残り7秒

学生のころは土日休みが一番だと思っていた。なんせ父親と母親が土日休みで、子供の時分は親に連れられて何処かに行けるのだ。


その何処かはいつも楽しかったわけではないけれど、両親はきっと、自分を楽しませようといろいろ考えてくれていたことがこの年になってもわからないほど恩知らずに育った覚えもなかった。


けれど、今の不定休という休み方も慣れてしまえば快適なもので、様々な役所の手続きは有休を使わなくて済むし、一人で遊びに行くときも満席なことはほとんどない。もっとも、後者を楽しめるような気持ちはとっくに失っていたが。


それでも、一人なら別段気にする必要はないので、独り身の自分にはむしろこちらの方があってるのではないか?とすら思う。


 普段なら家を出る7時15分。しかし、休日はいつも8時まではたっぷり惰眠をむさぼるのが以前の僕の流儀だった。


しかし、彼女がここに来てからはすっかり規則正しい生活になってしまった。


部屋の窓際で日の光を浴びて白いプランターから物音がする。彼女だ。僕の休日をどうやって見分けているのか、休日の時は自分の根床である、プランターをかたかたと力いっぱいに揺らし、控えめな音を鳴らすのだ。


 言葉はないが、この物音が枯葉や伸びすぎた蔓を処理しろということだと気づいたのはいつだったか。僕とは違うサイクルの中で過ごす彼女の手入れは端的に言って面倒だった。


 なにせ手が汚れる。部屋の中で育てているから、外の地面よりはマシだろうが、それでも嫌なものは嫌だ。大体、農家でもなければ土というのは手で触る物ではなく、足で踏むものだ。


 まがりなりにも現代人、文明人を自称する僕にとって、これは非常に面倒なことだった。


とはいえ、蔦や枯葉で困るのは彼女だけではない。綺麗好きではないが落葉のある部屋はそれこそ現代人、文明人として避けたいことであった。


 園芸用にわざわざもう一つ買ったキッチンバサミと、ごみ入れのビニールを片手に彼女の住処の手入れをする。


水やりと違い、道具を二つも用意して、不要なものをみつけて処理するという複数の作業をこなす、この苦労を彼女がどのように認識しているのかは僕にはわからないが。


彼女は目を閉じて散髪をされる人間のように気持ち良さげに受け入れている。プランターからはみ出した蔓や少し茶色がかって来てしまった葉を切っては、ビニール袋に放りこむ。


10分かからない程度の時間が過ぎるとプランターはすっかり1週間前の姿を取り戻す。


彼女はペコリと頭を下げると網目状になった蔦をベッドにまどろみ始める。逆に全くもってはっきりと目が覚めてしまった僕は、冷凍庫からパンを一枚取り出し、冷蔵庫のチーズをのせてトースターで温める。


 今日はどのようにこの退屈と焦燥感を紛らわそうか考えながら。

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