きつねの嫁入り

一色 サラ

誰かの元から

 教会から続く階段をキツネのお面を顔をつけたウエディングドレス姿の人物が降りてくる。階段の脇にいる人物も、誰しもが動物のお面をつけていた。

「おめでとう!」

周りはそう言って、花びらを撒いていた。


宗太そうた、起きて」

「えぁ!!わぁ!!おっ!!」

 ベットから飛び上がるように安土あずち 宗太は覚ました。

「壮太、大丈夫?」

 ベットの脇に立っている妻の茜が驚いた様子で壮太の顔を伺ってくる。

「えっ、ああ、大丈夫だよ。変な夢みただけだから。今、何時?」

「う~んとね、もうすぐ6時半だよ。変な夢って、どんな夢みたの?」

「まあ、いいじゃん。朝ごはんはもう出来てるんでしょう。すぐ行くわ」

「う~ん、分かった。じゃあ早く来てね。」

 茜は、まだ何か言いたげそうだったが、そのまま不満げそうに部屋を出て行った。


 会社に行く準備をして、リビングに入ると、すでに食事を食べ始めている茜が座っていた。

テーブルには、パンと目玉焼きソーセージがお皿にまとめて入っていた。カップに入ったブラックのコーヒーの湯気が立ち上っていた。

「じゃあ、いただきます。」

「夢ってどんなんだったの?」

 茜は興味津々な目を輝かせたような顔で壮太を見てくる。そんなに気になることなのだろうか。しかたがないので、キツネのお面をつけたウエディングドレスの人物の話をした。

「えっ、それって、なんか意味でもあるのかな」

「さあねぇ。まあどうでもいいよ。もう会社に行かないとね」

時計をみると、7時半を過ぎていた。

「じゃあ、いってらっしゃい」

茜が玄関先で見送られて、ドアを開けると、12月の冷気が体全身に感じた。



 夫の壮太が仕事に出かけて行って、1人リビングで、茜は宗太が今朝みた夢のきつねのお面をつけたウエディングドレスの人物が気になってしかたがなかった。

 そこで、壮太の実妹である美佐希みさきに、きつねのお面について知らないかとLINEを送った。

 来週の日曜日には結婚式が控えているので、美佐希になんか関連でもあるのかもしれない。

 数分後、連絡がきて、ちょっと喫茶店で、お昼食べないかとLINEが返答が返ってきた。茜も今日はパートが休みだったので、会うことにした。

 12時半過ぎに、美佐希が喫茶店にパンツスーツ姿でテーブルに座って待っていた。

「ごめんね、仕事の合間に」

「ううん、もう今日は終わったから、構わないよ」

「で、きつねのお面をつけたウエディングドレスを着た人物って、なんだと思う」

「私かもよ」

「どういうこと?」

「子どもの頃、家族で出かけた時や学校のイベントの時に、よく晴天だけど小雨が降ることが多くて、『お前はキツネの嫁入りか』って、よくお兄ちゃんに言われてたんだよね。なんかそれに関連してそうだなと思って。あと、結婚式に絶対出席しろって念を押したせいで、夢に出たんだと思う。」

「ふ~ん。」

「で、お兄ちゃんって、ここ最近、私の結婚式の話題でた?」

「う~ん、そういえば出てないかも」

「でしょう。絶対、忘れてんだよ。夢のことも私だとは気づかないかったんでしょう。茜ちゃんも、結婚式のこと言っといてね。」

「分かった。言っておく」

 結婚式の準備が大変そうで、この後も、ウエディングプランナーに相談しに行くらしい。



「ただいま」

仕事が終わって帰宅すると、茜はリビングの机で物思いに浸れている様子だった。

「なんかあったの」

「えっ?あ、おかえり」

僕が帰ってきたことに気づいていなかった様子で、ああ、ごはんと言っている。

 まだ、夜ご飯の準備が出来ていないことに気がした。

「今日、何かあった?」

 少し茜の様子がおかしかったので、気になって聞くが「何もないよ。」と軽く流された気がした。

 部屋で、着替えてリビングに行くと、テーブルに赤いきつねのカップ麺とご飯が置かれていた。

「今日って、これだけ?」

「そうだよ。」

 何かあった気がするが、聞いても答えてくれなさうな気がした。

「じゃあ、食べるか。」

向かいに座る茜が壮太の顔を覗き込んできた。

「なんか、気づかない」

「何が?」

「あっそう。そういえば、今週の日曜日の美佐希ちゃんの結婚式なんだけど、覚えてる?」

「ああ、今週だっけ?」

「やっぱり、実の妹の結婚式を忘れてたんだ」

「まあ」

「素っ気ないね」

「そっか」

 宗太は下を向いた際に、赤いきつねうどんが目に入る。そういえば昔、美佐希が晴天の日に小雨が降った際に、夕食の際に、ミニのカップ麺の方が、味噌汁の代わりに出されていた。

 美佐希の元からキツネのお面のウエディングドレス姿の人物が派遣されて、やって来たのかもしれない。

「それって、今朝の夢の花嫁さんだったじゃない。絶対に結婚式に来いって言われてじゃない」

「そうかもしれないね。あいつも化けて、人の夢に何んかに出てくるなよ」

 赤いきつねうどんをすすりながら、安堵した。美佐希の元から、結婚式の出席に出るように警告されたようだ。

「赤いきつねうどんって、誰から聞いたの?」

「ああ、今日、美佐希ちゃんと会って、出したら思い出すかもって言われたから」

 なんだそれっては思ったが、久しぶりに食べたら美味しかった。


 日曜日は、青空が広がって晴天な陽気だった。美佐希の結婚式。教会からの階段を降りてくるときに、霧のような小雨が降り注いできた。やっぱり、美佐希の結婚式はきつねの嫁入りとなってしまった。


 

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きつねの嫁入り 一色 サラ @Saku89make

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