第6話 影の足音
キミだけの宇宙を駆ける影の足音
凛とした視線が見つめる
キミ自身の
心沸かせる夢はなに?
星のうたをうたってよ
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
満天の星。新月でもこんなに明るいのに、ぴっちぃの視界は漆黒の闇のようで、一番見たいものが見えない。
「かっぱっぱを照らせ! ぺんを照らせ! お星さまたち、お願い! かっぱっぱとぺんの姿をぼくの眼に見せて!」
360度、テントを見失わないギリギリのところまで駆け、ふたりの名を叫びながら探し回る。喉にはもう嗚咽の息が上がってきている。虚体なのに、こんなに胸が苦しいなんて。
ふたりの姿を見つけたら、駆け寄って、抱きしめて、
『叱ってごめん』
と謝ろう。そして、二度と、二度と、手を離すもんか!
ふたりが望むなら、ここからもう引き返してお
『また遠くまで行っちゃったね。んで途中で帰ってきてさ。ご苦労なことだったね。あはは』
なんて笑いながら、ほかのぬいぐるみたちに中途半端だった旅の報告をして、かれらの余生に寄り添い、かれらの実体が処分されるときには、ちゃんと見送ってあげるんだ。悲しいけど。
ああ、そのお別れから逃げちゃいけなかったんだ。だから、やっぱり帰ろう。かっぱっぱとぺんを見つけて、お
そうだ、パパを見守ってあげなくちゃ。ひとりぼっちになったパパが寂しくないように、魂だけでもぼくは傍にいてあげよう。
『パパったら、またそんなに散らかして・・・。ほらほらそっちも片付けないと、大事な書類が埋没しちゃうよ。・・・ああ、またカレールウ買ったの? 未開封のがまだ5箱もあるでしょ? 安かったからってそんなに買い込まなくても・・・。ママが生きてたらきっとまた文句言われるね』
とか、ダメ出しするほうも結構なストレスなんだけど、こんな遠くの知らない土地で迷子になってるよりずっとマシだ。それに、あの家は、ママが暮らして、おにいちゃんたちが育っていった家で、ぼくにとっても実家と同じなのだから。
かっぱっぱとぺんを連れて帰る段取りを考えながら、そのちっちゃな希望にすがりながら、何時間も走り回って探し回り、それからぴっちぃは、東の端からもう白んでいきそうな空を仰ぎ、大声で泣いた。
とうとう、ふたりを見つけることはできなかった。きっとふたりは、どこかで迷子になっているのだ。半泣きのふたりが手をつないで、心臓(?)をバクバクさせながら、テントの場所を探し回っているのだろうか?
かっぱっぱとぺんも互いにはぐれてしまってたらどうしよう。それぞれ独りぼっちでお互いの名やぴっちぃの名を呼び、べそをかいているとしたら・・・考えるだけでぴっちぃの胸は張り裂けそうだ。どこかをどうにか進んで、町にでも近づいてくれてたらまだ救いようはある。人間でも動物でもいい、だれかと出会ってくれていたら、そこから新しいぬいぐるみ生活が始まるのなら、三人がバラバラになったとしても、独りで泣いてるよりまだマシだ。
ひょっとして、かれらは実体のほうが処分されて、魂もこの世から消滅してしまったのだろうか?
命あるものは死んだらおほしさまになるのだよ、とかいうお伽噺があったっけ? ぬいぐるみは、実体があり、魂があり、虚体に魂を移すこともできるけれど、命はない。魂があの世へ帰ったら、元の実体に対応した星をひとつ、もらうことができるのかどうかは知らない。
ぴっちぃは視線を、自分を包囲する平原を地平線まで
いまさら何を得ようとしてぼくは此処に立っているのか?
いま生まれたかもしれない新しい星の微かな気配を、夜明けの光によって追い払われようとしている星々のなかに見つけるために?
それが入れ替わったところの地上の魂の痕跡を見届けたとすれば、国境の荒れ野に、今度は独りでどんなふうに何の希望を求めればいいのだろう?
消えかける星空と平原が依然闇として、そちらのほうは実体であり、虚体のぼくは虚像にすぎない。そもそもぼくの魂は、存在の意味を問う価値のある魂なのだろうか?
かっぱっぱ、ぺんとはぐれたぴっちぃは、もう何かを考える気力も削がれ、放心状態のままトボトボ歩き続けた。どこへ向かっているかはどうでもよかった。
やがてざわざわと雑踏の気配が近づいてきて、最後の国境の町に入った。
〈昨日渡った平原は、この国の領土なのだ。迷子の届けを出すならここが最後だ。捜索してもらえるだろうか・・・〉
〈・・・・・無理〉
自分たちは貨物に紛れ込んで無賃乗車してきたし、国籍もない、どこにも住民登録もされていないぬいぐるみの身、しかも虚体の身なのだ。捜索願を出すこともできない。
もう一度、ちゃんと考えよう。ひとりでネプチュン鳥島への旅を続けるか、引き返すか・・・。
あの平原へ戻り、かっぱっぱとぺんの虚体を見つけ出すことは・・・一生かかっても無理だろう。
ぴっちぃは考え続け、次の日暮れになり、空港でひと晩明かした。
朝、コンテナを載せたトーイングトラクターが目の前を通り過ぎるところで、ぴっちぃは積荷に飛び乗り、しがみついた。
意を決してそうしたというより、目に見えない何かに背中を押されたようだった、と、後になってぴっちぃは思う。
それはネプチュン隣島へ向かう便の積荷だった。
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