第30話 新堂敦司の憂鬱 その2
* * *
「真島さぁん」
黒のセダンが真島の前に止まったのは、電話をしてから十二分後だった。
助手席の窓から顔を出したのは新堂の後輩の
「おう、吉野かァ。元気でやってるか」
「おかげさまで。馬車馬のように働かされてますよ」
吉野は屈託のない顔で笑った。真島は知らなかったが、ちょうど講習会から帰ってきたところで捜査課から逃げ出した新堂と出くわし、そのままついてきたのだ。
真島はこれでも以前刑事だったことがある。そのとき組んでいたのが新堂で、彼らの元に配属されてきたのが檜山と吉野だ。檜山は配属されてから部署が変わってしまったので四人で組むということは滅多になかったが。
「バカな先輩と組むと苦労するだろ。仕事いやンなったらいつでも連絡しろよ」
「勝手に引き抜くと射殺するぞ」
運転席から野太い声が飛んできた。新堂が睨みつけている。
「こえぇなあ。善良な一般市民を脅かさないでほしいよなあ」
「ケッ、よく恥ずかしげもなく善良なんて言葉が出てくるもんだ」
「ははははは、ちがいねえ」
「この前は大活躍でしたね。テレビ見ましたよ」
吉野が自分のことのようにうれしそうな顔で言った。三日前の帝東シティバンクのことを言っているようだ。
「俺が出張ってりゃあこんな奴にむざむざ持っていかれなかったのによ」
新堂は心底悔しそうにつぶやいた。
出張ってはいたのだ。
当日、現場まで駆けつけていたのだが、特殊犯罪課には出動要請がなかったので結局身動きが取れなかったのある。
悔恨の念にとらわれ拳を震わせる新堂など気にも留めず、真島は勝手に後部座席に乗りこんできた。
「おい、真島、だれが乗っていいっつった。タクシーじゃねえんだぞ!」
「けち臭いこと言うなよ。俺だってちゃんと税金払ってんだからさァ」
真島のマイペースぶりは今に始まったことではない。
乗り込んでしまわれては手遅れだ。
新堂もあまり人のことは言えないが、真島ほど協調性のない刑事はいないだろう。
スタンドプレーは真島の代名詞だ。そんな男は外してしまえばいいのだが、やっかいなことに真島は素行さえ除けば優秀な捜査官だった。
吉野はそんな真島のことを尊敬している節があるようで、新堂にとってはそれも頭の痛いところのひとつになっている。
「また、何か追ってるんですか?」
先輩の心配も知らずに吉野は後部座席を向いた。
「うん。デミ・ハーツをね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます