フカずきんちゃん、こんちは

 ところで、おばあさんのおうちは、村から半道はんみち(おおよそ二キロメートル)離れた森のなかにありました。


 フカずきんちゃんが森へ這入りかけますと、がひょっこり出てきました。でも、フカずきんちゃんは、おおかみのごときおかのけだもののことなど知りませんから、別段、こわいともおもいませんでした。


「フカずきんちゃん、こんちは」と、おおかみは言いました。くらいのかしこさはあるようです。


「ありがとう、おおかみちゃん」


「たいそう早くから、どちらへ?」


「おばあちゃんのところへいくのよ」


の下に持っているものは、なあに?」


「“お菓子”に、“ぶどう酒”。おばあさん、ご病気でよわっているでしょう。それで、お見舞いに、もってってあげようかとおもって、きのう、おうちで“焼いた”の。これでおばあさん、“しっかり”なさるわ」


「おばあさんはどこ住みさ、フカずきんちゃん」おおかみは詮索をかさねます。


「これからまた、八か九ちょう(九町でおおよそ一キロメートル)も歩いてね、森の奥の奥、大きなの木が、三本たっている下のおうちよ。おうちのまわりに、生垣いけがきがあるから、すぐわかるわ」


 フカずきんちゃんは、こう教えました。じぶんのすみかではありませんので、気安いものでした。

 おおかみは、心のなかでかんがえていました。


「(わかい、な小むすめ。こいつはがのって、おいしそうだ。ばあさまとやらよりは、ずっと味がよかろう。いやさ、ついでに、両方いっしょにやる工夫が肝心だ)」


 そこで、おおかみは、しばらくのあいだ、フカずきんちゃんと並んであるきながら、道々みちみち、こう話しました。


「フカずきんちゃん、まあ、そこらじゅうにきれいに咲いている花をごらん。、ほうぼう眺めて見ないんだろうな。ほら、小鳥が、あんなにいい声で歌をうたっているのに、フカずきんちゃん、なんだかまるで聞いてないようだなあ。学校へいくときのように、むやみと、せっせこ、せっせこと、あるいているんだなあ。外は、森のなかがこんなにあかるくてたのしいのに」


 そう言われて(うんざりしつつも)、フカずきんちゃんは、みました。すると、お日さまの光が、木と木の茂ったなかからもれて、どの木にもどの木にも、きれいな花がいっぱい咲いているのが、目にはいりました。そこで、


「あたし、おばあさまに、元気でのいいお花をさがして、“花たば”をこしらえて、もってってあげよう。するとおばあさん、きっと“およろこび”になるわ。まだ朝はやいから、だいじょうぶ、時間までにいけるでしょう」


 と、こうおもって、ついと横道から、その中で駆けだして這入って、森のなかのいろいろの花をさがしました。そうして、ひとつ花をつむと、その先にもっときれいなのがあるんじゃないか、という木がして、そのほうへ駆けていきました。そうして、だんだん森の奥へ奥へと、さそわれていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る