第2話 勇者が現れました
「ひきこもり? え、この職業、どういうことですか?」
「も、申し訳ありません……実は私も初めて見たため、分かりかねます……。それにしても、字面から意味を推測することすらできないというのは……非常に珍しいですね……」
どうやらこの世界には「ひきこもり」という概念がないのかもしれない。
「いずれにしても、このステータスから考えて、戦いに向く職業でないことは確かです」
そりゃそうだよな。
だって引き籠りだし。
俺が学校に行かずに家に引き籠ってるからって、こんなものを職業にするか?
この世界の神とやらは性格が捻じ曲がっているに違いない。
部屋から出ると、すでに確認が終わったクラスメイト達がはしゃいでいた。
「俺、職業が剣豪だったぜ! かなりいい職業らしいぞ!」
「あたしは大魔導師よ! さすが異世界人だってびっくりされたわ!」
どうやら大半が優れた職業だったらしい。
やはり異世界人が高い能力を与えられるというのは本当のようだ。
王女様が満足そうに言う。
「皆様が授かった力があれば、きっとこの世界で活躍することができるでしょう」
いや、俺、「ひきこもり」なんだが?
これでどう生きていけと?
「おい、小森。てめぇはどんな職業だったんだよ?」
ただでさえ不登校の私服で肩身が狭いのに、明らかに外れな職業を引いてさらに肩身を狭くしていると、声をかけてきた奴がいた。
不良グループのリーダー格、阿久津だ。
180近い体格で、中学の頃は野球で全国大会に行ったこともあるらしい。
一番嫌なのに目を付けられた。
ってか、明らかに浮かない顔してんだから、それで察しろよ。
まぁ他人の不幸を出汁に盛り上がるクズみたいな人間性のこいつに、そんな期待しても仕方ないんだが。
「いいじゃねぇか、教えろよ」
誰が教えるかよ。
「あーしが見てあげよっかー? はい、鑑定~っ☆」
そこへ割り込んできたのは、髪を明るく染めたギャル女だった。
って、こいつ、まさか鑑定スキルを……っ!?
ギャル女が噴き出した。
「ギャハハハハッ! こいつ、職業『ひきこもり』なんですけど~っ!」
「引き籠りっ? ぶはっ! なんだそりゃ!」
「おいおい、引き籠りって職業なのかよ!」
「マジか! ピッタリじゃねぇか!」
「超ウケる~っ!」
「しかもステータスぜ~んぶ1じゃん! 超雑魚過ぎ~」
「うっわ、ゴミだろ!」
勝手にステータスを暴露され、巻き起こる嘲笑の嵐。
……こんなクラスだから行きたくなかったんだよ。
もっとも、それだけが理由ってわけじゃないんだが。
「ひきこもり……?」
盛り上がる異世界人の様子に、不思議そうにしているのは王女様だ。
美人の王女様と仲良くなれるチャンスとでも思ったのか、男子の一人がすかさず「ひきこもり」の意味を説明した。
「そんな職業があったなんて……。しかし神々が与えて下さった職業です。きっと何らかの意図が……」
「そんなの絶対ないっすよ、王女様。あいつは元の世界でも引き籠るしかない奴だったから、神様も他にどうしようもなかっただけっす。それより俺の職業、聖騎士だったんすけど、これってどうなんすかね?」
「聖騎士ですか。とても素晴らしい職業です。戦闘ができるのみならず回復魔法も使え、特に要人護衛などに大きな需要があります」
「や、やっぱそうなんすか? そ、それなら、ぜひ王女様の護衛を――」
「で、殿下っ!」
自分を売り込もうとしていた男子の声を遮るように、鑑定士が慌てた様子で部屋から飛び出してきた。
「どうされましたか?」
「ゆ、勇者が! 勇者が現れました!」
「何ですって!?」
遅れて部屋から出てきたのは、芸能事務所にスカウトされたこともあるという長身イケメンで、テニス部で全国行くほどのスポーツ万能、加えて誰にでも気さくで優しい性格という、冗談みたいに三拍子揃ったクラスメイト、神野勇気だった。
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神野勇気
職業:雷霆の勇者
レベル:1
HP:300 MP:300
筋力:30 耐久:30 敏捷:30 魔力:30 精神:30
ユニークスキル:破魔の天光 雷神の加護
スキル:なし
SP:300
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……全ステータスが俺の30倍なんだが?
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