第21話 小さな進歩1
この日も、同じ授業を取っているはずの桂さんが教室にいなかった。
『桂さん、今日二限から授業ですよ』
と送ってみる。結局姿を現すこともなく、寝る直前の夜十一時頃になって『ごめん、明日は行く』と返ってきていた。
しかし、翌日も午前の授業に桂さんは来なかった。
『大丈夫ですか?』
メッセージを送ったが昼過ぎになっても返信がない。なにかおかしい。そもそも返信がなかなかこないことも珍しいのだ。電話をかけてみるも、一向に繋がらない。僕は午後の授業を休んで、慌ててマンションへ帰り、桂さんの家のインターフォンを鳴らしてみる。まったく反応がない。
「こんな早くに使うことになるとは思いませんでしたが……」
桂さんからもらった合鍵を使い、ドアを開ける。初めて桂さんの家に入ったが、そこは足の踏み場もないくらい本だらけだった。一瞬そちらに驚いてしまうが、部屋の奥の方でぐったりと横たわっている桂さんを見つけると靴を脱ぎ棄て、本を踏まないようにだけ気を付けて、肩をたたく。
「桂さん!」
「……するが?」
うっすらと目を開けた桂さんは身体が熱く、汗をかいている。鼻も詰まっているのか、やや鼻声だった。
「とりあえず、病院に行きましょう。立てますか?」
「うん……」
「財布とか保険証どこです?」
指をさしたのはいつも使っているトートバッグだった。鞄を肩に下げ、肩を貸しながら立ち上がらせる。
「この近くに確か内科があったはずなので」
調べると、昼一時まで午前診受付しているようだ。今ならギリギリ間に合う。徒歩五分くらいの距離でも、フラついてつらそうな桂さんを支えて連れていく。初診のため問診票を書くにも、桂さんはペンも持てず、僕が代筆して渡す。体温を測ると三十八度を超えていたこともあり、中のベッドに案内され、寝たまま診察してもらった。僕が先生に状況を説明し、診てもらうと風邪だった。そのまま点滴をしてもらう。その時、看護師さんがふと僕に言う。
「彼女さん、今日お誕生日なのに風邪で大変ですねぇ」
「え、あ、そうですね……」
今日は六月三日。さっき問診票に書いた生年月日を思い出す。六月三日だった。桂さん誕生日、今日だったのか。
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