僕が守るもの
「邪魔だぞ女ッ! 私はそこにいる〝拳の王〟と戦いたいのだっ! どかぬというのなら――――ッ!」
「やりますかっ!? ならどうぞ、どこからでもかかってきなさーいっ!」
「泣いても知らんぞっ! 出でよ! ガネーシャX! ギリメカラΔ! そして我が愛機、ブラフマアアアアアア――――Vッ!」
空中で激突したシュクラさんと
永久さんに邪魔されたシュクラさんが両手で印を結び、落下しながら
「ええええっ!? ろ、ロボットっ!? それってロボットですかっ!? すごいすごいすごーいっ! 私も乗りたーいっ!」
『ハーーーーッハッハッハ! そうだろう、そうだろう! 羨ましいだろうッ!? これぞこのシュクラが持つ力! 〝貴き物を具現化する力〟だ!』
現れたロボットは三体。
うち二体は大きな人型に像みたいな頭で、腕にはそれぞれ剣と錫杖を。そして真ん中の一番強そうなロボットの開かれた上半身のコックピットに、金色の髪をなびかせたシュクラさんがストンと着地。シートに座ると同時に操縦桿を握り締め、満面の笑みを浮かべながらロボットの中に収納されていく。
そうなんだ。これが〝
シュクラさんは彼女が思う〝
精巧な電子機器も、最新兵器も、大きな戦闘機や車だってなんでもOK。
しかもその動力は、シュクラさん自身の力で無限に賄える。そして、そんな彼女が〝一番貴い〟と思っている物――――それが〝人型ロボット〟なんだ!
『では行くぞッ! ガネーシャ! ギリメカラ!
「あのあの……っ! この戦いが終わったら、そのロボットに〝私も乗せて〟貰えませんか……? 実は……私もロボット大好きなんですっ!」
『なんとーっ!? お主にもロボの良さがわかるのかっ!? よしよし、良いぞ! ロボ好きに悪い奴はいないからなっ! 後でお主にもちょっとだけ乗せてやる!』
「わー! ありがとうございますっ!」
そう言って目を輝かせる永久さんと、三機のロボットでとんでもない火力を叩き付け始めるシュクラさん。
な、なんか全然戦ってるって感じの雰囲気じゃないけど――――でもその戦いの余波はどんどんこのホールを壊していく。そして――――。
「燃えろ……ッ!」
「大地よ――――」
永久さんとは離れた場所で戦うエリカさん。
エリカさんは蒼い炎の渦の上で、綺麗な銀色の三つ編みといつものケープをたなびかせて凄い速度で飛び回る。対するシャニさんは特に動くこともせず、ただ目の前に迫る炎に向かって印を結ぶ。
それと同時、一気にシャニさんの目の前の地面が盛り上がって、〝分厚い土の壁〟に変わる。
エリカさんの蒼い炎はその土の壁を回り込んでシャニさんを襲おうとするけど、シャニさんの操る土は、高熱によって焼けきる前に次々と隆起して炎の熱を事も無げに押し返し、逸らしきってしまう。
「というわけでさ――――見ての通り俺は〝土を操れる〟。土というより〝地形〟かな? 少し時間はかかるけど、やろうと思えば島一つくらいなら簡単に新しく作ったり、沈めたりもできちゃうんだよ?」
「っ! それがどうしたと――――!」
「君も炎使いならわかってるんじゃないの? なんで〝燃やせる〟って判断したわけ? 〝土は炎の天敵〟さ。なんでかって……そりゃ俺たちが住むこの星に、土は〝無限〟ってくらいにあるからねぇ……」
シャニさんが印を結ぶ。するとエリカさんの炎の竜を押し潰そうと、周囲の地面からまるで大蛇のようにうねる〝土の津波〟が凄い速度で襲いかかる。
それをエリカさんは躱して、もっと言えば燃やそうとして蒼い炎を燃え上がらせるけど、とんでもない量で迫るシャニさんの土の津波を燃やし尽くすことは、さすがのエリカさんでも厳しいはず……!
シャニさんの土はエリカさんの超高温に焼かれて溶けて、マグマみたいに赤く燃えて砕け落ちるけど、それでも一瞬ってわけにはいかない。
波を操る僕にもわかるけど、シャニさんはただ土をぶつけてるんじゃなくて、土の中に〝循環〟を起こしてる。エリカさんの炎で表面が蒸発しても、すぐに内側の冷えた土が前に出てくる。
水よりも遙かに沸点が高いはずの土でそんなことをされたら、エリカさんの炎じゃ――――。
「
「っ!」
でもその時。
母さんからの〝戦力外通告〟で集中が乱れていた僕に、射貫くような
僕の持つ〝波を操る力〟は、たとえ視線を向けていなくても、僕の周囲の情報を事細かに伝えてくれる。この前の戦いの時みたいに、ビル一つ分くらいなら大体どんなことが起こってるのか把握できるくらいに。
だから今もこうして、僕は母さんと戦いながらでも二人の状況をつぶさに感じ取ることが出来ていた。でも、悠生の言う通り今この時は――――永久さんやエリカさんに僅かでも意識を向けていい時じゃない。
ただでさえ僕の力は弱くなってるのに、集中まで乱したら、それこそどうやっても母さんに勝つなんて事は出来ないんだから!
