第32話 バレてないとでも思ったか

 倒したはずなのにゴブリンが減っていない。

 なぜだと思っていると、地面から新たなゴブリンが這い出してくるのが見えた。


「全員いっぺんに倒せってこと? もしくは次が出てくるまでに倒し切れ、と?」


 パーティならともかく、ソロではなかなかの難易度だ。

 俺、広範囲攻撃を持ってないし。


「なら素早さ全開でやってやる」


 防御の一切を無視し、徹底的なスピード重視で一気にゴブリンを倒しまくる。

【狗人王の尻尾】があるからこそできる荒業だ。


「っ……間に合わないか……っ!」


 だが残り五体まできたところで、新たなゴブリンが生み出され始めてしまった。

 倒した後、僅か十秒ほどで新手が投下されてくるらしく、全力でも間に合わない。


「ギャギャギャギャ!」

「グギャギャギャッ!」


 不気味な声とともに、手を叩いたり足を踏み鳴らしたりして、ゴブリンどもが俺を嘲笑ってくる。


「笑っていられるのも今のうちだぞ? もう攻略法は突き止めたからな」

「グギェッ?」


 俺は一体のゴブリンへと照準を合わせた。


 そいつの見た目は、通常ゴブリンとまったく同じだ。

 だが先ほどから他のゴブリンの陰に隠れるなどして上手く立ち回り、ここまで一度たりとも俺に倒されていない。


「バレてないとでも思ったか?」

「グギッ……ギャギャギャッ!」


 他のゴブリンたちがその一体を護るように陣形を組んだが、俺は構わずそこへと突っ込んでいった。


 その間に、まるで手品のように別のゴブリンと素早く場所を入れ替えたが、俺はその瞬間を見逃さなかった。


「お前だ!」

「ギャッ!?」


 俺の剣がついにその怪しいゴブリンを捉える。


 首を刎ねた瞬間、他のゴブリンたちが一斉に「ギェェェッ!」と叫んで、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 もっとも、閉鎖空間であるボス部屋の中を駆け回ることしかできないが。


 戦意を失ったゴブリンたちをゆっくり倒していったが、新たなゴブリンが生み出されてくることはなく。

 無事に全滅させることができたのだった。


「――ダンジョンボス:ゴブリンコマンダーを倒しました」

「――おめでとうございます。ダンジョン『ゴブリンの巣穴』クリアです」


 やはりあのゴブリンがボスだったらしい。

 ゴブリンコマンダーを倒すことが、ゴブリンの無限増殖を止める条件だったようだ。


 攻略情報を得ていればそれほど難しいボスではないが、そうでなければ少し戸惑うだろう。

 まぁゲームなんかじゃよくあるパターンの一つだけどな。


 さて、ここも初見ソロで撃破したので、そろそろエクストラボスが現れるはずだ。


「――特定条件『ソロでダンジョンボスを初見攻略する』の達成が確認されました」

「――エクストラボスに挑戦することができます。挑戦しますか?」


 よし、きたぞ。


 もちろん挑戦する。

 俺が「はい」を選択すると、キングコボルトのときと同様、一体の魔物が姿を現す。


 頭に王冠を被り、髑髏の首飾りを提げたゴブリンだ。

 今度はゴブリンキングだろうか。


 身の丈はホブゴブリンほどではないが、この距離からでも分かるくらい筋肉ムキムキである。

 ちょうど中量級のプロボクサーみたいな感じだ。


 キングコボルトといい、キング系は必ずマッチョという制約でもあるのかもしれない。

 ちなみにすごくどうでもいいことだが、このゴブリンキングだけは腰布を巻いて下半身を隠していた。


「グギャギャギャギャッ!!」


 ゴブリンキングが片腕を振り上げると、それが合図だったのか、地面から次々とゴブリンが這い出してきた。


 どうやらこのゴブリンキング、先ほどのゴブリンコマンダーと同じく手下のゴブリンを召喚する力も持っているらしい。

 恐らくゴブリンキングを倒さない限り、無限に湧いてくるのだろう。


「まぁ、それくらいじゃなきゃ面白くないけどな」


 ミスリルの剣を手に、俺はゴブリンの群れへと正面から突っ込んでいった。

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