第13話 覚悟と転機
私は覚悟を決めた。
三嶋に告白する。
この長きにわたる片思いに決着をつける。
今は部活動が終わり、皆帰り始めているころ。
葵が残った仕事はやっておいてくれるというので、今日だけはお言葉に甘えてさっさと帰ることにした。
何気にすぐ帰ってしまうアイツは、普段の調子だと先に帰ってしまうので助かった。
校門でヤツを待ち伏せする。
少し手が震え、手汗が滲む。
「あ、啓介。彩先輩が呼んでたぞ」
きた。
三嶋の声だ。
それにこの感じだと啓介は彩先輩と帰るっぽいから三嶋は一人だ。
「お、マジか。ありがと、三嶋」
啓介が去り、一人こちらへ向かってくる。
「み、三嶋!」
意を決して声をかける。
「原田か」
「あのさ、帰る方向一緒だし、たまには一緒に帰ろ?」
「うん。そうしよう」
私たちは一緒に校門を出た。
「いつぶりだっけか?こんな感じで一緒に帰ったのは」
「この前帰っただろ?」
この前。
そう、告白っぽいことをされたあの日だ。
「あ、いやそうじゃなくて学校から一緒に帰る感じの」
「んー。それは入学手続きをしに一度来た時以来じゃないか?」
「そんな前か!」
よしっ!
普通に話せている。
「ところで、この前僕が桜木さんと仲がいいんじゃないかって言っていたけど」
「え……」
「あれは嫉妬だった?」
さっきまでなんとか平静を保っていた私は、一瞬で硬直した。
「な、なに急に」
「知りたいんだ。あれをどういう気持ちで言っていたのか」
真顔でこちらへ話しかけてくる。
真面目なコイツはこんな時厄介だ。
「ど、どうって……」
ジッとこちらを見続ける。
「あー!もう!そうだよ!アンタと一緒!」
私は目を逸らしながら投げやり気味に答えた。
「ならお互い意味もなく嫉妬していたんだな」
「ま、まぁそういうこと」
二人はそのまま無言で歩き続けた。
私は今日一緒に帰った理由を思い返す。
「ねぇ」
思わず拳を握りしめる。
「私さ、三嶋のこと……」
「ちょ!ちょっと待って!」
「は?」
急に三嶋に止められた私は冷静さを若干取り戻す。
「何?」
「そ、そういうのは男から言った方がいいかなって思ってさ」
そういう三嶋の顔は真っ赤だった。
普段割と落ち着いている三嶋のこんな顔を見たのは初めてだ。
「そういうのいいから。私、三嶋のこと好きよ」
「あー!ちょっと待ってって言っただろ!なんで原田はそういう……」
「うっさい!この間嫉妬したとかさらっと言いおって!こっちの身にもなってみろ!」
「あれは観測気球的な感じで……」
「三嶋のくせに生意気!その観測気球にどれだけ私が悩まされたと!」
「それは、ごめん」
「そんで、私に言うことは?」
ゴホンと咳き込むと三嶋はこちらへ向き直る。
「原田が好きだ。僕と付き合ってほしい」
この言葉を何度夢に見たことか。
「ふぅーん。そうなんだ。どうしよっかなぁ」
「どうしよっかなぁって。お前なぁ」
「ま、しょうがないから付き合ってあげるわ」
「はいはい。よろしく」
さっきまでのじれったい空気から一転していつも通りのこの感じ。
物語にあるような理想的な雰囲気ではないけれど、こんな自然体でいられる三嶋だからこそ、私は好きになったんだと思う。
それは三嶋も同じだろうか。
私たちは再び歩き出す。
帰る方向には夕日が長い影を作っていた。
「ちょっと寄っていかないか」
帰り道で三嶋が公園を指さして言った。
この公園はお互いの高校への通学路上にあって、ここから私と三嶋で方向がかわるのでたまに三嶋と立ち話をすることがある。
今日もそんな感じだけれども、いつもとはどこか違う雰囲気だ。
「えぇー!私何されちゃうのぉ?」
わざとらしく嫌がる素振りをしてみせる。
いつもなら怪訝な顔をされて終わり、なのだが。
「……されちゃうかもな」
「へ?」
驚いて三嶋を見るとちょっとニヤニヤした表情。
ムカついた私はパンチしようとすると、動きを読まれて手を掴まれた。
「あ……」
固まる私の手を引いて、私たちはそのままベンチへ座る。
「な、なんかいつもと違わない?」
「そりゃそうだよ。付き合ったんだから。それに僕自身ちょっと舞い上がってる」
「全然舞い上がってる感じではないんだけど。ホントに私のこと好き?いつから好き?」
言ってしまってから後悔した。
前々から分かってはいたが、私は結構重い人間だ。
付き合って初っ端から聞くことではない。
それでも三嶋はこちらを向くと、優しく微笑んで答えた。
「好きだよ。多分中学の体育館裏で泣いてる原田を見た時から。普段元気な子の弱った姿を見たらね。ギャップ萌えってやつかな」
「あー、あれね。あれから話すようになったんだっけか。ペロペロキャンディーくれたっけ」
「ペロペロキャンディーは忘れてくれ」
「いいじゃん。だってあの時私も……あ」
うっかり話してしまった。
「そっか。原田もあの時か」
「うん」
それから私たちは辺りが暗くなるまで話していた。
普段と同じようで違う距離感が何だか新鮮だった。
その夜、今日のことを思い返しながら布団でごろごろしていると、葵から電話が。
そうだ、葵に報告しないと。
そう思いながら電話にでる。
「もしもし。どうした?」
「あのさ、智子」
「うん」
「啓介と彩先輩、別れたって」
「え?」
急な話に頭が追い付かない。
「マジ?」
「うん」
「そっか。お似合いだと思ったんだけどな。なんでだろ?」
とりあえず浮かんだ言葉がそれだった。
「……別れたのは、啓介が私のこと好きだからだって」
「は?」
私の頭は完全にフリーズしてしまって、沈黙を続けるしかなかった。
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