「なにボケッとしてやがる! こいつの言う事なんざ真に受ける必要はねぇ! この女を俺だけでやれるなら、最初から一人でやってんだよッ!」
「ごめん……っ! もう大丈夫だからっ!」
そうだ。悠生は今も僕のことをこんなに信じてくれてる。たとえ僕の力が母さんや悠生に及ばなくても、それでも出来ることは絶対にあるはず……っ!
崩れた骨組みを足場に、もの凄い速度で母さんに突撃する悠生。僕は悠生の機動と波紋から、悠生が次に何処に行きたいのか、次にどうしたいのかを読み切って――――ここだっ!
「悠生っ!」
「ナイスアシストだ!」
無数に迫る太陽。それを悠生は僕が生み出した〝波紋の足場〟を支えに空中で方向転換。灼熱の隙間を縫って、一気に母さんの眼前に迫った。
母さんの呼び出す太陽はどんどん〝力を増している〟。
最初のいくつかは悠生が拳で砕いたけど――――よく見ると、太陽を砕いた悠生の拳が裂けて、血が流れ落ちてる。
〝拳を握れる限り不滅〟の筈の悠生が傷を負う。
それはつまり、母さんの持つ〝
これ以上母さんの太陽を砕くのに悠生の力を消費させちゃダメだ。母さんと戦えるのが悠生だけなら、僕は全力で悠生をサポートするっ!
「お願い、悠生っ!」
「はぁあああああ――――ッ!」
まるで光そのものになったような悠生が、その閃光の拳を母さん目掛けて叩き付ける。それはさっきと同じように母さんを守る障壁を砕いて、悠生はさらにそこへ振りかぶった反対の拳を振り下ろして――――!
「なんとも猛々しい力……そしてどうやら、貴方の内から溢れる〝彼の者〟の力は、そうそう使える物ではない様子」
「……っ!?」
う、嘘でしょ……?
悠生が放った渾身の拳。それを母さんは、まるでボールかなにかを掴み取るみたいに、その綺麗な手で〝受け止めていた〟。
「この女……っ!?」
「フフ……まだわかりませんか? 私は〝太陽〟。この地を守護し、見守り続けることこそ我が責務。たとえ貴方が〝彼の者の力〟を宿していようと、鈴太郎がその心を奮い立たせようと、太陽の巡りを止めることは、人の身には不可能なのです」
「ぐっ……あああああああアアアアっ!」
悠生の熱が呑まれる。
母さんという太陽の持つ圧倒的エネルギーが、不滅の筈の悠生の体を炎上させる。
それを見た僕はすぐに印を結んで、悠生を助けるために飛び込もうとした。けど――――。
「――――止めなさい、鈴太郎。貴方はとても聡明な子……怯えることを知り、誰よりも〝恐怖を知る〟。それ故にもう理解できた筈です。今の貴方では、この男の力になるどころか、むしろ〝足を引っ張る〟ことになるであろうことを……」
「……っ!」
「構うな……鈴太郎! こいつは俺とお前の〝二人でやる〟……そう決めただろうが……っ!」
僕を励ます力強い悠生の言葉と、僕を拘束する冷たい母さんの言葉。二つの言葉が僕の心を同時に揺さぶって、僕の止まっていた意識を一気に加速させる。
そうだ、たとえ母さんの言う通りだったとしても――――!
この僕が、悠生を見捨てるわけないだろッッ!
「波よ――――!
「愚かな、そしてなんて可哀想な子……。円卓の殺し屋などにたぶらかされ、あまつさえ友などと。ならば、今度こそこの母が貴方の目を覚まさせてあげましょう――――」
瞬間、目も眩むような光が炸裂して、同時にとんでもない衝撃と熱が僕を襲った。
悠生は?
僕の波はどうなって――――。
まるで太陽の中に叩き込まれたみたいな光と熱。
限界を超えた衝撃に、一気に遠ざかろうとする僕の意識。
それを引き戻したのは、肩口から叩き付けられた激痛だった。
「がっ――――!?」
痛い。
息ができない。
どこか折れた?
体が、動かせない。
ここは……?
僕は……どこにぶつかったの?
地面じゃ……ない。
ぼやけてるけど、みんなが戦ってるのが見える。
壁?
飛ばされて、横の壁にめり込んだのか……。
「どうしました? 彼の者の力は使わないのですか……?」
「生憎と……〝休業中〟でな……っ!」
悠生だ。
傷だらけで、フラフラになってる。
悠生の前には、いくつもの太陽を浮かべた母さんが。
永久さんとエリカさんが悠生を助けようとするけど、ダメだ。
シュクラさんとシャニさんも、そう簡単に通すような相手じゃない。
「まずは貴方を消し去り、六業会の宿願と、鈴太郎の未練を断つ。覚悟せよ、円卓の――――いや、〝殺し屋殺し〟よ」
「ハッ……やってみろ。やれるもんならな……っ!」
母さんの光輪が、今までとは比べものにならないくらいに輝く。
今までみたいな沢山の太陽じゃなくて、たった一つの燃え盛る太陽が母さんの頭上に現れて、悠生めがけて堕ちていく。
悠生は両の拳を前に出して、あんなにボロボロでも戦おうとしてる。
でも、だめだ。
今の悠生が、〝あの時に見た力〟を使えないのなら。
このままじゃ、悠生は死ぬ。
動かなきゃ。
誰よりも大切な友達を。
僕が、守るんだ――――。
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