第20話「真の恐怖」

「それにしても知らなかったよ。ニレイがあんなに強いなんて。」




「説明してませんでした?セックスアンドロイドは基本的に人間の数倍は筋力が強いんですよ。」




3人は並んで家に向かっていた。




入れ替わるように先程の公園のほうにパトカーが向かっていった。








先程、花成が公衆電話から110番したのだ。




とは言っても、花成は鼻血でほとんど話せなかったのでニレイに変わってもらった。




襲われかけた女性自身が反撃して仕留めたので警察を呼んだ・・・というストーリーで匿名通報したのだ。








例の不審者が意識を取り戻して花成たちのことを思い出したら面倒なことになるが、今はどうでもいいことだった。




ちなみに不審者は●しておらず、気絶させただけなのはニレイが責任を持って言える、らしい。


蹴られた時に命に別状がないか心配になる音がしたがどうやら大丈夫、らしい。








「そ・・・そっか・・・。あれ、でもナナミクはそんなに力強くないよな?」




「あ、あたしは他のモデルとは違うから・・・。」




「ふーん。まぁ、そこもオコチャマ・・・あ、ごめん。」




花成は気まずそうに頭をかいた。




もとはと言えば、自分がナナミクのことをからかったから起きたことなのだ。








「フン。良いわよ。あ、あたしも悪かったし。それに子供なのは事実だしね・・・。」




ナナミクはそう言ったが、それは自分の内面のことだった。








うちへ帰る途中、ナナミクはそれぞれの手を花成とニレイに繋がれて帰った。




なんだか自分が二人の子供になったみたいで納得いかなかったが、悪い気分ではなかった。




そういえば、未来でも最初に会った時、こんな風に3人で歩いたこともあったかもしれない。
















未来で、花成のところにナナミクが連れてこられたのは理由があった。








特・殊・な・職・業・柄・、花成のところには問題のあるセックスアンドロイドが多く運び込まれた。




その中のひとりだったのだ。








ナナミクのタイプであるXXX-7739型はいわゆるロリコン向けに開発され、そういった性的指向のユーザーに配達されたのだった。




こうした特殊なセックスアンドロイドは、特殊性癖者の事件を解決するための合法的な犠牲として開発され、多くの賛否両論がありながらも実際に犯罪が減ったこともあり人気商品の一つとなっていた。








しかし、その中の1体であるナナミクは初出荷で届けられたユーザーのもとから1時間も経たずに脱走した。












「お、おれの天使ちゃん・・・。やっと再会できたね・・・。何十年も我慢してきたんだ・・・!」




届けられたユーザーは、ナナミクを起動するや否や、クマのような図体で襲いかかろうとしてきた。




「イヤっ、やめて!」




ナナミクはそのユーザーから何とか逃げ出したのだ。












「おかしいだろ!セックスアンドロイドなんだから面倒なことは抜きにして早くヤらせろ!コイツは壊れてる!」




そのユーザーのメーカーへの通報によって逃げ出していたナナミクは捕らえられた。








そして、例のユーザーのクレームのせいで、ソフトウェアの検査と称してナナミクはメーカーから花成のところに送られたのだった。




ある意味、メーカーに見捨てられたアンドロイドがナナミクだった。








実は、こういった問題はその時は殆ど無かったのでメーカーも困り果てた末の措置だった。




セックスアンドロイドが発明された初期、とある女性活動家のおかげで、アンドロイドのプログラムもユーザーの常識や法律も書き換えられ、




いきなり行為を果たすのではなくある程度双方のコミュニケーションを取った上での行為のみが可能となっていたのだった。








そのため、その頃のほとんどのユーザーはセックスアンドロイドとはいえ、ある程度ごっこであったとしても恋人的な関係性になってから行為に至るというルールを守っていた。








「お、俺とあの娘は運命の相手なんだ・・・。昔会っているはずだ!だから、そんな前置きはいらないんだ!わかるか!?生まれた時から恋人みたいなもんなんだ!」




花成のところにナナミクが検査の名目で預けられてから少しして、例のユーザーは恋人関係になるという原則を知りながら故意に襲いかかったことが分かり逮捕されたというニュースが一瞬だけ巷ちまたを騒がせた。




相手が人であってもアンドロイドであってもいきなり襲いかかるのはNGだというのは、今では法律で定められていた。








未来ではロリコンを始めとした特殊性癖にも確立した人権が生まれた一方、性的指向に関係なく、人としての最低限の節度を守るという部分は厳しくなっていたのである。












「あたしがおかしいのかな・・・。」




例のユーザーが逮捕されたとき、ニュースを見てナナミクは落ち込んでいた。




本当は例のユーザーが正しくて、自分が間違ってるんだろうか。




性的欲求を満たすために生まれた道具に過ぎない自分が感情を持っても良いのだろうか。






「そんなことないぞ。ナナミク。お前は正しい。」




花成博士はナナミクの肩を優しく叩いた。








「花成博士の言う通りです。私も同じ立場なら同じことをしていましたから。」




ニレイもにっこりと笑った。








「うん・・・。」




なおも顔が晴れないナナミクに花成が気づいた。




「ナナミクが来てもう3ヶ月になる。君はこう思ってるんじゃないか?ここから出ていかなきゃいけない日が来るんじゃないかって。」




驚いてナナミクは花成博士を見た。




「・・・うん。」




ナナミクは頷いた。




実際のところ社会の声よりもせっかく出会えた本当の家族と言える2人と離れるのが怖かったのだ。




アンドロイドと人間双方のモラルが高くなってきた今の時代、珍しいセックスアンドロイドの事件の被害者として取材依頼や広告効果を狙ったメーカーからの返却依頼がこないとも限らないのだ。








「安心しろ。ナナミクは俺らの家族だ。だから、ずっとここにいていい。」




「・・・うん!」




ナナミクは花成博士に抱きついた。








「あっ、だめですよ。花成博士は私のものですから。」




ニレイがヤキモチを妬いてナナミクと一緒に花成博士に抱きついた。








「お・・・おい、こんなおじいちゃんに抱きつくなよ・・・。」




花成博士は年甲斐もなくあたふたとしている。




2人の熱が服越しに伝わってくる。








「はーん、何?アンタ、じじいのくせに恥ずかしいわけ?エロじじいね。」




ニヤニヤとしながらナナミクが言った。




「お前・・・口悪いぞ・・・。」




はぁ、とため息をついていた花成博士は現代の、若かりし頃の花成と共通するものがあった。








未来での出来事を思い出してククッと笑ったナナミクを現代の花成が不審げに見ていた。




「どうした?チビ。」




「なんですって!ふざけんじゃないわよ!このオタンコナス!デリカシーゼロ人類!」




「ああん?」






公園での不審者事件から帰ってきて、3人は家へと入った。






玄関で再び低レベルな口喧嘩を始めたナナミクと花成に横からニレイが冷静に言った。


「ふたりともケンカはだめですよ。ケンカ両成敗といいますから。次ケンカしたら私がぶちのめします。」




わざとらしく力こぶをつくる仕草をしたニレイを見て、ナナミクと花成は目を見合わせた。




ニレイ自身は冗談を言ったつもりのようだが、公園での不審者撃退の姿を思い出し、2人は震え上がった。








「・・・はい。」




「・・・はい。」




「よし、仲良しで結構。さぁ、寝ましょう。」




電力節約のために相変わらず無表情に徹しているニレイは伸びをしてあくびをしていたが、後ろの2人はそこに言葉にできない恐ろしさを感じながら


すごすごと寝支度を始めるのであった。

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