第22話 小さな進歩2

 帰宅し、ベッドに入ると、すぐにまたうとうととし始める桂さんに、

「薬飲むためにもなにか食べた方がいいのですが、食べれますか?」

 と問うと、小さく頷いた。

「わかりました。じゃあ、雑炊作ってきますので待っててください」

 いったん部屋に戻り、冷蔵庫を開ける。一食分に分けて冷凍しておいたごはん、たまご一個、きざみねぎのパックを取り出す。

 粉末だしを溶かして沸騰させ、レンジで少し温めたご飯を入れる。しょうゆ、みりん、酒で調整した後、溶き卵を入れ、蓋をする。少し蒸らしてから蓋を開ける。ふわりと卵が仕上がった。手のついたスープ皿に入れて、持って行く。ローテーブルの上にもぎっしりと本が積まれている。とりあえず、横に避けて器を置く。

「じゃあ食べて、薬飲んでくださいね。僕は飲み物買ってきます。なにか欲しいものあります?」

「……ゼリー」

「了解です」

 ドラッグストアで飲み物やゼリー、レトルトのおかゆ、氷枕や冷却シートを買って、桂さんの家に戻る。

「おかえり」

「点滴が効いたのか、さっきより意識がはっきりしてますね」

「うん。雑炊うまかった。今から薬飲む」

 初めて作ったから口に合うか少し心配だったが、よかった。買ったものを冷蔵庫に入れる。買い物に行けてないのか、冷蔵庫は空っぽだった。明日はもう少し買い足してあげたほうがいいかもしれないな。

「じゃあ、僕は部屋に戻りますね」

「あ、待って……」

 桂さんは空になった食器を持って立ち上がろうとした僕の服の裾を掴んだ。

「寝るまでいてくれないか……」

 いつかの僕が浮かぶ。小学生になったか、なってないかくらいの小さいころ。桂さんのように高熱を出したことがあった。真っ暗な部屋、一人で寂しかった。母さんは、「体調管理がなってないのよ……。こんなことじゃ、勉強できないじゃない」とずっと怒っていた。

 重なる。僕はあの時、どうして欲しかったか。思い出せば、すぐに答えは出る。

「仕方ないですね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る