第5話 大学受験5
「どんなの書いた?」
「僕は正反対の法律の国に住む少年と少女が国境で出会って、ここじゃないどこか違う国を探しに行く話を書きました。あの字数ではさすがに短編というよりは、物語の冒頭になりましたね」
「字数結構厳しいよな。わたしは真面目なギャルと、何事にもやる気がない優等生が放課後教室で会話するだけの話書いた」
「会話だけですか」
「地の文書いてたら字数取られちまうなぁって思って。イチかバチかって感じだけど」
「攻めましたね……」
入試試験の時に会話文だけで小説を完成させてみせたという度胸に感心してしまう。僕は怖くて真似できない。
「文芸学科受けに来てるってことは、本読むのも好きなのか?」
「ええ、好きですね」
「どんなの読む?」
「僕は面白そうだなと思ったらなんでも読みます。日本文学も、海外文学も。ラノベとかも読みますね」
「なるほど。ワタシも基本なんでも読むんだけど、海外文学は苦手でなぁ。ほら、登場人物のあだ名がややこしくて」
「海外作品のあだ名は結構ややこしいですよね」
「日本だと『山田』なら『山ちゃん』とか、『ひとみ』なら『ひとみん』とかじゃん? 海外のあだ名は『マーガレット』が『ペギー』になったり、原型がなかったりするからさ。誰が誰かわかんなくなって読むのやめることがある……」
「わからなくもないですね」
「あと、グロいのとかホラー系もダメだな。そういうのじゃなかったらなんでも。特に好きなのは三島由紀夫の『夏子の冒険』、森見登美彦の『夜は短し、歩けよ乙女』とかかな」
「明るくて、女性が活躍する小説ですね」
「読んだことあるのか! そう言われればそうだな。天真爛漫な女の子が生き生きしているの読むと元気になるんだよな。駿河は?」
「僕は……そうですねぇ、米澤穂信さんの〈古典部〉シリーズとか、西澤保彦さんの『腕貫探偵』シリーズとか。ミステリーものは好きですね。かといって、ミステリーは自分で書くとなると難しくて、読専ですが」
「確かにミステリー書くのは難しいな。駿河が挙げたシリーズ、どれも登場人物のキャラが立ってて面白いし、読みやすいよな」
初対面なのに、会話のラリーが長く続く。桂さんが時計を確認するまで僕らは二時間半近く話していた。
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