第10話 飛び出た二人
倉庫の脇から俺と同時に出てきたのは原田だった。
「なっ!お前!なんで……」
「それはこっちのセリフだよん。啓介」
原田なら三嶋と葵の会話に突入していきそうなのに。
「らしくないな。盗み聞きとは」
「それもこっちのセリフ」
「確かにな。なんで俺はあんなこと……」
考えてみれば俺だって会話に割って入るタイプだ。
「啓介は何か考えがあったんじゃないの?」
「いや、全く」
「じゃあ、あの二人のことどう思う?」
「どうって何だよ」
「それは、その……」
普段おちゃらけた原田にしては珍しく口ごもる。
「二人はお似合いに見える?」
「お似合い?」
「その、恋愛的な意味で」
瞬間的にさっきの情景が思い返される。
葵も三嶋も、俺が知らない雰囲気だった。
胸が何だかムカムカする。
あれが、お似合い、なのか?
「あはは」
俺は笑って見せた。
「何?」
急に笑う俺を不審な目で見る原田。
「葵にはまだ早いさ。恋愛なんて」
「はぁ?なんでよ?」
「だってあいつ好きなやつとかいないって言ってたぞ」
「……かわいそうな葵」
「は?」
「なんでもない」
やけにあの二人の話にこだわるようだ。
それはそうだ。
盗み聞きしていたくらいだから。
しかもさっきの会話からすると、原田には何か考えがあったらしい。
狙いは三嶋か、葵か。
だが葵ならいつものテンションでいるだろう。
普段見たことのないこの様子はもしや……。
「……お前、三嶋のことが好きなのか?」
固まる原田。
「ち、違うっ!」
真っ赤になって否定する。
これは当たりだ。
こういうことに割と疎い自分にしては珍しく気づいた。
「へぇ」
「何その顔!マジキモイ」
「そんなこと言っていいのかなぁ?このこと三嶋にコロッと言っちゃうかもなぁ」
「くっ!」
普段お調子者で他人をからかってばかりのこいつをからかうのは気分がいい。
「原田が三嶋をねぇ」
「もう何とでも言ってよ……」
「なぁ、いつから好きなんだ?三嶋のこと」
「それは……中学のときかな」
「そんな前から!?」
「別に、ちょっと前の話でしょ。私の知り合いには小さい頃からの幼馴染が好きだって子もいるくらいだから」
「そっか。そんなもんか」
思えば、彩先輩と付き合いたいと思ったのはいつだったか。
当然知り合ったのは高校に入ってからだから、その後ということだけれども。
「三嶋のどこが好きだったんだ?」
「うっ。結構くるね」
ここまで動揺している原田は貴重だ。
「かっこいいとか?」
「いや、かっこいいと思ったことはない」
「は?なのに好きなの?」
「それは、さ。まぁ、話してるうちに」
そこから原田は三嶋に惚れた経緯を話した。
こんなやつでも恋をしている。
そして恋の仕方も俺とは違う。
驚きの連続だ。
「……って感じで。って!何でこんなこと啓介に話しちゃったんだぁ」
さっきまでうっとりとした表情で話をしていたのだが、俺に話していることに気づいて頭を抱えている。
「ほら、私話したんだらさ。啓介も話してよ。彩先輩とのこと」
「いや、そっちが勝手に話したんだろ」
「いやいや。もとはと言えばアンタが詳しく聞いてきたからじゃん」
とはいえ、俺と彩先輩とは何にも進展がない。
だからだろうか。
今心の中にある疑問が率直に言葉に出てしまった。
「……俺、ホントに彩先輩のこと好きなのかな」
「は?」
二人の間に沈黙が訪れた。
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