ペンションには誰もいない

ユキ丸

第1話 誰もいない

 緩やかなカーブを車は走り抜けてゆきました。小鳥の鳴き声と風の音。葉の落ちた辺りの雑木林の枝先は、小刻みに震えて北風の到来を告げて居りました。

 さみ子は、小型のスポーツカータイプの車のウインドウを開けて、都会から離れた里山のちょっとひんやりとする空気に髪をなびかせて居りました。やがて、古ぼけたトタンで出来たどんぐりのマークを見つけると、右へウインカーを出し、脇道の砂利道へ入ってゆきました。

 雑木林の中をじゃらりじゃらりタイヤを軋ませながら、低速でしばらく進むと、赤い屋根にミドリの壁の小さなペンションのようなおもちゃのような建物が見えて参りました。そこにもやはり、どんぐりの看板が出て居りました。今日は先客はいないようでした。駐車スペースに車を止めて、さみ子は玄関前の階段を上りました。

「こんにちは」

「・・・・・」

「誰もいないのかしら」

 さみ子はしばらく待ってもう一度、もう少し大きい声で

「こんにちは」

 と云いました。

「チーン」

 音がした方を見ると、モニターがありました。そこに、

“さみ子様、いらっしゃいませ。お部屋は二階の秋雨の部屋です”

とタイプしてありました。

(あら、IT化したのかしら? ご主人はどうしたの?)

 さみ子は呟きました。

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