第12話「オサナナジミ」

「おーい、こっちだよ・・・XXX・・・。

見てみ、スゴイだろ、これがイルカだ・・・。」


ニレイは夢を見ていた。




誰かが自分の名を呼んでいるようだが、何と呼んでいるのかはわからない。




本来、アンドロイドは夢を見ないはずだ。


それは人間とは違って生命体ではないから・・・というよりもそれ以前の問題だった。




アンドロイドのスリープモードはもちろん、完全に意識をシャットダウンするわけではなく、


パソコンと同じようにいつでも起動できるようにバックグラウンドプログラムの一部は動いている。




パソコンと違うのは、すぐに起動するのを目的としているわけではないので、


バックグラウンドプログラムでも動いているのはほんの一部だということだ。




OSの更新などはせず、何か衝撃があったり電源ボタンを押された時起きれるようにするためのプログラムのみしか動いていないので、そもそも夢や資格情報などをみるほどの情報量は処理していない。




しかし、ニレイが今、体感しているのは確実に夢だった。


そういえば、花成はこの前「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を呼んでいた気がする。




ぼんやりと誰かが自分の手を引きながら、どこかを一緒に歩いている。


誰だろうか、花成・・・博士・・・?


分からない・・・。


ここはどこだろうか、水族館・・・?




現代の花成と行った時の残像のような記憶か、もしくは未来・・・?






次の瞬間、ニレイは花成に買ってもらって床に敷いていた布団に寝ているのに気づいた。


ここ最近のいつもどおりの朝だ。




やはり、さっきのは夢だったのだろうか、それとも・・・。




それよりも朝ごはんを作らなくては。


当たり前のことだが、プログラム通りに動くニレイはいつも決まった時間に起きて、毎朝、花成に朝ごはんを作ってあげるのだった。


花成は朝は苦手らしく、いつも起きるのが遅い。




「あれ?」


ニレイは体が自由に動かないのに気づいた。




「うーん、美味しそうな肉まん・・・」


ふと下を見ると、いつの間にか上に乗っかっている花成がむにゃむにゃと寝言をもらしながらニレイの胸に頬をすりすりしているのが見えた。




瞬間、ニレイは花成の頭を撫でようと手を伸ばしたが、少し考えたのち、その手を引っ込めて肩を軽く叩いた。


「朝ごはんがつくれないので、すみませんが、どいてくださいますか?」


肩を叩かれても少しの間、花成は起きなかったが、突然、顔を上げて驚いた顔で言った。


「うわ!ごめん!」




どうやら、寝ている間にベッドから落ちてニレイの布団に潜り込んだらしかった。


「大丈夫です。それじゃあ朝ごはんつくりますね。


そう言ってニレイは起き上がり、花成が寝ぼけながら外したのだろうか、いつの間にかボタンが外されてはだけたパジャマを直して立ち上がった。




温かい気持ちになって、朝ごはんの支度を始めたニレイは既に夢のことなど忘れていた。






その日、は突如としてやってきた。


花成は日直にっちょくで、回収した小テストを運んでいた。


日直は黒板を消したり、テストを職員室へ運んだりと、何かと雑用をさせられることになっていた。




男女二人組で日直をするのだが、もうひとりの日直である真島まじまカンナは放課後は委員会だったのでそちらを優先することになった。


真島は体育委員で、近々行われる予定の体育会の準備が忙しかった。




6限目の授業は話が長いことで知られる国語の印西いんざい先生だったため、


もし職員室で捕まってしまった場合のことを考えて花成が請け負うことにしたのだ。




大したことをしていないのに感謝の言葉を述べまくる馬島にむしろ申し訳無さも感じながら、花成は職員室にある印西の机にテスト用紙を置いた。




「・・・ふぅ。意外と重いな。」




と、その時、ほぼ同時にテスト用紙を置いた女性がいた。




「・・・ふぅ。4階からだとキツイ。」




花成とその女性はお互いのことを同時に見て、同時に凍りついた。




「「・・・・・・!」」




ほぼ一緒に職員室へ入って、ほぼ一緒にテスト用紙を置いたのは何とライサだった。

ライサは花成の幼馴染だった。



慌てて職員室を出ていこうとするライサの腕を花成は慌てて掴んだ。


少し顔を赤らめてジトッとライサは睨んだ。




「あ、ごめん。」


花成は思わず掴んだ手をパッと話した。


「・・・・・・。」


ライサは何も言わない。


「・・・ちょっと話さないか?」




2人きりで話せる場所を探し、花成たちは屋上に出た。


幸いにも印西は職員会議があるらしく、長ったらしい話で日直を捕まえることはなかった。




「ごめん。」


花成は改めて謝った。


しかし、今度は手を掴んだことではなく、一連のことに対してだった。


「まさか、あのちっこかったラーちゃんがこんな綺麗な女性になってるなんて思わなくて。」

”ラーちゃん”とはかつて幼かった花成がライサにつけたあだ名だった。

その言葉に動揺してライサは顔を真赤にしながらもごもごと言った。


「べ、別に・・・綺麗だなんて・・・そ、そうかな。」


恥ずかしそうに銀色に輝く髪の毛をいじるライサの反応はまんざらでもない感じだったが、鈍感な花成はまだ怒らせてしまっていると勘違いしていた。




「本当なんだ。この前その、久しぶりにあった時は、すごく綺麗な子と目が合ったなって思ったくらいだったから・・・。」


「・・・大丈夫。わ、私も花成が同じ学校だって知ったのはこの前が初めてだったから・・・」


それは事実だったが、 中庭ごしに数年ぶりに久しぶりに目があった時はあまりの驚きと緊張ですぐに目をそらしてしまった、とはライサは口が避けても言えなかった。




「それにしても、いつ頃こっちに戻ってきたの?」

職員室から中庭に出て、花成がライサに聞いた。


「でも、本当に1年前とかかな。来たときは日本語とか忘れちゃってて、話すのも大変だったけど、だんだん思い出して、今はこの通り元通りって感じで。」


「そっか。ちなみにどうしてこっちに戻ってきたの??」


「実はお母さんにどうしても日本に行きたいって頼み込んで、従姉妹の家に居候いそうろうすることになったの。

従姉妹は純ロシア人だけど日本好きが好じて、日本にすんでいる一家で、なんだか可愛い妹ができたみたい。」


「へぇ~従姉妹なんていたんだね。でも何でそこまで日本に来たかったの。」


「それは花成が・・・」


ライサは途中まで言いかけてハッと口をつぐんだ。


「え?俺?」


「な、なんでもない。」


花成の頭にはハテナが浮かんでいた。




それから、花成とライサは昔話に花を咲かせた。


「そうだよね、昔はあんな泣き虫だったのに・・・」


「もう!小さい時と今を比べないでよ!」


ばし、とライサは軽く花成の腕を叩いた。




そんな2人の姿をニレイは安心した気持ちでこっそりと覗いていた。


ライサとの1件があってから、この数日間花成の様子がおかしかったのでそわそわしていたのだ。


それが解決したようで今の花成の表情はかなり良くなっていた。


しかし、ライサと花成が楽しく話している姿を見て、ニレイの心の中で何かモヤモヤとしたものが湧き上がってきていて


それが何かをニレイはまだ知らなかった。

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