第8話 檜山進一郎の憂鬱 その1

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 檜山進一郎ひやま しんいちろうはなかば放心状態で窓の外を流れる景色を眺めていた。


 車内の時計は午前一時二十三分を表示している。

 真夜中だ。当然外は真っ暗、景色など見えるはずもない。

 窓には冴えない顔が映っていた。魂を抜き取られたような表情が闇の中にぽっかり浮かんでいる。とても二十四歳の顔ではない。


 檜山は大きなため息をついた。


「……ま、ひ……ま」


 疲れているのだろう。幻聴まで聞こえ――いや、ちがう。


「おい、檜山ァ。いつまでへこんでんだよ」


 罵声にも似た大きな声が隣から飛んできた。


「別にへこんじゃいませんよ……」


 それだけ答えて檜山は再び黙り込んだ。

 となりの運転席では相棒の真島耕平まじま こうへいがカーステレオから流れてくる曲にあわせてリズムを取りながらハンドルを握っていた。

 洗いざらしの髪、はっきりした眉に大きな目、ルックス的には整った顔立ちといえよう。それは檜山も認めている。


 しかし――。

 よくわからない男である。

 いくら先輩とはいえ、なんでこんな人と組んでるんだろう……と思ったことはとても両手の指だけでは足りないくらいだ。もちろん両足を足しても全然足りない。

 今日だってこんな時間に帰宅の途についているのはすべてこの真島のせいなのだ。


 檜山はバウンティハンターである。

 横文字にするとなんとなくかっこよさそうに聞こえるが、ひらたく言えば賞金稼ぎである。

 犯罪を取り締まり、犯罪者を検挙する組織として警察機構というものが存在する。警察があれは基本的に賞金稼ぎなどといういかがわしい商売は必要ではない。


 この世界でも警察はもちろん存在する。

 にもかかわらず檜山たちのような賞金稼ぎバウンティハンターが共存しているのは、やはり警察に問題があるといわざるを得ない。



 発端は十五年前、ある地方警察が暴露された、署員がしでかした犯罪を警察ぐるみでもみ消そうとした事件である。運悪く発覚してしまったこの事件はたちまち各地に飛び火し、瞬く間に警察不祥事大暴露大会というような社会現象まで引き起こした。


 弱り目に祟り目というように事件の捜査ミスも相次ぎ、警察の権威は地に堕ちたのだった。

 警察の抑止力が落ちると、当然犯罪者は増える。だらしない警察と古臭い憲法によって未成年、若年層の犯罪も増加の一途をたどった。


 そんな中で起きたのが、双子山温泉連続放火事件である。


 いっこうに犯人を逮捕できない警察に業を煮やした地元温泉協会は放火魔に懸賞金をかけたのだ。犯人を逮捕したのが保養に来ていた休暇中の刑事だったというのは皮肉な話だが、これ以降、事件に懸賞金をかけるケースが一気に広がったという記念碑的な事件である。

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