第15話「ライバル出現!?」

「いやー、誰なんだろうな~三繰みくり先輩の好きな人って!」




週明けの帰り、道とおるが空を見上げた。




「・・・さぁな。」




「なんだよ、花成かなり。そっけねぇな!」




金曜日にお泊り会があり、土曜の昼前には皆帰宅した。


日曜は花成だけバイトだったが三繰は休みだったので休日に何をしていたのかは花成は分からなかった。






バイト中も集中できず、三繰がこの休みの間何をしているのだろうか、と思いを巡らせた。








三繰の好きな人とは誰だろう。








あれからライサと道が三繰を攻め落とそうとしたが、難攻不落の城の如く、三繰は2人の毒牙を(これは花成の主観による)すり抜け、何も語らなかった。








「まぁ、俺が興味あるのはニレイちゃんだけだけどな!俺にもチャンスあるって分かったし!」




「あれでチャンスあると思えるお前はポジティブの天才だ・・・。」








そう、ライサと道の毒牙は矛先を変えてニレイに向かったが、当のニレイは




「好きな人ですか?いません。」




と秒で答えたのだ。








「えっ、でも気になってるとか~一緒にいると胸が苦しくなるとか~、他の人と話してるの見ると目が離せなくなるとか~、いない?」




ライサは目を閉じて何かを思い浮かべながら言った。




「・・・全くいないですね。」




しばらく考えたがニレイには本当にいないようだった。




「じゃ、じゃあさ、好きなタイプは??ほら、マッチョがいいとか、知的なタイプが良いとか、あるじゃん?」




道がなおも食い下がる。




「いえ、今の所興味ありません。人間にはそういった感情は持たないよう教育されておりますので。」


「な・・・なんて厳しい教育を受けてるんだ・・・」


ニレイの冷静極まりない言葉に、2人の口があんぐりと開いたままだったので花成はそれを手動で閉めるとレフェリーのように腕を伸ばした。




「はい、はい!この話終わり!寝るぞ!」




そうやって、その日は皆、就寝についたのだった。












「それにしてもさ、」




道は急に真面目な顔になって言った。




「人間に好きっていう感情は持たないようにっていう教育する親なんているんだな。


なおさら、ニレイちゃんを振り向かせたいって思ったぜ。


この俺の熱いハートがニレイちゃんの心を溶かしてやる・・・!」




確かに、いくらセックス用のアンドロイドとはいえ、そういう教育がされているのは少し不思議だった。




人に好意持ってしまうのは何か問題はあるのだろうか。




「・・・というか、お前ニレイのこと好きだったのかよ。」




「ああ。好きだよ。」




道は恥ずかしげもなくさらっと言った。




こいつは昔からすぐ好きになったとか言いながら、自分からアタックすることは無かった。




性格的にビビっているというわけではないと思うが、どちらかというと本気でない気持ちのような感じがしていた。




「で、どこが好きなんだ?」




「そりゃあ、もう整った美しい顔、スラッとした脚、魅力的なくびれ、白く透き通った肌、そしてそして、あの豊満な胸・・・!」




「おい、結局見た目かよ!」




花成は突っ込んだが、道の反応は意外なものだった。




「・・・ああ、そうかもな。」




「・・・・・・?」




急に冷静になった道の表情はどこか寂しさを感じさせるものだった。








「おい、あれ見ろよ!」




話題を変えるためにわざと大声を出したような道は先の道を指差した。




「ん・・・なんだよ・・・?」




花成は道の指差した方を見て固まった。




「あれ、三繰先輩じゃね!?しかも・・・」




確かに、目の前を歩いている三繰の姿がそこにあった。




高校の制服を着ていて、どうやら学校帰りのようだった。




「誰だあれ・・・?」




三繰の横に立っていたのは少し大柄で金髪の男子高校生だった。








「と、友達・・・とか・・・?」




道は恐る恐る花成の方を伺ったが、先程から何も喋らない花成は目を見開いていた。








だ、誰だ・・・。




しかも、制服が違うのでクラスメイトとかでもなさそうだった。








謎の男と三繰が楽しげに話しており、三繰は大きく口を開けて笑っていた。




そんな姿、花成は見たことがなく、嫌なドキドキが胸を苦しめていた。












その日の間、花成の頭の中はもやもやとしていた。








「花成。」




自分の名を呼ぶ声をぼーっと聞いていた。








「・・・花成?」




気づくと目の前にはニレイの巨大な胸がそびえ立っていた。




「うわっ!」




花成はびっくりして起き上がったが勢いでニレイの柔らかな胸に接触し、2つの大きな山をぶるんっと勢いよく震わせてしまった。








「あ、ご、ごめん・・・!」




「いえ、なんだかすごくぼーっとしていたので。どうしました?」




ニレイはいつでも冷静だった。




「い、いや、なんでも・・・。」




花成の頭には謎の男と話をする三繰の姿が思い浮かんでいた。








パジャマパーティのときに三繰は彼氏はいないと答えていたが、好きな人とはあの男のことなのだろうか。




それとも本当は彼氏がいないのは嘘で、あの男は実は彼氏なんだろうか。








でも、それを言えば嘘をついてニレイと花成は2人で暮らしているし、そもそもニレイが未来からやってきたセックスアンドロイド・・・などとは口が裂けても話せない。




人のことは言えないなとため息をついた。








「ちょっと、散歩してくるよ。」




花成は立ち上がった。




「私もついて行きましょうか?もう、そろそろ日も暮れてしまいますよ。」




