ドロップアウト・ランナーズ 〜賞金稼ぎ 檜山進一郎の不本意な日常〜
武城 統悟
第1話 帝東シティバンクの災難 その1
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その二人組が
背後で低い動作音とともに自動ドアが閉じていく。
二人ともまだ若い。推定年齢二十五歳といったところか。
野球帽を目深に被ったマスク姿の男たちは行内を見渡すと、背の高い方の男は受付窓口へ、背が低く小太りの男は順番待ちの客の元へと向かう。
背の高い男が窓口の女子行員に銃を突きつけ五千万出せと言ったのと同時に、小太りの男が待合の中年女性のこめかみに銃を押し当てた。
銀行にはこういった不届き物が押し入った場合を想定した非常時用の対応マニュアルというものが存在する。帝東シティバンクにも全五百八十二ページにおよぶ立派なマニュアルが備えられている。
マニュアルに従って順番に対処すれば、こんな事態など難なく対応できるはずなのだが、まさかこの支店に銀行強盗が来るはずがないという慢心と、読む気を退ける分厚さのせいで、このマニュアルを読破したものはおらず、結果誰一人満足な対応をとることができなかった。残念な話である。
「お前ら、こっちに来い」
のっぽの男がカウンターの中にいる行員たちにフロアに出てくるように指示を出す。
下手に犯人たちを刺激して銃を乱射でもされてはたまらない。一か所に集まれという犯人の指示に逆らうものはいなかった。
「おい、お前は金を用意しろ」
「え……わたしがですか」
受付で銃を突きつけられていた女性行員が泣きそうな声を出す。
フロアに座らされていた年配の男――この銀行の支店長――が、私がやろうと名乗りを上げた。
「ダメだ、この女に用意してもらう」
「金庫のセキュリティは私でなければ解除できないんだ」
そう言われては仕方がない。
犯人は小さく舌打ちすると、わかったお前がやれ、おかしなことはするんじゃねえぞと不満げに言った。
支店長はわかったと答えると、要求された金の用意を始めたのだが、緊張しているのかあまり手際がよろしくない。セキュリティに解除やら何やら手間取っているうちに時計の針が静かに三時を回ってしまった。
その時だ。
キュルキュルキュル――という音が外の方から聞こえてきた。
中で起こっていることなどおかまいなしに愚直なシャッターが毎日の日課を忠実にこなすべく下りてきたのだ。
「お、おい! あのシャッターを止めろ! 早く止めろ!」
犯人の剣幕にあわてた支店長が、いま止めますとあわててボタンを押した。
シャッターは止まらなかった。
かわりにジリジリジリジリ――というけたたましい非常ベルの音が行内に鳴り響いた。
こうして不運な犯人たちの銀行襲撃計画は、いつのまにか銀行人質立てこもり事件へとその様相を変えたのだった。
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