第43話 取引

   * * *


 声が聞こえてきた。ようやく高元たちが来たらしい。

 倉庫の中に身を潜めていた檜山は軽い安堵と重い緊張を感じた。

 広い倉庫のスペースの大半は輸入車両が占めている。入口の扉の上には大きな天窓がついていて、曇った夜空が広がっていた。


 恵理子の協力で部屋を抜け出した檜山は、まだ陽が高いうちから倉庫の中に忍び込んでいた。

 遅くなれば遅くなるほど倉庫には近づくのが難しくなる。そう思って忍び込んだまではよかったのだが、薄暗い倉庫のなかで一人で待ち続けるのは予想以上の苦痛だった。


 ギャリギャリギャリギャリ――。


 嫌な音を響かせながら重い扉が押し開けられ、倉庫内の電灯が次々に灯される。

 黒服を先頭にでっぷりとした男が入ってきた。高元だ。そのうしろに小柄な男が続く。仕立てのいいスーツを着ているところを見ると彼が今回の取引相手なのだろう。入ってきたのは全部で九人だった。


 高元と小柄な男が話している間に、黒服たちが二人がかりで棺桶ほどの大きさの黒い箱を持ってきた。ずいぶん重たそうである。箱は高元たちの前で慎重に下ろされた。別な黒服が鍵を開け、ゆっくりとふたが開かれる。


「ほう」


 小柄な男が声をあげた。


末充すえみつさん。ご注文の八七式六連バズーカランチャーです」

「いやあ、さすが高元さんだ。頼んでおいて言うのもなんだが、よく用意できましたなあ」

「ははははは。こちらも商売ですからなあ」


 檜山はそんなやり取りを聞きながら高元との距離を測っていた。証拠は確認した。あとは高元を捕らえるだけである。

 この位置からではまだ遠い。失敗すれば黒服たちに撃たれて蜂の巣にされてしまう。リセットは効かない。


 落ち着け、必ずチャンスはあるはずだ――。


 焦るなと自分に言い聞かせ、檜山は辛抱強くそのときを待った。

 武器の話が済んだのか、末充は車の方に目を向けた。


「しかし、いい車が揃ってますなあ。車はタカモトだ」

「今度は車の方でどうですかな。このあたりはなかなかいいものが揃ってますよ」


 そういって高元が、車の並んでいる方に歩み寄ったときだった。


「お嬢さん、どうしたんですか?」


 開いていた扉から突然恵理子が入ってきた。

 予期せぬ恵理子の登場に一同の視線が集中する。

 檜山が動いた。このチャンスを見逃がしてはいけない。


 あっという間の出来事だった。

 車の陰から飛び出して高元の背後をとり、前にまわした腕で太い首を締め上げる。同時に右手に持った銃をこめかみに突きつけた。


 何が起こったのかわからず動けなかった黒服たちは、自分たちの主が人質になったということに気がつき檜山に殺到しようとした。

 が、しかし、もう遅い。


 倉庫の中に檜山の声が響く。


「動くな! みんなそこを動くんじゃない! 動くと彼が大変なことになるぞ!」

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