ニレイも立ち上がろうとしたが、花成は手を向けてそれを遮った。








「だ、大丈夫!ほら、ニレイも忙しいだろうし!」




「はぁ・・・。」




きょとんとしているニレイを置いて、花成は外にでた。


なんだか一人で考えたい気分だった。






「さすがに夜でも半袖で充分だな・・・。」




夜はじめっとしていて、梅雨を感じさせる湿度と、本格的な夏の始まりを感じさせる暑さがあった。








近くの公園を通って川沿いにあるこうと思ったが、そこでバッタリと三繰、そして謎の男が公園のベンチで話しているのに出くわしてしまった。




「あれ?花成君じゃん。」




「え、三繰先輩・・・?」




花成はドキッとして立ち止まった。








まさか2人が一緒にいるところにエンカウントしてしまうとは。


しかも、昼過ぎからずっと話してたのか・・・?


ど、どれだけ三繰先輩と仲良しなんだ・・・!




「おい、三繰、誰だコイツ。」




謎の金髪男が花成を指差した。




ガ、ガラ悪い・・!




それに”三繰”と呼び捨てするなんて何だコイツは・・・!




花成の中のぐるぐる、もやもやした気持ちがさらに渦巻いていた。




「もう、やっちゃん!人のこと指差しちゃだめでしょ!」




や、やっちゃん・・・!




なんてことだ・・・二人は初々しく名字で呼び合うようなカップルを越えてあだ名で呼び合うほどのラブラブだったとは・・・。








既に花成の心はバリバリに割れてしまっていた。




「あ、紹介するね。このこはバイト先の後輩の花成君。」




「カナリ?変な名前だな。」




吐き捨てるように言ったやっちゃんに対し、花成はいらっとしたが、にっこりと笑ってみせた。




「や、やぁ、君は・・・三繰先輩のか、彼氏ですか?」


カレシという3文字を言うのにかなりの勇気がいった。




「か、彼氏!?」




先程までと打って変わって、やっちゃんは急に恥ずかしそうに顔を赤くするとベンチからずり落ちた。




「やだなー、花成君違うよ。このこは飯島 矢粋イイジマヤイキ。私の従兄弟イトコ!」




三繰はやっちゃんの背中をバンバンと叩いた。




「あ、従兄弟・・・。」




親しげな理由が分かり、花成はホッとした。




「だから、私にとっては弟みたいなものだって!」




三繰がそう言うと、一方のやっちゃんは「お・・・弟・・・」と、ショックを受けたような顔をしていた。








「あれ、やっちゃんどうしたの?」




「そんなふうに思っていたなんて・・・俺は・・・俺は・・・。」




それから少しの間、やっちゃんはなにやらブツブツと言っていたが、花成が




「だ、大丈夫?」




と声をかけると突然立ち上がった。








「うるせぇ!お前になんか・・・お前になんか負けねぇぞ!カラリ!」




ビシ、と指を突きつけ、盛大に花成の名前を間違えて駆け出していった。








「な、なんだったんだ・・・。」




花成は謎の男が三繰の従兄弟だったことに加え、意外な性格だったことが判明し、拍子抜けしていた。








「ごめんねー、やっちゃん結構変わってるからさ。


今は高校デビューで悪ぶってるんだけど、もともとは私と家族意外、全然喋らないおとなしいコなんだよね。


高校ではイメチェンして他の人と話すっていう目標を立ててたみたいなんだけど、なんだか話し方をしらないせいで怖がられて・・・。」




「・・・うん。たぶん方向性間違えたかもね・・・。」




花成はぺたりと三繰の隣に座った。








「いやー、後でちゃんとやっちゃんに言っとくから。」




三繰が申し訳無さそうにペコリと頭を下げた。




「大丈夫!・・・でも安心したよ。三繰先輩の好きな人って、あの人かと思ったから・・。」




「えっ!あの人ってやっちゃん?いやいや、絶対ないよ!だって弟に、っていっても本当の弟じゃないけど。


弟に恋するとか無いよ!」




「そ、そっか・・・。」




「そういえば、花成君は、その、好きな人・・・」




三繰はそう言いかけて、まじまじと見つめる花成の視線とぶつかって目をそらした。




「い、いやなんでもない!」








それから数秒間、なんとなく気まずい空気が流れた。








「あっ、そういえば花成君は買い物?」




「えっ、ああ。そうそう、夕飯の買い物でもしようかと思ってさ。」




嘘八百だった。


本当は三繰の好きな人のことが気になってぶらぶらしていただけだった。




「そうなんだ!じゃあ、ちょうど良かったかも!私も夕飯の支度でもしようかと思ってさ!




一緒に買いにいこう!」








流れで花成は三繰と夕飯の準備のため、商店街で買い物をした。








そんな二人を物陰から見守っている人物がいた。








花成の様子がおかしく、こっそりついてきたニレイだった。






「良かった。花成も元気になったようですね。」




記憶をなくし、セックスアンドロイドの初期状態になっているニレイには人の感情を理解することはできなかったが 花成が三繰と話して元気になったことはとても良いことだと思った。






しかし、ニレイの心の奥で何かがズキとした。




楽しそうに買い物をしながら話している三繰と花成の姿を見ていると何だか気持ちがそわそわとしてくる。




自分に内蔵されているコンピューターが何かしらのエラーを起こしているのではないかと思ったが、現代の技術では調べようもないので気にしても仕方がないと考えた。






ニレイは気分を変えるために花成はどんな夕飯を作ってくれるのかと考えることにした。

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