの認識阻害魔道具を開発させたのだ。まぁ認識阻害も幻術と似ているからな。


「その幻術なんだが、どういった幻術なんだ?」


「歩いてる向きを惑わす、言うなれば方向感覚を狂わす幻術でありんす」


「この幻術の中心に絶対なんかあるでご主人様!」


「あぁそうだな。報告ご苦労。この件だが俺が調査に赴く」


俺の言葉にフェンリル、ヴィーナ、この場では一言も発しなかったイーリスが驚く。


「危険すぎます!主様!」


「そうやで!探索などはウチらに任せてくれれば大丈夫や!」


「何があるかわかりんせん。考え直してくんなんし?」


皆慌てて止める。まぁそうだよな。一国の王が調査なんて聞いたこともないし。だが俺は行く!こんな執務室での仕事はもう飽きたのだ!


「安心しろ。守護王を護衛にする。それで問題ないだろ」


「で、ですが……」


まだイーリスが渋る。


「それに、もしあの幻術の中に住人が居たとして、友好的ならば尚更俺がいたほうがいいだろ?」


「……はぁそれもそうですね。分かりました。許可します」


やっとイーリスが折れた!やったぜぇ!と心の中でガッツポーズする。


「明日にでも出発するか。護衛はセレスとヴィーナに頼む。後フェンリルと行きたいところだが、森の探索はまだ全てではないんだろう?ならそちらを優先してくれ」


「了解や」


明らかに落ち込んでる。特に尻尾がシュンと垂れ下がり耳がペタンとなって可愛い。


「そんなに落ち込むか?」


「お、落ち込んでへん!」


と言ってるが耳と尻尾は正直だ。俺は仕方ないとと呟いて立ち上がりフェンリルの前にいく。


「ご主人様?どないしたんや?」


「リル、今はこれで許せ」


「ふぇ!?」


俺はフェンリルの頭を撫で撫でする。フェンリルは最初ビックリしてたが、だんだん気持ちよくなってきたのか、耳はピンとなりピクピクし、尻尾は、はち切れんばかりに揺れている。そして目は気持ち良さそうに細めてる。あまりにも可愛かったので1分ぐらい撫でた。


「今度こういう調査があったらリルを連れて行くから我慢してくれ?」


「分かりました!絶対やで!?」


「あぁ」


尻尾を振りながら絶対やで?と言っている。次連れて行かなくてもまた撫でたら許してもらえそうだ。とか考えて席に着こうとするが、その途中何故か納得してないイーリスがこちらを見ている。


「なんだイーリス。お前も撫でて貰いたいのか?」


「べ、別にいりません!今はしつむひゃう!?」


俺はイーリスが最後まで言葉を言い終わる前に撫でた。リルもそうだが耳は意外とふわふわして気持ちいのだ。病みつきになる。リルとは違い耳は同じくピクピクしてるが、尻尾はゆっくり揺れている。狐の尻尾は狼の尻尾よりボリュームがある。抱きつきたいが我慢だ。


「うぅ〜……」


「撫でてもらいたいならそういえばいいだろ?まぁイーリスもお留守番だからな」


とフェンリルと同じぐらい撫でて耳を堪能して席に着く。


「お前様わっちには撫で撫でありんせんの?」


「いやヴィーナは…ほら大人だし…」


「そんなの関係ないでありんすぇ」


「ほ、ほら!今回の護衛はヴィーナだからな!」


「……まぁいいでありんす。それで我慢するでありんすぇ」


本当に欲しそうな顔だな。ヴィーナは何かと目に毒なんだよ。今回は幻術の結界があるからヴィーナを連れて行くのだがな、俺じゃなきゃ理性飛んでるよこれ。


「で、では報告を終わりにしてヴィーナは明日に備えろよ?二人とも報告ご苦労!」


そう言って報告を早々に終わらして入浴。入浴後布団に入るが中々寝付けない。遠足の1日前みたいな気持ちだ。ワクワクしている。


「楽しみだなぁー」


俺はそんな言葉を漏らしながら、いつの間にか深い眠りについた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日。朝を起きて朝食を食べて調査の支度を済まし、セレスとヴィーナを連れて城を出る。


城を出ると大勢の民達が門出を祝うかの様に盛り上がり声をかけてくる。


『頑張れよぉー!』


『応援してるわぁー!』


全く大袈裟だなーと思いながら手を振る。空を見上げるとセレスの配下であるフェアリー達が飛んで花弁を撒いてフラワーシャワーを演出している。フェアリーがフラワーシャワーなんて幻想的だ。だが何故、門出の時なんだ?帰ってきてからのがいいんだが…。まぁ嬉しいのでいいか。


