第5話「いつもと違うファミレス」
「これがこの時代のファミリーレストランなのですね。」
ニレイはきょろきょろとあたりを見回した。
「別に普通のちょっと古びたファミレスだろ。」
花成とニレイは家の近くにあるファミレスに来て、4-6人がけで想定されているであろうソファー席に座っていた。
今は夜8時を過ぎたところで、駅から少し離れたところにあるこのファミレス”ロイヤルジョンゼリア”の客はまばらだった。
最近、近くに新しいお洒落なハンバーガーチェーンやフードコートの入ったアウトレットモールができたお陰で、
日に日に人が少なくなっている気がした。
まぁ、誰も知り合いがいなそうだからこそ、この店を選んだのだが。
それに人が少なくて静かなのでぼーっとしたり、道と馬鹿なオタク話をするにはちょうど良かった。
「怒っていますか?」
ニレイが花成のムスッと外を眺めている表情を見て不思議そうに聞いた。
「え、ああ。怒ってないよ。ただ・・・疲れただけだよ。」
はぁ、とまたしても花成はため息をついた。
高2の男子の一日にしては情報も刺激も多すぎたようだ。
「おいしかったです。」
「それは・・・良かったです。」
2人は食べ終わっていた。
ニレイはエネルギー補給をなるべくしないといけないらしく、デミグラスハンバーグ定食などを始めとして4人前くらいを一気に食べきっていた。
やっぱり手間でも自炊にすべきだったかと花成は自分の財布の中を見て、後悔した。
「でも、未来だったらおいしい食べ物いっぱいあるんじゃないのか?」
「そうですね。記憶が曖昧な部分もありますが、食感や味覚の残留データを参照するに、未来では健康志向のため全体的に食べ物は薄味が多くなっています。
ですから、この時代の食べ物のようにこう、なんと言うんでしょうか・・・強い塩味や甘み・・・」
「ガツンとくる感じ?」
「ええ、そうです。そんな感じです。ガツンときますね。」
「じゃあ、行くか。」
花成とニレイは席を立って、レジに行った。
ピンポンとレジのベルを鳴らすと奥からひとりのウェイトレスが出てきた。
「はーい!お会計ですね!お客様・・・」
ウェイトレスの人が元気に出てきたかと思うと、ゆっくりとその言葉が止まった。
下を向いて、財布の中身を確認していた花成はそれに気づき顔をあげた。
「え・・・!」
「ハナくん・・・?」
そのウェイトレスは花成のよく知る人物だった。
「三繰先輩・・・!どうして・・・!」
ふりふりのついたワンピースを来たウェイトレスは数時間前にバイト帰りに別れた三繰だった。
「どうしてって・・・私、ここでも働いてるの。けっこーお金ためてて・・・花成君こそ・・・」
そう言って三繰は花成の後ろを覗き込んだ。
「えーと、彼女さん?」
ニコッと三繰はニレイに笑いかけた。
「え!?違う違う!えーと・・・親戚の子が遊びに来てて・・・」
苦しい言い訳だった。
ダラダラと、ぬるついた嫌な汗が花成の全身から吹き出していた。
「親戚の子が?花成君一人暮らしじゃなかったっけ?」
「あ、あはは、親戚のおばさんも一緒に来てるんだけど、なんか用事があって夜遅くなるみたいで、2人で食べててって・・・。」
さらに苦しい言い訳を重ねながら、花成は切り抜け方を探っていた。
「いえ、私は高感度コミュニケーション・・・」
ニレイが下手に口を開く。
「と、とりあえず!おいくら万円ですかね!?」
花成は慌ててニレイの口を塞いで財布を持ちながらずい、とカウンター越しの三繰に近づいた。
「え、えーと、3240円になります。お客様。」
三繰もその勢いに押され、急にかしこまって会計トレイの上に置かれたレシートの金額を読み上げた。
「けっこー食べるんだね、花成君。」
「あ、ああ。いや、この子が育ちざかりだから。」
「へー、何歳なの?」
「って言っても、同い年なんだけど!あはは!」
「そうなんだ!大人っぽいね!落ち着いてるから、私より年上かと・・・。」
「ありがとうございます。」
ニッコリとニレイが笑った。
察したのか分からないが、今度は余計なことは喋らなかった。
「ありがとうございましたー!・・・またね、ハナくん。」
別れ際、小声で言ってウィンクをした三繰に花成はドキッとした。
「あ、ああ。またね。先輩。」
色んなことが起こりすぎるだろ今日は。
ただ、最後のハプニングはむしろ、ラッキーなハプニングだと感じていた。
ファミレスから出たあと、花成はまたしても大きなため息をついた。
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