チートな職業で楽しい異世界ひきこもり生活 ~引き籠りの俺がなぜか勇者より強いんだが?~

九頭七尾(くずしちお)

第1話 そういやそんなやつ居たっけ

「おい、何だ、ここは……?」

「俺たちさっきまで教室にいたはずだよな……?」


 そこは学校の体育館ほどの広さの空間だった。

 せいぜい三十人くらいの人数だと、とても広く感じる。


 その三十人というのは、俺、小森飛喜こもりひきが通う高校のクラスメイトたちだ。


 そこへ数人の男たちを引き連れた一人の美少女がやってくる。

 ファンタジーっぽい銀色の髪に西洋風の顔立ちで、そのあまりの美貌に皆が思わず息を呑む。


「初めまして、異世界の皆様。突然のことで驚きでしょうが、まずはどうかわたくしのお話をお聞きいただけまでしょうか?」


 そんな絶世の美少女に懇願されては、誰も反論することはできない。

 まぁとりあえず話を聞かないと状況も分からないしな。


 アリス=クランベルと名乗った彼女は、クランベル王国という国の王女様らしい。

 そしてここは王宮内に設けられた、この世界の神々が祀られる神殿だとか。


 で、その王女様が言うには。


 ここは俺たちがいた世界とは別の世界、すなわち異世界だという。

 この世界では時々、俺たちみたいに別の世界から転移してくる者たちがいるらしい。


 どうやら王女様たちが召喚したわけではなく、異世界人はなぜか勝手に現れるみたいだった。


「皆様の召喚は、きっと神々に何らかの意図があってのことでしょう」


 召喚場所が必ず神殿ということもあって、彼女たちは異世界人が神々によって召喚されていると信じているようだ。

 それに異世界人は、この世界の人たちよりも高い能力を与えられることが多いという。


 そのため過去に様々な偉業を成し遂げてきたとか。

 かつて世界を苦しめた魔王も、異世界人たちが中心になって討伐したそうだ。


「すでに魔王はいませんが、強大な力を持った魔族との戦いは続いています。異世界人の皆様であれば、きっと大きな戦力になるでしょう」


 クラスメイトたちの反応は様々だった。


「すげぇ! 異世界に魔王だってよ! つまり俺たち、勇者にもなれるってことか!」

「似たようなの漫画で読んだことあるぜ! 確か、チートな能力を貰えるんだよな!」

「私、戦うなんて無理なんだけど……」

「ちょっと、ここスマホが通じてないじゃん! 勝手に召喚とか、冗談じゃないんだけど!」

「どういうこと? あたしたち元の世界に帰れるの?」


 この状況を喜ぶ連中もいれば、魔族との戦いと聞いて怖がったり、相手の都合で召喚されたことに苛立ったり、拒絶や不満を口にする連中もいる。

 そして元の世界に戻ることができるのかという不安は、多くの者に共通するものだろう。


「もちろん皆様がその力をどう活かすのかは、皆様次第です。我が国も人材は常に欲していますが、何かを強制するつもりはありません。ただし、もしご協力いただけるのであれば、相応の見返りは約束いたしましょう」


 一応、最悪なタイプの異世界召喚ではなさそうだ。

 無論、彼女の言うことが本当なら、だが。


「それから元の世界に戻る方法についてですが、詳しいことは追々お話しさせていただくつもりです。ただ、間違いなく『ある』ということだけはお伝えしておきましょう」


 なんだか奥歯にものが挟まったような言い方だった。


 それから俺たちは、自分たちの能力を知るため、ステータス確認とやらを行うことになったのだが……。


「ってか、何で小森いんの?」


 クソ、最悪だ。

 女子の一人に見つかってしまった。


 ……何でいるのかって?

 むしろ俺が聞きたい。


 それを皮切りに全員から注目されてしまう。


「うわ、マジだ。全然気づかなかったわ」

「そもそも小森って誰だっけ? ああ、そういやそんなやつ居たっけ」


 そんなふうに言われるのも無理はない。

 というのも、入学して最初の二か月くらい通っただけで、それ以来ずっと不登校中だからだ。


 今日も自室に引き籠っていて、学校には行ってなかった。

 だから周りが全員制服なのに、俺だけ私服だ。

 なんかすげぇ恥ずかしい。


 ていうか、普通こういう異世界召喚って、不登校のやつは除外するもんだよな!?


 神様だか何だか知らないが、もうちょっと融通を利かせてくれよ……。


「まぁ小森なんかより、今はステータスだな、ステータス!」

「すげぇ能力授かってたりして!」


 幸い彼らの意識はこれから行うステータス確認に向いていたため、深く追及されずに済んだ。


 どうやらステータス確認は個別に行っていくらしい。

 王宮側が全員の能力を把握するためだと思うが、一人ずつ別室へと案内されたのだ。


 俺が部屋に入ると、いかにも文官っぽい人が待っていた。


「この世界の人間は鑑定士に見てもらう必要がありますが、異世界の方々がステータスを見る方法はとても簡単です。ただ自分の力を見ようと強く意識するだけです」


 言われた通りにやってみると、目の前にパソコンのウィンドウのようなものが現れた。

 そこには見たことのない文字が書かれていたが、なぜか読むことができた。


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小森飛喜

 職業:ひきこもり

 レベル:1

 HP:10 MP:10

 筋力:1 耐久:1 敏捷:1 魔力:1 精神:1

 ユニークスキル:部屋の主

 スキル:なし

 SP:100

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「職業……ひきこもり?」

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