第47話 逃走
* * *
計画は完全に失敗に終わった。
高元は死に、末充も逮捕されるだろう。帰る場所はない。しかし、悲観はしていなかった。
添野は走りながら考える。
また誰かに取り入ればいい。自分の腕があればいくらでも取り入るところはあるだろう。
昔のように遊んで暮らすのもいいかもしれない。ゲームをするのだ。逃げ惑う人間たちを撃ち殺し、捜査の手を翻弄しながら逃げまわっていた懐かしい感覚が甦ってくる。
それがいい――と添野は思った。
駆けていた足が急に止まる。
闇の向こうに何かいる。
「一人だけズラかるのはずるいだろ」
ゆらりと現れた影が言う。
真島だ。ここでも腕を組んで仁王立ちである。
「真島耕平。
「へえ。見かけによらず勉強家じゃねえか」
「お前とは一度遊んでみたいと思っていたんだ」
「よした方がいいんじゃねえか。火傷するぜ」
「たいした自信だな。おもしろい、試してみようじゃないか」
「いつでも抜きな。俺の方が速いから」
真島は組んでいた腕をほどいた。
じりじりとした緊張感が辺りを支配する。倉庫の騒ぎ声が風に乗って流れてきた。
添野は動いた。
いつも以上にスムーズな動きだった。銃はすでに手の中だ。引き金を引こうとしたとき、彼はそれに気づき愕然とした。
真島はすでに銃を構え、笑っていたのだ。
まさか――!
銃声が響き、同時に胸に衝撃が走る。大きくよろめいたのは添野だった。
「ふん、自信は伊達じゃないということか……」
プライドはずたずたに引き裂かれた。
「たしかにお前は速い。しかし、残念だったな。その程度じゃ効かないんだよ。デミ・ハーツのこの俺には!」
添野は己の身体を誇示するかのように両手を広げ、目を剥いて笑った。
「そーかい」
夜の闇に再び銃声が響いた。破壊音がそれに続く。
「ガッ……そんな……」
添野は自分の眼が信じられなかった。
一撃目にはびくともしなかった胸に大穴が開いているではないか。人工血液が流れ出し、粉々になった機械類があらわになっている。
「四十四口径対軽装甲弾。自慢のボディも台無しになっちまったなァ」
「お前、最初から……」
ここに至って添野はすべてを理解した。
一発目の銃弾は添野を油断させるためのものだったのだ。迂闊としか言いようがない。
いくら対軽装甲弾と言っても当たらなければ意味はない。仮に他の場所に当たっていたのならば、添野にも通常の弾でないことはわかったはずだ。余裕など見せずさっさと撤退していたに違いない。それに気づかずわざわざ無防備に胸をさらしてやるとは……。
「人間様に勝とうなんざ百年早いんだよ」
それが薄れゆく意識のなかで添野が聞いた最後の言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます