第11話 部屋に気安く上がり込んでくる幼馴染

「はぁはぁ……まさか、もう二度と読めないと思っていた漫画の続きを、ここで読めるなんて……」

「別に持っていってくれて構わないぞ。また注文すればいいしな」

「小森殿おおおおおおおっ!」

「ちょっ」


 抱きついてくるなって。

 あと、そんなに叫んだら隣に聞こえるだろ。


 まぁ金ちゃんが来たときに消音スキルを発動しておいたから、たぶん大丈夫だと思うが。

 こちらの話を聞こえないようにする便利なスキルだ。


「それで実は金ちゃんに提案があるんだ。この元の世界の商品を買い取ってくれないか? この通販スキル、この世界のお金が必要でさ。でも俺、王宮に貰った金しかなくて、稼ぐこともできないから困ってたんだよ」

「むしろこちらからお願いしたいくらいでござるよ! この世界では手に入らない地球の品物を販売できるなんて、もはや拙者の商会の一人勝ちでござる!」


 あっさり取引が成立した。

 よかった、これでお金の心配をする必要がなくなったぞ。


「いや、さすがは小森殿でござるな。拙者の予想通り、ただ引き籠っているだけではなかったでござる」


 ……引き籠ってるだけだけどな?


「元の世界でもそうでござる。小森殿は単に不登校になっただけではござらんのだろう? きっと目的があって引き籠っていたのでござろう」

「……」


 相変わらず鋭いな、金ちゃんは……。


「ふっふっふ、拙者はこれでも小森殿の親友と自負しているでござるからな。それくらいは分かるでござるよ」

「金ちゃん……」


 恥ずかしい台詞を臆面もなく言えるのが、金ちゃんの凄いところだ。


「しかし、だからこそ苦言を呈したいでござるよ」

「?」

「王宮を出るとき、なぜ拙者にひとこと言ってくれなかったでござるか! つれないでござろう! 気づいたときにはすでに姿はなく、去ったと言われて驚いたでござるよ!」

「わ、悪い……金ちゃんは凄い職業で……なんていうか、その……俺のことなんて、どうでもいいんじゃないかって……なんか忙しそうにもしてたし……」

「そんなはずないでござろう! まったく、小森殿は自己卑下が強すぎるでござるよ。拙者と小森殿の仲ではござらんか。変な気遣いや遠慮はよしてほしいでござるよ」


 ……本当に良い奴だよ。

 俺みたいな面倒なコミュ障と、いつまでも友達でいてくれるのは金ちゃんくらいだ。


「それに加藤殿も心配していたでござるよ」

「あいつは昔からお節介焼きだからなぁ」

「小森殿! 可愛い幼馴染を大切にしないのはダメでござるよ! 拙者には、どんなに願ったところでもう、幼馴染の女の子ができることはないのでござるというのにっ!」


 金ちゃんは相変わらず幼馴染属性が好きらしい。


「拙者から加藤殿にこの場所を伝えておいてもよいでござるか?」

「やめてくれ。また部屋に入り浸られても困るし」

「くっ……部屋に気安く上がり込んでくる幼馴染っ……夢のような状況でござる……っ!」


 加藤――加藤真莉とは家が近所の幼馴染だ。

 俺が部屋に引き籠るようになってからも、しょっちゅうやって来てはお節介を焼いてきた。


 やれ学校に行かないと将来が心配だとか、ちゃんと勉強して良い大学に行って安定した企業に就職してくれないと困るだとか、子供の養育費はどうするのだとか。


「幼馴染だからって、人の将来のことまで心配しなくていいっての」

「……小森殿は鈍感にもほどがあるでござるよ」


 それから俺は通販スキルを使い、この世界で売れそうな商品を片っ端から買いまくった。

 通販のレベルも7まで上げたので、さらに購入可能なカテゴリーが増えた。


 レベル6でベビー用品や玩具など、そしてレベル7でスポーツ用品やアウトドア用品などが買えるようになった。


「もしかしてフィギュアも買えるでござるか!?」

「そうみたいだな」

「買うしかないでござろう!」

「いや、さすがに異世界じゃ売れるないんじゃ……?」

「そんなはずはないでござる! きっとこの異世界にも、フィギュア文化を根付かせることができるでござるよ! うおおおおおっ! 俄然、やる気が湧いてきたでござるよおおおおっ!」


 拳を突き上げて叫ぶ金ちゃん。

 消音スキルを取っておいてよかったな。

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