第17話a
顎下からの無言のアッパーカット。ほんの少しの浮遊感と頬に伝わる振動を感じている間こう思った。ごめんなさい、と。
「…。」
「…なんかごめん。」
後ろにいた二人も多少の罪悪感を持ったらしい。
「ねぇ、今の状況わかって言ってるの?クズ?」
「という事らしいのでうちは無理です!おかえりを!」
玄関の方に手を向け軽くお辞儀をする。これ以上無い紳士的な行動だろう。
「…綾瀬さんが何でメイド服を着て此処にいるのかは聞かないことにするわ。」
空間の温度が寒くなったように感じる。まだ秋だと言うのに。
背中にいくつもの汗が流れているのを感じる。もう秋だと言うのに。
「単刀直入に言うとね。居場所を失ったのよ、彼によってね。」
足元の骨から鳴ってはいけない音が聞こえてきた。彼女の履いている靴はスリッパだと言うのに。そしてまだ背中を上げることはできていなかった。
「しかもその彼は私たちと協力して欲しいって言ったのよ。殺し合いをしたって言うのに。」背中が、動かない。
「何か、弁解はある?」
どうやら弁護士を雇う必要もなく刑は執行されるらしい。
「…、手加減でよr」
その後の記憶は、無い。
目が覚めると視界に入って来たのはいつも毎日朝に見る光景だった。
「…知っている天井だ。」
首を動かし窓を見ると茜色に輝いていた。
いつもの夕日より感慨深く、そしていつもより濃い夕焼けは世界が変わってしまったんだと言う表れなのか静かに胸に響いていた。
心が少しセンチメンタルになっていると扉からノックする音が聞こえた。
「入っても?」
「…嗚呼、どうぞ。」
目を向けると私服の綾瀬が入って来たのがわかった。
「メイド服は?」
「同級生の目の前で着ながら掃除なんてしたくない。」
「…すまん。」
自分でも驚いた。ほとんど無意識に出た言葉なんていつぶりだろうか?
「…別に。だけどもう二度とメイド服なんて着ないから。わかった?」
「…はい。」
その顔は哀愁感が漂っていた。
「それで、彼女達は住まわせるの?」
「…迷ってる。」
別に拒否する理由と言っても殺し合いをして首を切られ体を貫かれそうになったくらいの事で、別に自分の大事なものに手を出された訳でもない。
逆に自分の方が失礼をしてしまったと思っているくらいだ。
それに、綾瀬と同じ同性がこの家に住むとなれば綾瀬の心も少しは落ち着く事だろう。
「彼女達は?」
「リビングで休憩しているわ、だけど心では警戒しているようだし。」
まぁ、忍者だからねぇ。
「変な事とか無い?」
「スコップとか鉛筆みたいな物を弄ってたくらいかしら。」
恐らく現代版ニンジャのクナイや鉄串みたいな物の代用品だろう。
「そういえば綾瀬はあいつらの事知っているの?」
「一応委員長の立場だからね。何処にでもいる普通の女の子って言う感じだったよ。」
さすが忍者というべきか。あの個人の異常性が周りにバレないように溶け込んでいたのか。それも一年以上も。2年生になってから入ってきた綾瀬にもわからないように。
「決めた。住んでもらう事にしよう。その方がメリットがデカそうだ。」
楽に生きるためにも有用な味方は多い方がいい。
「綾瀬は?いいのか?」
「…ここの家の主人は貴方。そして私の雇い主、護ってくれる人も貴方。別に反対意見もないわ。」
そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな。
「さて、これからの暮らしの事について、4人で話し合わないといけないな。」
これからの暮らしがもっと楽しくなるのを願って。
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