第5話 スキルの効果が絶大過ぎる件

 部屋に引き籠り、丸二日が経った。

 驚くべきことにそのタイミングで、ちょうどレベルアップした。


---------------------------------------------------------------

小森飛喜 レベルアップ!

 職業:ひきこもり

 レベル:2 → 3

 HP:20+10 MP:20+10

 筋力:2+1 耐久:2+1 敏捷:2+1 魔力:2+1 精神:2+1

 ユニークスキル:部屋の主

 スキル:排泄耐性LV5 空腹耐性LV2 暇耐性LV1 清潔維持LV1

 SP:0+100

---------------------------------------------------------------


「マジか。ってことは、経験値の獲得ペースがちょうど前日の倍になってたってことか」


---------------------------------------------------------------

 経験値 0/300

---------------------------------------------------------------


 次に必要な経験値は300になっている。

 もし経験値の獲得ペースが連続在宅時間に比例するとしたら、次も一日後にレベルが上がるはずだが……。


「それも気になるが、それよりスキルの効果が絶大過ぎる件について」


 二日経ったにもかかわらず、俺はまだ一度もトイレに行っていない。

 なのにあれから一度も尿意も便意も催していなかった。


「一度おしっこしたくなってたのにな……あのときの尿はどこに行ったんだ……」


 耐性という言葉からは「尿意があるのに耐えている」という印象を受けるが、そもそも我慢しているという感じではないのだ。

 排泄物そのものが体内に溜まっていない、むしろどこかに消えてしまった、と言った方が的確だろう。


「それに空腹耐性で腹も減らなくなった。さすがに体重が減っていったらヤバいだろうが……今のところそんな気配はないな。体重計がないから正確なところは分からないが……」


 そして昨日新たに取得した暇耐性だ。

 正直ここに籠っていても何もすることがなく、すでに昨日の時点で暇すぎて堪らなかったのだが、取得して以降はそれがあまり苦痛には感じなくなっていた。


「清潔維持についてはまだ効果がよく分からないが……スキルってすげぇんだな」


 スキルの力を実感した俺は、レベルアップで得た100ポイントをすぐに使うことにした。


---------------------------------------------------------------

 騒音耐性 10

 暇耐性LV2 20

 空腹耐性LV3 30

 清潔維持LV2 20

 排泄耐性LV6 60

---------------------------------------------------------------


 どうやらこの五つのスキルに関しては、レベル×10のスキルポイントが必要なようだ。


 排泄は今のレベルでも十分抑えられているので、ひとまず空腹耐性を3に、暇耐性を2に上げることに。


〈空腹耐性がLV3になりました〉

〈暇耐性がLV2になりました〉


「あとは……さらに空腹耐性や暇耐性を強化するか……それとも清潔維持を上げるか……」


 と、そのときだ。

 隣の部屋から凄まじい怒声が響いてくる。


「あんた、また勝手に財布の金をギャンブルに使ったねぇ!」

「うるせぇ! 俺の稼いだ金だろ! どう使おうが、俺の勝手だろうが!」

「ああん!? そういうことはもうちょっとマシな稼ぎしてから言えやゴルァッ!」

「あぎゃっ!? い、痛い痛い痛い! しっ、死ぬ! 死ぬから! お、俺が悪かったよ……っ! 勘弁してくれぇぇぇっ!」


 また隣人が夫婦喧嘩をしているようだ。

 どうやら仲が悪いらしく、言い争う声が絶えず、たったの二日なのにすでに何度目か分からない。


 奥さんの方が強い(肉体的に)のか、最終的には旦那側が泣き詫びて終わるというのも、お決まりのパターンだった。


 呆れていると、逆隣からも大きな声が。


「天国は近づいた! 間もなく神々が我らをこの堕落した世界からお救い下さるだろう!」

「「「おおおおおおっ!」」」

「しかし! 残念ながら皆が救われることができるわけではない! 救われるためには、相応の備えが必要なのだ!」

「「「い、一体どうすれば……っ?」」」

「そのために我が教団がある! 我らの教えを実践すれば、必ずや皆も救われることだろう!」

「「「おおおおおおっ!」」」


 ……何かヤバい宗教の集会場みたいになっているらしい。

 こんな狭いアパートの一室でやるなよ。


 このアパート、ただでさえ壁が極薄で普通の会話すら聞こえてくるというのに、やかましい隣人の間に挟まれてしまっている。

 暇耐性がない頃は漏れてくる声を聞いて暇を潰していたが、できればもうちょっと静かな方がいい。


 そんなわけで、俺は騒音耐性を取得することにしたのだった。

 あと、空腹耐性もLV4にしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る