第3話 大学受験3

 試験が始まり、テーマに沿って小論文か小説かを選び、四〇〇字詰めの原稿用紙二枚から三枚で書くというものだった。今回のテーマは「正反対」。僕は正反対の国に住む少年と少女の小説を書いて提出した。

(やりきった。あとは良い結果が出るだけ)

 教室を出ると、さっき筆記用具を貸した女性が大きく手を振る。試験中は小説を仕上げるのに必死で貸したことをすっかり忘れていた。ポニーテールを揺らしながら、僕のもとへ走ってきた。

「さっきは本当にありがとうございました!」

「いえ。無事に受験できてよかったですね」

 シャーペンと消しゴムを受け取り、筆箱に戻す。泣いてたのが嘘のように元気でほっとした。

「ではこれで」

そう言って立ち去ろうとした時、彼女が「あの!」と僕の前に両手を広げて立ち塞がる。

「お礼と言ってはなんですけど、ご飯おごります!」

「え、そんな」

「いや、むしろおごらせてください!」

 強い目ヂカラに僕も思わずたじろぐ。

「まぁ、食べて帰るつもりだったので……。行きましょうか、食堂」

「よしきた!」


 大学の入り口に近い食堂には、自分と同じように制服を着た男女がたくさんいた。試験を終えてほっとした表情で食事する人、今から試験を控えているのか表情が硬い人、長時間に渡る試験の休憩中の人もいるだろう。いろんな感情が渦巻く、異様な空間だ。

「恩人! 何がいいですか?」

「やっぱり初対面の方におごってもらうのは気が引けますので、自分の分は自分で払いますよ」

「いやいや! お母さんから『せっかく遠いところに受験しに行くんだから、おいしいもん食え』ってお金多めにもらってきたんで!」

「そう言われたら、反対にあなたのお母様に申し訳がないんですが」

「あんな一大事助けてもらってるんすよ。それに、こんな知らない土地でご飯食べるときは誰かと食べたほうが楽しいじゃないっすか。ね?」

 これはもう彼女の意志は変わらないだろう。目に入ったメニューにしよう。

「それじゃあ、カツ丼で」

「カツ丼! 受験に勝つとかけていいっすね。了解っす。ワタシも願掛けで同じのにしよ」

 そんなつもりでカツ丼にしたわけじゃないのに、めちゃくちゃ恥ずかしくなる。

「ワタシが二つ受け取ってくるんで、恩人は席取って待っててください」

 言われた通り、二人分座席を確保して待つ。さっき『遠いとこまで受験しに行くのだから』って言ってたな。きっと初めての地で、長旅の疲れもある上に、筆記用具忘れて。そうなったらあれくらい取り乱すだろうな。

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