第34話「事情」
「どうしたのですか?花成。」
ニレイは花成がかけてくれた自分の体より少し大きいブレザーをぎゅ、と掴んで聞いた。
彼に包まれているような感覚を覚えた。
「実は・・・」
花成はRYU-10アールワイオーテンとのことを話した。
雨の中、二人で濡れながら花成はRYU-10のことを話し終えた。
「・・・それは、花成は悪くないです。」
RYU-10のことを聞いて、ニレイは毅然とした表情で言った。
花成はニレイが怒っているように見えた。
初めて会った時、彼女はこんな表情ができただろうか。
それとも電池問題が解決したのだろうか。
そういえば、ナナミクやキュウカにニレイの電池のことを話したが、結局はぐらかされて終わったのを思い出した。
ニレイは未来から来た時、省電力モードだった。
だからこそ、今のニレイのように無感情に近い姿で過ごしているのだった。
しかし、他のアンドロイドはそうではないようで、省電力モードでいわゆる”アンドロイドらしく”過ごしているのはニレイのみだった。
「だけど、アイツは、RYU-10は本当に俺のことを憎んでいるようだった。未来で何があったのか分からないけど・・・」
「何があったか分からないなら聞いてみるべきです。」
「えっ」
「直接聞きに行きましょう。」
「で、でもどこにいるか分からないし・・・」
「確かに。その通りですね。それではとりあえず、戻りましょう。皆きっと心配していますよ。」
「・・・ああ。」
衝動で飛び出してきてしまったが、花成はニレイと帰ることにした。
「・・・ごめん。」
「どうしました?」
「関係ないなんて言って。」
「・・・良いですよ。でも」
ニレイは振り向いた。
「関係大アリですよ。花成は私の運命の人ですから。」
その言葉に花成はドキリとした。
急にどうしたんだろう。
冗談でもそんなこと言う人・間・じゃなかったのに。
先ほどまで激しく降っていた雨はもう弱くなっていた。
「お、帰ってきた!」
だらんと椅子の背を前に行儀悪く座っていた通は立ち上がった。
カラン、と扉をあけ、ニレイと花成がカフェに入ってきた。
「花成君!」
三繰は花成のほうを見たが、少し固まってしまった。
「ん?・・・おいおい、お前ら、何があったんだ?」
三繰の反応を見て、通があきれた声を出した。
いつの間にか、ぎゅ、とニレイは自然に花成の手を握っていた。
「あっ、ごめんなさい。また花成が逃げないようにと無意識で・・・」
「ご、ごめん俺もその、気づかなくて・・・」
ニレイに手を握られるのが安心感があったのか花成も全く気づいていなかった。
ぱっ、とお互い手を放し、花成は顔を赤らめながらそっぽをむいた。
「まっ、確かに、花成が逃げるかもしれねぇからな~。ありがとな、ニレイちゃん!」
通はなんだか嬉しそうな寂しそうな顔をしていた。
「に、逃げねぇって。」
恥ずかしそうに花成が反論した。
「本当かよ。さっき、いきなり店を飛び出したの誰だっけ~?」
「・・・うるせぇ。」
三繰はそのやり取りを見ながら勇気を振り絞って口を開いた。
「花成君。・・・何があったの?」
飛び出していったあと、三繰は花成が放り出した潰れたケーキの箱を開いた。
そこにはおそらく、三繰が前に好きだと言っていたスペシャルショートケーキの残骸ざんがいらしきものがグチャグチャになっていた。
絶対に何かが起こったのだろうと予想できた。
「それが・・・未来から来たっていう男のセアンドロイドが現れたんだ。」
花成は来る時にあったことを皆に話した。
「RYU-10・・・」
「ナナミクそれって・・・」
「・・・うん。それはリュートね。」
「リュート・・・?」
ニレイはその名前を聞いて何かが頭の中でチラついた。
確実に聞いたことがあるどころか、自分と深く関わりのある人物の名前であることは確かだった。
リュート、絶対に未来で聞いた名前だ。
詳細は覚えていないが、花成やナナミクをはじめ皆とおなじ大切な存在だった気がする。
外見の話ではなく内面的な部分が未来の自分に似ているといつか思ったのを覚えている。
あれは何の時だろうか。
「アイツは俺を恨んでいるようだった。きっと未来の俺がなにかしたんだろ?」
花成は詳しい事情を知っていそうなナナミクとキュウカに聞いた。
「・・・私達からは詳しくは話せない。ニレイの記憶が戻って、自分の口から言わない限りは。
おそらく、リュートもそうなんだと思う。
未来のニレイ自身が望んだことだから。」
ナナミクが重たい口を開いた。
「私自身が・・・?」
ニレイは何か掴めそうで掴めない、もやもやとしたものを感じていた。
「でも安心して花成!リュートのはただの逆恨みだよ。花成は悪くない!むしろ・・・」
「キュウカ!」
キュウカが花成に何か言いかけたが、ナナミクが止めた。
女子高生型セックスアンドロイドのキュウカはよく小学生型セックスアンドロイドのナナミクにいさめられていて、逆では、と周りは思っていた。
「あっ、ごめん。これ以上は話せないけど、そこは安心して!」
キュウカはナナミクに止められたじろぎながら手を振った。
ナナミクもキュウカもニレイの記憶がぼんやりとしていることは承知済みだったが、それでもなお何も話そうとしなかった。
「おいおい、お前ら未来がどーのこーのって何の話なんだよ?なぁ、三繰先輩。」
「え、う、うん。な、なんのことかな~?」
花成、ニレイ、ナナミク、キュウカは、はっとした。
そういえば、リュートの話が気になりすぎて、通や三繰、ライサが聞いていることをすっかり失念していたのだ。
「な、なんでもないわよ!このクソメガネ!」
「ぐへ!」
ナナミクの靭しなやかで白く美しい足に強烈な蹴りを見舞われ、通はイスごとひっくり返った。
「なにすんだ!このツインテールチビ!」
「なんですってぇ!?おら、おら!」
「痛い!蹴んないで!」
意外と強いナナミクの蹴りに通はちょっと泣いた。
「・・・未来・・・」
ナナミクと通がじゃれている中、三繰はつぶやいた。
キュウカが現れた時に聞いた、未来から来た存在というところがいよいよ本当なのだと思えてきていた、
やはり、ニレイたちは・・・。
それぞれの考えや思いが溢れ、送別会は全員あまり心から盛り上がれないまま時間だけが過ぎていった。
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