第4話 入学式直前、人が落ちてきました ー 寺本聖
入学式は午後一時から始まります。
『三十分も前に行けば十分かも』と思いましたが、そこは新入生です。何があるかわかりませんから、そこからさらに十五分の余裕をみて十二時十五分に学校に着くように出掛けました。
自転車で商店街から住宅地に入り大きな木が立っている公園の中を通過して近道していきます。
ここを通って行くと学校まで早く着けるのです。
春の暖かく感じる気持ち良い緑の匂いがする空気を吸いながらスイスイと気持ちよく自転車を走らせます。
と、まさにその時です。
ドスン!
私の目の前に上から人が落ちて来ました。人が空から落ちてきたんですよ!
慌てて自転車の急ブレーキを掛けました。
「痛ってぇ」
大声で男の人が叫びます。男の人は動けるようです。
草陰からネコが二匹、ダッシュで逃げ去っていきます。
はて? ネコはどこにいたんですか? 一緒に落ちてきたんですかね?
そうだ! 人! 人ですよ。ネコじゃなくて人の心配です。
大きな木の上から落ちたのですから動けないことだってあります。その場合には救急車を呼ばないといけません。
「大丈夫ですか?」
そう声を掛けるとビクッとされましたが長い髪で隠れてお顔はよく分かりません。
「あっ! 血が出てますよ」
男の人の腕から血が出ていることに気付きました。
大変です!
急いで自転車から降りてスタンドを立てて自転車を止め前籠からカバンを取って男の人に駆け寄ります。
「ちょっと待ってて下さいね」
そう言って落ち着いてもらいます。
カバンの中から水筒を取り出して蓋を開けてまずは水道水で汚れを洗い流します。男の人の腕を左手で掴んで水筒の水をかけます。
「ただの水道水ですから害はないです」
一応説明しておかないと。怪しい水だと思われたら大変です。
あっ、顔が歪んだ。ちょっと染みたかな? でも、ここは我慢して下さいね。
次にカバンからポケットティッシュを出してケガしたところの上からポンポンとします。応急処置ですから。こんなもんでいいでしょう。
ハンカチをスカートのポケットから取り出して腕に巻きます。これで完了。
「よし、これで応急処置は完了。出血はしていないので止血は要らないと思います。念のために病院に行くか消毒液で消毒しておいて下さいね」
急がないと入学式に遅れてしまいます。十五分の余裕のうち五分くらいは今使ってしまいました。
カバンを自転車の前籠に載せてスタンドロックを解除。
「お大事に」
そう言い残して私は学校へ自転車で急ぎました。
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