このトワイライト王国は城がど真ん中にある。この国を上空からみて城から東西南北の道が出来ている。そして4つのエリアに分かれている。分かりやすく言えば漢字の田だ。


田で説明するなら、東側が正門で俺達はここから出発する。西側の先は崖になる。


南東エリアは住居が立ち並ぶ住居エリアだ。北東エリアは主に食材等が売られる市場。南西エリアは鍛冶や研究といった施設がある。北西エリアは雑貨屋衣類など日用品が売られているエリアになる。


田の左上、北西エリアの隅に大きな大木があるのだがそこが体の小さいフェアリーの住居になっている。


南東の住宅エリアに作ろうかと思ったがバランスや住みにくそうだったので仕方なく北西エリアに大木を作ったのだ。ちなみにフェアリーは身長はかなり小さい。俺の肩に座れるぐらいには小さい。


ようやく正門についた。出迎えてくれたのはルーシーの騎士団とルーシー、プリン、スサノオだ。


「ん。頑張って」


「あ、あの頑張ってくださいです!」


「…主の帰還を心待ちにしている」


「あぁ。お前達行ってくる」


と言い、ルーシーとプリンの頭を撫でてやる。俺からしてみれば可愛い孫みたいなものか?


「留守の間、頼んだぞー?」


「ん。もっと」


「は、はい!頑張りますなのです!」


充分撫でて手を離しスサノオに向く。ルーシーとプリンはもっとして欲しそうだがずっとしたくなるから我慢だ。


「スサノオ留守の間、任せたぞ」


「…承知」


「では行ってくる!」


そして俺は初めてこの国の外に足を踏み入れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


国を出て数分もしない内に森に入った。森はかなり生い茂って空からの太陽の光があまり届かないが、所々木漏れ日が届き幻想的に見える。これぞ冒険!俺の心はいまテンションが高いのだ!


ちなみに俺の装備は何時もの【フェアリーローブ】に【ミスリルの剣】を装備している。【ミスリルの剣】はガチャのレア度ではAで、Aランクの中でもかなり出やすい武器だ。


そして俺が何時も装備している装飾品が【女神の口付け】という名の指輪だ。何が口付けなのか分からないが、恐らくこの指輪に女神が口付けしたんだろうと一人納得してた。


この指輪は目玉商品として装備ガチャから出てたが、まぁ出にくい!それもそのはず効果が強力過ぎるんだよ。【女神の口付け】の効果は全ての状態異常完全無効というチート指輪だ。この指輪が出た時も荒れた。何が荒れたかと言うと全然出ないのだ。


俺はお得意の金の暴力で5万ぐらい使って出た。指輪1個でこれだからな。


レア度はS+だった。守護王達の専用武器は等は全てS+だったのだが、この世界の基準がまだ分からないからなんとも言えないな。


あと食料とかだが、インベントリ…まぁアイテムストレージだ。に入ってる。アイテムストレージはプレイヤー全てに、ウィンドウの便利機能の一つとして付けられている機能だ。プリンにも似たような事ができるが、プリンはアイテムボックスの中身をその場で捨てることができる。俺はいちいち出して捨てないといけない。


アイテムストレージに何か入れたい時は、その何かに触れて念じれば収納される。出す時はいちいちウィンドウを開かなくても、頭の中で念じると目の前に出せる。念じれば頭の中でアイテムストレージの中身一覧が出てくる。


もちろん時間が止まっているので料理などは熱々のままだ。


「ヴィーナ、その幻術の結界があるというのはどこら辺だ?」


「トワイライト王国の近くに湖があるってきいてるでありんしょう?その湖の更に奥の森、湖から約2時間ぐらいの所に幻術の結界がありんす」


「へぇー意外に近いのねぇ。ルーク様、何があるか分からないので気をつけるのよ?」


2時間って近いのか。確かに俺はレベル200超えてるからあまり疲れないが。


セレスは子供を心配するかのような喋り口調だ。くそう!甘えたくなる!


湖はトワイライト王国を出て30分の所にある。本当に近かった。湖はめちゃくちゃ大きいわけではない。小さくもないが大きくもないって感じだな。でも綺麗な湖だ。


「やっぱりここら辺に精霊の力を感じるわね」


俺には全く感じないがエルフであるセレスにはわかるのだろう。


「そうなのか。丁度いいここで少し休憩していくか」


「いいですねぇー!」


「賛成でありんす」


俺達はこの綺麗な湖で1時間ほど休憩する。軽い食べ物も出して栄養も補給する。


「お前様、わっちにあーんをしてくんなまし?」


「何を言ってるんだ?ヴィーナ」


「そうですよヴィーナ!」


ほらセレスも怒っている。言ってやってくださいよセレスさん!


