父の真実
エリカの展開した蒼炎の渦。
蒼い燐火の舞うマンションの階下から、そいつは現れた。
円卓の父、
奴を知る者ならば、誰しもそうだと考えたはずの予想。
だが……。
『こうして直接言葉を交すのはあの時以来か……久しぶりだな、
「親父、なのか……!?」
だが、そこに現れたのは、俺の知る親父の姿じゃなかった。
俺の記憶にある長い金色の髪は黒に。
白かったはずの肌は浅黒くなり、そしてなにより――――。
『そこにいる〝前の器〟はお前に破壊されたのでな……俺がここまで動かなかったのも、新たな器の完成を待っていたからだ』
「器、だと……!? 何言ってやがる……!?」
「おかしいです、マスター……! 先ほど私の心の中に現れた円卓の父は、このような〝少年〟ではなかった……っ!」
「気をつけろ悠生……あいつは、俺の〝次の刃〟らしい……さっきまで俺が戦っていたのも、あいつだ……」
「エリカさんの病室に、突然この子が入ってきたんです……っ! でも……いくら見た目が変わったって、〝あの人の気配〟は全然変わってない……っ! 私……この人のこと、嫌いです……!」
そう、マンションの一階部分から屋上にいる俺たちを愉快そうに見上げる円卓の父――――そいつの姿は、まだ小学生にでも見えるような〝ガキ〟だった。
長い黒髪をなびかせ、褐色の肌に大きな金色の瞳が爛々と輝いている。身長は見るからに小さく、まだ肉の付いてない華奢な体は、黒と赤いカラーリングが交錯する可愛げのあるオーバーサイズのロングコートに覆われていた。
どういうことだ?
確かにこいつの物言いや、対峙する気配は親父そのものだ。
だが、俺が二十年近く見てきた親父の姿は、こんなガキじゃ……。
いや……違う。落ち着け。
俺はもう、それと同じカラクリを知ってるだろ……!?
数え切れない程、俺自身がそれを味わってきただろうがッ!
「そういう、ことかよ……ッ! お前もあの〝ナニカ〟と同じ化け物だったってわけだ!? なら、〝あの時戦ったレックス〟は……!」
『そうだ――――俺の願いを叶えるには、特定の肉体を持たぬ方が都合が良かったのでな。そこの〝ガラクタ〟では、俺の持つ本来の力の半分も出すことが出来なかった。お前が奪い取った紛い物の力……二度通じるとは思わないことだ』
「ガラクタ……だと!?」
その金色の視線をレックスに向け、そう言い放つ創世主。
そのふざけた物言いに、俺は内心に怒りを煮えたぎらせながら、こいつこそが俺の知る親父だということを確信する。
「クソが……お前らは知ってたのかッ!?」
「いいや? 僕たち円卓の王も、〝パパの正体〟を知ったのはつい最近だよ。他でもない君が、レックスを倒した後に……ね」
「大変だったんだぜぇ……?
俺が叫ぶと、背後の王二人は事も無げにそう言い放つ。
そうして二人はそのままは俺たちを飛び越えて階下へと舞い降りると、親父に付き従うようにしてその両脇を固めた。
「でも、相変わらず容赦がありませんね。貴方にとってはガラクタかもしれませんが、私にとっては大切な友人の一人なんですよ? もっと……本当のガラクタになるまで、徹底的に楽しもうと思っているのに……」
「悠生……テメェだって、親父には〝恩〟ってもんがあるだろうがよ……? 俺やテメェみたいなゴミクズが好き勝手出来るのは、親父がこのクソな世界を天国に〝作り替えてくれた〟からだ……ッ! ゴミが調子に乗ってんじゃねぇぜ……? アアッ!?」
「ハッ! 自分一人じゃ何も出来ねぇ〝借りパク野郎〟が……ッ! そうやって
それを聞いた俺の心に、灼熱の怒りが渦巻く。
その怒りは他でもない、〝俺自身〟に向けられた怒りだ。
生まれてから今までの二十五年。俺の人生は、その殆どがこの男の良いように使われてきた。この男に教えられた通りに生き、力を与えられ、こいつの手駒として数え切れない命を奪った。無数の可能性を叩き潰して回った。
俺は――――俺は、そうして何をやってきた?
ただ壊すだけ、傷つけるだけ、殺すだけ。
俺に殺された奴にだって、そいつらの日々があった。
そいつらの大切な物が、例外なくあったはずだ。
〝全てのことに意味は無い。当然、俺にも〟
〝殺しますか……私も〟
〝私はただ……マスターとまた一緒に……いたくて……っ! 傷つけようなんて……恨んでなんて……っ!〟
〝俺は……人を殺すより……アニメを見たり、ゲームをしている方が好きだ……好きだったはず……その……はずなんだ……ッ!〟
俺の心に、かつての俺がやらかしてきた……そしてそれでも、そんな俺と繋がろうとしてくれた、今の俺にとって絶対に忘れるわけにはいかない声が響く。
もし永久に出会っていなければ……俺はきっと今もあのままだった。
俺一人じゃ何も出来ず……抗うこともせず、動こうともしなかった。
馬鹿が。
この大馬鹿野郎が――――!
俺は自分の生に疑問を持ちながら、〝俺なんてこんなもん〟だと……この男にも、運命にも逆らうことは出来ないとその疑問を塞ぎ、この男の手駒であり続けた――――!
『――――さあ、問答の時間は終わりだ。迎えに来たぞ、エール。俺と一緒に帰ろう。お前の居場所は、そのような薄汚いガラクタの中ではない。欠けていた炎の半身も〝たった今〟見つかった。喜べ……これでお前は元に戻れる』
だがその時。怒りに燃える俺には目もくれず、創世主は俺の後ろに立つ永久へと視線を移すと、まるでお気に入りの玩具でも見つけたかのような無邪気な笑みを浮かべた。
「え、エール……? それって、私のことなんです……っ?」
「クソが……! やはり、こいつらの狙いはッ!」
「永久さんの奪還……っ!」
瞬間、俺は永久を守るように前に出る。そして握りしめた拳に極大の熱を収束させ、〝輝く太陽と放射状に広がる陽光。そしてその輝きを優しく抱きしめる女神〟を描いた〝
「
『ほう……? どうやら、あの時よりも〝エールの扱い〟には慣れたようだ。では、久しぶりにこの父自ら、息子の成長を見てやるとするか――――』
そうだ……もう前とは違う。
俺はもう、二度と俺の心を裏切らない……!
瞬間。俺は階下の創世主と二人の王めがけて加速。
陽光と神の力を両拳に握りしめ、かつての俺が目を逸らした罪へと挑みかかる。
『今さら永久などという器に興味はないが……まあいい。俺の身から出た錆は、俺自身の手で始末をつけるとしよう』
眼前に迫る創世主は、咆哮と共に迫る俺を迎え入れるように両手を広げ、その圧倒的殺気に不釣り合いな笑みをその幼い顔に浮かべた――――。
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