第12話 上の空な一日
今は学校の授業中。
けれども授業になんか意識はいかない。
それは昨日の三嶋の言葉が原因だ。
『うん。嫉妬だ』
私が啓介とよく話していることに嫉妬していた……。
あの三嶋が。
結局あの発言の後、二人とも特に言葉を交わさないまま別れてしまった。
あそこでもう少し問い詰めていたら変わっていたのだろうか。
これから三嶋との仲はどうなるのだろう。
そう考えると何も手がつかなくなる。
昨日の夜も、今朝も、そして今も上の空だ。
「おーい。智子?」
気づくと目の前で葵が手を振っている。
「もう昼休みよ。どうしたのよ」
「へ?」
見ると周りはみんな弁当を広げている。
「あ、あははは」
「もう。しっかりしてよ」
「ま、まぁ今日はたまたまね」
「今日も、でしょ?」
そんな呆れた表情の葵の後ろには、いつの間にか三嶋が。
こちらの視線に気づいたのか、三嶋と目が合う。
お互い固まって、まるで見つめ合っているようだ。
「……ってわけなのよ。ちょっと!智子!大丈夫?」
「へ?」
「へ?って。今日は輪をかけておかしいわよ」
「ご、ごめん。弁当食べよ!」
私はすぐに弁当を取り出すと机に置く。
葵もそれに続く。
「い、いただきます!」
「……いただきます」
またチラリと奥の方を覗く。
どうやら向こうもお弁当を食べはじめたようだ。
クラスの友達と談笑している。
そこでふと気づいた。
今日一日中見ていても、ヤツは普段と変わらなかった。
私はこんなに気になってしまうというのに。
なんだかムカムカしてきて、つい睨んでしまう。
「……三嶋くん、どうかした?」
葵のその言葉にビクッと体が固まる。
自分の状況を完全に忘れていた。
「い、いや。なんでもないよ。あはは」
「嘘ね。授業中もずっとチラチラ見ていたもの」
そこまで見られていたのか。
そりゃそうか。
葵はいつも一緒に居るし、気に掛けてくれる。
私は葵の耳に顔を近づけて言った。
「葵はまだ啓介のことが好き?」
その瞬間、顔を真っ赤にしてバッと私の方を向く。
「な、何言って!」
全く素直じゃない。
「……そっか。なら話す」
「どういうこと?智子」
私はちょいちょいと寄ってくるように手でサインを出すと葵はまた耳を近づける。
「あのさ、私三嶋が好きなんだよね」
「……それは、恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で」
再び私の方を向いて目をパチクリさせている。
「そうなんだ」
「うん」
「それは後で聞くとして、さっきの質問との関係は?」
「葵、最近三嶋とよく話してるからさ。なんかそういう関係だったりするのかなって」
「三嶋くんと?いや、ないない」
「ぷっ」
返事に少し笑ってしまう。
「何よ」
「即否定だったからさ」
それだけだはない。
葵から三嶋への恋愛感情はないことが分かって少し安心しているのかもしれない。
「けど、そっか。智子は三嶋くんが……。全然気づかなかった。いつもバカにしてるもの」
「それは、あの……」
「照れ隠し?」
「えーと……」
「へぇー」
その声にふと顔を上げると、珍しくニヤニヤしている葵の顔が。
「智子がねぇ。三嶋くんをね」
「な、何?」
「ううん。気にしないで」
そう言いつつもまだ不敵な笑みを浮かべている。
いつも私にからかわれているので仕返しのつもりなのだろう。
だがこんな状況は簡単にひっくり返すことができる。
「ま、葵の片思い歴に比べたらかなり短いけどね」
「なっ!そこまで長くないわよ。第一、べ、別に私はそんなんじゃ……」
「ふっ。葵もまだまだね」
「くっ」
悔しそうな顔をする葵。
「で、何かあったの?」
「それが……」
昨日の帰り道のことを葵に話す。
「そうなのね。ってことは両想い?」
「ってことだと思うんだけど。どうなんだろ」
それを聞いた葵はちょっと迷った様子で話し始めた。
「あのさ。私が三嶋くんと話してるとき、何話してると思う?」
「え?」
この間盗み聞きしたことが思い出される。
「部活のこととか?」
「んー、まぁそれもあるけど。一番多い話題は?」
「……葵がかわいいってこと?」
「へ?」
「いや、ごめん忘れて」
「そっか。あの時も智子はすごく不安だったんだよね。でも大丈夫。あれからは一度も……。あ……」
そう。
二回目はたまたま私も聞いていた。
「ま、まぁたしかによく褒めてくれるけど……」
「あのスケコマシ野郎!」
私はちょっと大きめの声を出して立ち上がる。
そして振り向いた三嶋を睨んだ。
「わ!ちょっと、智子。落ち着いて」
宥める葵に促されて渋々座る。
少し驚いてこちらを振り返った三嶋は、笑顔を作るとまた別の方を向いてしまった。
「で、話を戻すけど」
葵は姿勢を正す。
「一番多い話題は智子のことよ」
「私?」
考えもしなかった答えに思わず聞きかえす。
「そう。もちろん私たちの共通の話題が限られるっていうのもあるけど、『今日原田は授業中こんなこと言ってておもしろかったね』とか、そんなところよ。いつも」
「一緒にいて話している内容がそれ?」
「そう。だから嫉妬なんてしても意味ないわよ。それに私は……」
「そっか。そっか!」
ダメだ。
笑顔が抑えられない。
三嶋が私のことをそれだけ気にしていたんだと思うと。
あの何考えているか分からない三嶋が、私のことをいつも話しているのだと思うと。
私は期待していいんだろうか。
この長きにわたる片思いに決着をつけることはできるのだろうか。
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