「貴方だけずるいわぁ!」


「ちょっ!?セレスさん!?」


「ならセレスもして貰えばいいでありんすぇ」


怒るのかと思ったらセレスも乗っかってきた。このままだとずっと強請るので結局二人に俺から食べさせてやった。俺から食べさせてもらった二人は眩しいほどの笑顔だったのでこの笑顔を見れただけでいいかと思った。


その後二人からもあーんをしてあげるとか言われ断っていたのだが、うるさかったので折れた。だが、二人から食べさせてもらうのも悪くないと思ってしまった。美人だからか。


これ調査というよりピクニックだなと思ったが心に押し留める。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて出発するか」


湖の更に奥の森は木漏れ日すらもなく鬱蒼とした森だ。まだ昼を過ぎたところなのにかなり暗い。


「結構暗いな」


「ルーク様足元に気をつけてくださいね!」


「わっちはこういう暗いところは好きでありんすぇ」


まぁヴィーナは吸血鬼の血も入ってるからな。そうして暗い中歩いて30分ぐらいたった頃だろうか。


「お前様、魔物が1体近づいてくるでありんす」


「そうなのか?」


俺は全く気づかなかったが、少ししたら辺りから何かこちらに近づく気配を感じる。ヴィーナの気配感知は達人の域を超えてるから分かったのか?と呑気なことを考えていたら森の奥からソレは現れた。


「ジャイアントボアですね」


「そうみたいだな」


ジャイアントボア、人間よりも大きいなイノシシだ。その突進力は凄まじく人間を軽々と吹き飛ばす程の威力。


俺は【神眼】を使って、ジャイアントボアを見てみる。


レベルは48でスキルに【突進Lv2】が付いている。まぁLv48なら雑魚だろう。


「俺がやる」


「頑張ってね!」


「お前様なら余裕でありんすぇ」


そして俺はミスリルの剣を抜く。よくいるんだよ。圧倒的強者を前にしても突っ込んでくる馬鹿な魔物が。ある程度賢い魔物ならセレスとヴィーナのオーラで逃げ出すんだけど。


ジャイアントボアを前にしてるが恐怖は無い。ゲームプレイ時代に野良の魔物でよく似た魔物が出てきたからだ。それでも恐怖と感じないのはまだゲームをプレイしてる感覚なのかもしれない。


俺は相手が動くのを待つ。そして勢いよくジャイアントボアは突進してくる!


「えっ?」


俺は驚いた。相手の動きが止まって見えるのだ。止まっては言い過ぎだがスローモーションだ。これがレベル差なんだろう。と思いつつ余裕を持って横から頭を剣で貫いた。


「ぶもぉぉぉーー!」


ドシンッ――


ジャイアントボアは断末魔を叫びながら倒れた。俺の初めての戦闘は呆気なく終わった。


「ルーク様お見事です!」


「お前様、格好良かったでありんすぇ」


「あ、あぁ。ありがとう」


いや躱して一突きしただけだがな。


「これ食べれるよな?」


「もちろんです!」


「お前様、わっちが血抜きするでありんす」


ヴィーナはそう言うとジャイアントボアの傷口に手を付けて【吸血】のスキルを使う。2秒で血抜きが完了した。そのジャイアントボアを俺のアイテムストレージに仕舞う。


ジャイアントボアをというか生き物を初めて殺したが特に嫌な感情や可哀想と思う感情はない。


それは何故か?1つは前世でイノシシを食べたことがあるからだ。食料としか俺は見えてない。


そしてもう1つ、前世の世界では牛や豚が出荷される為に殺される動画や、生きるためにイノシシを罠に嵌めて殺す動画があった。その動画に対して可哀想等と言う偽善者がいた。俺はそんな奴らに反吐がでた。


動画を見た時だけ可哀想、食べ物に感謝と言うが、3日も経てば人は食べる事に感謝を忘れまた何時もの様に学校の勉強や仕事に追われる日々に戻る。可哀想と言った奴らは感謝を忘れ、さも当然の様に牛や豚を食う。


俺は牛や豚が出荷される為に、殺される事になっても可哀想とは思わない。寧ろそれが当然だと思う。勿論、牛や豚を育てた人からしたら、愛着が湧き可哀想と思うのは仕方ない。だが動画見て、特に愛着も無いのに可哀想と思う心がわからない。


こちらの世界に来て今は食料が不足している状況。まだ余分はあるがいつか無くなる。


でも生き物を殺すと可哀想だから殺さないなんて結論はでない。生きるために、生き物を殺す事に躊躇いなど無いし、可哀想などもない。


ジャイアントボアに愛着があるわけでもないし慈悲もない。


弱肉強食。もちろん俺が弱ければ死ぬだけだ。せめてもの苦しまないように確実に仕留めるし、残さず食べる。


そういった偏った思想だからそう考える事ができてるかもしれない。


「じゃあ進むか」


と言って更に森の奥へ進んでいく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る