恐怖と決意の狭間で
連続する爆発と、凄い勢いで連射してくる光の矢。
さっきまでいたフロアの床はあっという間に吹き飛ばされて、僕は数メートル下のフロアに転がり落ちる。
「はっ……ひっ……!」
「なんと情けない姿か……ッ! この様な輩が本当に我ら
崩れる瓦礫の音に混じって、バーナースラさんの怒った声が聞こえてくる。そ、そんなこと言われても……っ!
したたかに背中をぶつけた僕目掛け、薄く辺りを覆う粉塵を突き抜けて光の矢が飛んでくる。僕はゴロゴロと横に滑りながらそれを躱して飛び起きると、突き刺さった矢が爆発するのと同時に正面に向かって思いっきり飛び跳ねる。
「うわわわーーッ!?」
バーナースラさんはすぐにそんな僕を追って下に降りてくると、顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。
「なぜだ……! なぜ戦わぬ……ッ!? 貴様のその恥知らずな姿……見ているだけで臓腑が煮えくり返るぞ……ッ!」
「ぼ、僕だって……っ。なんとかしたい……けど……っ。けどぉぉぉぉ……ぅ――――ッッッッ!」
六業会、九曜、円卓、殺し屋、炎、割れた月、笑顔のみんな、助ける、助けない、死んだ、殺した、僕のせい、僕の力、殺し屋の力、お母さん、太極様――――。
ッ――――!?
あああああああ――――ッ!?
頭の中で色んな場面が移り変わって、呼吸が浅く速くなる。
足の裏まで汗をかいて、今にもこの場に吐いてしまいそうな圧迫感が襲ってきて。
これ……〝いつもより酷い〟……っ!
今までは、いくら怖くてもここまで動けないなんて事、なかったのに……っ!
駄目だ……っ。この前の戦いで、大丈夫になったと思ってたのに……っ!
どうして、どうして……僕は……っ!
「もういい……! 貴様がこうして生きていること、それそのものが罪であり、不快の種だ。貴様が戦わぬというのなら、望み通りここでその命脈、断ち切ってくれる――――ッ!」
うずくまってガタガタ震える僕に、背後からバーナースラさんが近づいてくる。
動かなきゃ……!
戦わなきゃいけないのに……っ!
なんで、どうしてこんな時に限っていつもより発作が酷いの……っ!?
さっきまではまだ平気だったのに……どうしてっ?
このままじゃ殺される。
僕は涙も鼻水も全部垂らしながら、なんとか逃げようと必死に手を伸ばした。でも、その時――――。
「ふむ……? どうやら上での争いも激しくなってきたようだな……。だが、上にいる円卓の名乗りに名のある力は見当たらなかった……私がいかずとも、すぐに片がつくだろう……」
「音……っ? この、波紋は……っ」
その時、僕たちがさっきまでいた上のフロアから凄い衝撃と音が響いた。
上には大勢の円卓と六業会の殺し屋がいる。
這いつくばった僕の力が沢山の力のぶつかり合いを感じて。
そして、そんな沢山の波紋の中に、僕は確かに見つけたんだ。
エリカ、さん……っ?
エリカさんが、戦ってる……っ!
沢山の〝小さな波紋を集めて〟……三つの大きな波紋に囲まれてる。
これ……っ! きっとエリカさんは、逃げ遅れた人を庇いながら戦って……!
ぐっ――――!
ぐううううううううううう~~~~――――ッッ!
――――駄目だっ!
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ――――ッ!
このままじゃ――――!
このままじゃ、僕はまた――――!
また、間違えて――――!
そんなの――――絶対に駄目だッッ!
瞬間――――僕の視界が真っ赤に染まる。
心臓の鼓動が止まる。
頭を巡っていた血の流れが一瞬だけなくなって、僕の中でずっとぐるぐる渦巻いていた思考がリセットされる。
〝――――大したもんさ。お前はもうそれを止めたんだ。一人で気付いて、一人で止めた。なら、次にお前がやるべきことも、きっといつか見つかるさ――――〟
僕の心を満たしていた恐怖が遠ざかって、その代わりに聞こえてくる声。
それは、僕の大切な友達の
今の僕がこうしてまだ生きていられる、まだなんとか前を向けるようになった、切っ掛けをくれた言葉――――。
ごめん、悠生。
いつもいつも、君に助けられてばかりで……!
「消え去れ――――ッ! 我ら六業会の面汚しめッ!」
「波よ――――」
僕がそう思えるようになったのと同時。
バーナースラさんは僕目掛けて、本当に千本はありそうな数の光の矢を撃つところだった。だから、僕はそれを――――!
「な……!? なん、だと……ッ!?」
「すぐに力を解除した方がいいですよ……っ。あとは、そこで大人しくしてて下さい……っ!」
印を結んだ右手を向けた先――――そこには僕の生み出した波紋に包まれて、自分の放った光の矢に全身を刺し貫かれているバーナースラさんがいた。
撃たれた矢が僕の所に届く前に、僕の持つ波を操る力で全部の矢を彼のところに跳ね返したんだ。
ちょっと……というかかなり酷い見た目だけど……普通の殺し屋はこの程度で死んだりはしない。重傷には変わりないけどね……。
「ま、さか……先ほどまでの、姿は……私を、欺こうと……っ?」
「そうなら、良かったんですけどね…………」
バーナースラさんを包む波紋はそのままに、僕は足下に別の波紋を浮かべてその上に。滑るように加速すると、一直線にエリカさんの所に向かった。
まだ、僕はこんなだけど――――。
それでも、もう二度と間違えたりしたくなかったから――――。
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