かわいそうに、フカずきんちゃん!

 フカずきんちゃんは、でも、お花をあつめるのに夢中で、森じゅう駆けまわっていました(そもそもお見舞いはおかあさんに言われただけで、気のりしていませんでした)。

 そうして、もうあつめるだけあつめて、このうえ持ちきれないほどになったとき、ようやくおばあさんのことをおもいだして、またいつもの道にもどりました。


 おばあさんのうちへ来てみると、戸が開いたままになっているので、変だとおもいながら(おばあさんは軟禁されていたはずでした)、身支度をととのえ、なかへ這入りました。

 すると、なにかが、いつもと変わって見えたので、


「変だわ。どうしたのでしょう。きょうはなんだか、胸がして、気味のわるいこと。おばあさんのところへきても、いつだってこんなことはないのに」おもいながら、大きな声で、


「おはようございます」


 と、呼んでみました。でも、おへんじはありませんでした。おばあさんはいないのでしょうか?


 そこで、おとこのところへいって、カーテンをあけてみました。すると、そこにおばあさんは、横になっていましたが、ずきんをすっぽり目までさげて、なんだかいつもとが変わっていました。


「あら、おばあさん。なんて大きなお耳」ひとまず煽ってみました。


「おまえの声が、よく聞こえるようにさ」意外とすぐにおへんじがありました。


「あら、おばあさん。なんて大きな」じっさいずきんで隠れてよく見えませんが、言うだけ言ってみました。


「おまえのいるのが、よく見えるようにさ」ずきんで隠れたままですが、そのようにこたえがありました。


「あら、おばあさん。なんて大きな」なんだかたのしくなってきました。


「おまえが、よくつかめるようにさ」小気味のよいおへんじでした。


「でも、おばあさん。まあ、なんて気味のわるい、大きなお口だこと!」いよいよ落としました。


「おまえを食べるにいいようにさッ!」


 言うがはやいか、おおかみは、いきなり寝床を片腕で押して反動で跳躍、弾丸めいて飛び出し狙うは、かわいそうに、フカずきんちゃん! ただひと口に、あんぐり――


――あんぐり、やられてしまいました。


 いきものとしての、がちがいました。フード付きサメパーカーのフカずきんちゃんをあいてにして、すこしばかり悪知恵がはたらくおおかみのごときが、かなうはずはありませんでした。

 しかもフカずきんちゃんは、おばあさんのためにもってきていた“お菓子”と“ぶどう酒”を、あらかじめ服用キメていました。そのちからと、すばやさは、いつもの十倍ほどにもなっていたでしょう。


これで、おなかをふくらませると、フカずきんちゃんは寝床でひとやすみしました。


 しばらくして、さあ、おうちへとかえりながら、フカずきんちゃんはおおよろこびです。

 お見舞いは、もっぱらフカずきんちゃんのおしごとでしたから、


「(これからは、おばあさんがいなくなってしまったことをかくしておいて、お見舞いの、しなものをいただいてしまいましょう。おかあさんはなにがあったか、知っていらっしゃいませんものね)」


 と、かんがえました。

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フカずきんちゃん ViVi @vivi-shark

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