第23話 どっかの金持ちのボンボン

「ねぇ、あの人、すごい装備じゃない……?」

「ほんとだ。てか、どう見てもこんな初心者ダンジョンに挑むレベルとは思えないんだが……」

「どうせ、どっかの金持ちのボンボンだろ。実力がねぇくせに、いっちょ前に金の力で装備だけ固めてんだぜ」


 ……お、おう。


 ダンジョン『コボルトの鉱窟』があるという岩場にやってきた俺は、初心者らしき冒険者たちから注目を浴びてしまっていた。


 金ちゃんから買った装備が強力すぎて、完全に場違いだったようだ。

 仮面をしていて助かったぜ……。


 早歩きで通り過ぎ、ダンジョンに通じるという、岩の下部にぽっかりと開いた穴へと入っていく。


「これがダンジョンか」


 そこはオーソドックスな洞窟型だった。

 中はひんやりとしていて、外よりも十度は気温が低い感じがする。


 外の光が入らず、光源がないため暗いのだが、不思議なことにある程度は目が見えた。

 松明を燃やしたりする必要はないらしい。


「コボルトが出現するだけで、トラップもない簡単なダンジョンだと聞いてはいるが……」


 それでも初のダンジョンだ。

 VRゲームの比ではない臨場感、さすがに緊張しながら奥へと進んでいく。


 まぁでも、これは所詮、アバターだ。

 死んだとしても、またMPを消費すれば幾らでも作り直すことができるはずである。


「となれば、慎重に行く必要なんてないな。っと、早速」


 前方から一匹のコボルトが現れた。


 コボルトは二足歩行ができる犬頭の魔物で、ゴブリンに並ぶ最弱クラスの魔物だ。

 それでも身長160センチほどあって、手に石斧のようなものを持っていると、なかなか迫力があるものだな。


「ガルルルアッ!」

「おらっ!」

「~~~~ッ!?」


 向こうもこちらに気づいたらしく、喉を鳴らしながら躍りかかってきたので、俺は腰からミスリルの剣を抜いて大きく振るった。

 剣を扱った経験などない、完全に素人の一撃だ。


 だがそれがあっさりとコボルトの身体を両断してしまった。

 ぐしゃりと地面に倒れ込むコボルト。


「うわ、めちゃくちゃ斬れるな、この剣……」


 さすが金ちゃんが用意してくれた剣である。

 コボルトくらいなら瞬殺できるらしい。


「よし、攻撃力は十分みたいだな。……防御力の方はどうなんだ?」


 しばらく進むとまた別のコボルトが現れたので、今度はあえてその攻撃を受けてみることにした。

 コボルトが振るった石斧が、俺の鎧に直撃する。


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 HP:2999

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「は? 1しか減ってないんだが?」


 何の衝撃も来なかったから変だなと思ったが、まさかこんなしょぼいダメージで済むとは思わなかった。

 結構な勢いで石斧を振りかぶってきたので、一瞬ちょっとビビったというのに。


「ガルルルアッ!」

「効かないなー」


 コボルトが何度も石斧を振り下ろしてくるが、ダメージは常に1だ。

 だがノーガードで受け続けていると、攻撃がちょうど鎧のない部位に当たってしまう。


「おっ? 一気に5減ったぞ」


 急所へのクリティカルといったところか。

 しかしそれでもたったの5である。


 だいたい力の差が分かったな。

 これなら剣を使わなくても倒せるのではと思い、コボルトの顔面を殴ってみた。


「ギャンッ!?」


 という鳴き声とともに、十メートル以上も吹っ飛んでいくコボルト。

 近づいてみると絶命していた。


 すぐに地面へと死体が吸収されていき、後にはドロップアイテムの【コボルトの毛皮】が遺される。

 こうしたダンジョン内では、魔物の死体はこんなふうにあっという間にダンジョンに吸収されるため、素材を丸ごと持ち帰るのは難しい。


 だがその代わり、ドロップアイテムが残されるのだ。

 お陰で解体や運搬の労力を避けることができた。


 ちなみに、人間の死体も時間はかかるが、同じようにダンジョンに吸収されてしまうという。

 だからソロの場合、ダンジョンで死んだら遺体の回収はまず不可能らしい。


 アバターの場合はどうなるのだろう。

 やはりダンジョンに吸収されるのか、それともその場に死体(?)が残り続けるのか。


 そんなことを考えながら、俺は先へと進むのだった。

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