第30話 日程
ゴールデンウィークの連休も終わり、学生自治会のメンバーは、学生自治会室に集まっていた。それぞれ定位置につき、それぞれのマイカップからは小原が淹れてくれた紅茶の湯気が立っている。
ミユが香西の方に目を遣ると、それに気づいた香西と目が合ったけれど、香西はすぐに目をそらした。なんとなく気まずい。
頃合いを見計らって内山会長が話を切り出した。
「皆さんもご存じの通り、先日、調整中だったアドベンチャーレース中四国大会のコースと日程が正式に決定しました」
ミユは渡されたコース図を改めて眺める。中四国全域が描かれ、全長約一九〇キロほどのレースコースが、瀬戸内海を囲むように一筆書きのように示されていた。
「簡単に説明すると、レースは八月の第三週と第四週の週末に行われます。一日目が開会式とヨットレース、二日目が自転車レース、三日目がカートレースと閉会式になります。
まず開会式の場所ですが、讃岐高専西讃キャンパスで行われます。ヨットレースは、そのまま西讃キャンパスから出発して、愛媛県今治までの約六〇キロの海上コースです。
自転車レースは、今治から広島県尾道までの約六〇キロのしまなみ海道コースです。カートレースは、福山から岡山県新見まで公道を走る約七〇キロを走るコースになります。閉会式は、そのまま岡山高専で行われます」
「開会式の運営はどうするんですか?」
「開会式は、西讃キャンパスで行われるので、あちらの学生会にお任せしようと思いますが、東讃キャンパスからも何人か人を出そうと思います。手が空いてるのは私、くらいですか」
「私も手伝います。カートはテンテンだけでも大丈夫そうなので」と、小原が挙手をする。小原はミユと共にカートを担当しているけれども、ミユが思った以上に頑張り、素人の小原が口を出すようなこともないので、実際、手持ち無沙汰だった。
「分かりました。では、私と小原さんの二人で手伝いに行きます。それで、皆さんの担当の進捗はどうなっていますか? 一応全員で共有しておきたいのですが、六車環さん、自転車の方はどうですか?」
「えーと、実は方針だけ決まってて、他は誰が出るかを含めてあまり決まってない感じですね」
「あと三ヶ月ですが、間に合いそうですか?」
「自転車の原型は既製品を使うつもりで、特注のパーツは少なくて済むと思うので、三ヶ月あればなんとかできると思います。活きの良い新人も参加してくれていますから。ただ競技者の選定は難航するかもしれません。炎天下の中を六〇キロ走れる人は少ないですから」
「そうですか。第一回大会で成績を残すのも重要ですが、とはいえ学校行事ですからあまり無理はしないでください」
「はい」
「では、カートの方はどうですか? 小原さん」
「私よりも天雲さんの方が詳しいから、テンテンお願い。いいですよね?」
「ええ、かまいません。では天雲さんお願いします」
「え、はい、えーと、カート部の方では、これから出走するカートの基本的な仕様を決めて、作製するところです。自転車の方と同じで既製品を流用するので、そんなに時間はかからないと思います」
「うまくいっているようですね。さすがは天雲さんです。ただ、他校からは高校生チャンピオンが出場するそうですから、十分気をつけてくださいね」
「え? そうなの?」と真鍋桜が驚いた顔を見せた。
「はい。岡山高専には、昨年度の全国高校カート大会チャンピオンが在籍しているそうです。でも、こっちのドライバーは、同じくらい凄い人が担当するので多分大丈夫です」
「では、最後はヨット担当の桜さん」
「えーと、西讃キャンパスのヨット部に話は通していて、大会には出てくれるそうですが、最近様子を見に行けてないので、近況は分からないです」
「そうですか。キャンパスが遠いので大変かとは思いますが、時々様子を見に行ってください。とはいえヨットの部は、自作のヨットでなくても出場できるので、比較的余裕があるから大丈夫でしょう」
ヨットは安全性の観点と、加工の難しさから、既製品そのままでの出場を認められている。もちろん、自作のヨットの出場を妨げるものではないので、技術があれば自作ヨットで出場することができる。その場合、成績に加点されることになっている。
ミユはふと、配られたコース図に目を落とした。コース図には各県の高専の位置もそれぞれマッピングされていた。そのときミユはあることに気がついた。
「あの……」とミユが小さく挙手をする。全員の視線がミユに集まった。
「このマップを見ると、岡山高専だけ、内陸にキャンパスがあるんですけど、ヨットの出場はあるんでしょうか?」と尋ねる。
事実、岡山以外の高専キャンパスは全て海に臨んで位置している。讃岐高専の東讃キャンパスは山の麓に位置するものの、海まで近いので、ヨット部がある。それに加えて海に面した西讃キャンパスにもヨット部がある。東讃キャンパスのヨット部は最近は活動を休止していることもあって、より海に近く、練習がしやすい西讃キャンパスの方のヨット部に出場を依頼していた。
高専は各県に一つずつが基本だけれど、香川には二つある。そのメリットを活かした形となっているけれど、岡山は中国山地に一つのキャンパスがあるだけなのでヨット部がないかもしれない。そこが気になった。
「ダム湖があるし、そういう所でやってるんじゃないの? 滋賀県だって、琵琶湖で練習してるでしょ?」
香西が推論して言った。
「滋賀に高専ってあったっけ?」と桜。
「え? ないの?」と驚く香西。
それを聞いて内山会長はふと何かを思い出したように、
「そういえば、小原さんは岡山出身でしたね。何か、その点についてご存じありませんか?」と何気なく訊いた。
いつも明るい小原だったが、このときはなぜか目を伏せて首を振った。
「いえ……、知りません。何も」
「そう、ですか」
小原の意外な反応に一同は少し戸惑ったようで、ミユは慌てて、
「あの、どうでもいい話なので大丈夫です」と話を切り上げた。
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